穿り返す思い出。
「威張り散らすだけなら可愛いものだ。あの小童に暴君は荷が重い」
「流石、灸を据えただけあるな」
ミゲルさんはレブや私達に対して責める様子は無い。しかしこの反応が世の全てではない。まして当たり前だが本人の気を損ねているのだから。依然、本人の気持ち次第で私達はどうにでもされかねない状況だ。
だけど話を聞くにあまり評判の良い人ではないみたいだ。口だけの人、か。確かに聞いてもいないのによく喋っていた。
「召喚士達だって誰もあのオージ様を助けには入らなかったろ?つまりはそういう事さ。本人だって分かってるんだ」
ミゲルさんは一度後ろを見たがすぐに向き直る。
「だから余計に見栄を張っちゃうのさ。自分は弱くないんだぞ、って」
「そんなの、逆効果じゃないですか」
強がって見せても周りには既知の事実としてとうに認識されている。だったら自分でも受け入れて……。
そこまで考えて、私はチコの方を見た。
「……なんだよ。こっち見んな」
「お前と同じだって思ったんだろ、ザナは。俺もだし」
チコが私の目線に口を尖らせ、フジタカの追撃に顔を真っ赤にした。
「う、うるさいっての……!今は……」
「あぁ、今は違うよ。それも分かってるって」
前はチコもトロノの召喚士育成機関で特待生という立場にあってちょっとだけ調子に乗っていた部分があった。しかし自分がフジタカを召喚していないと告げられて自信喪失。その後はしばらく荒んでいた。あの頃のチコにちょっと似ているのかも。歳は向こうの方が上だけど。
「先に大人になった様な顔をしやがって。今に見返してやるからな」
「見返そう、なんて考えがガキっぽいんだよ」
棘は出さずにフジタカがつつくと余計にチコの顔が赤くなる。もう、フジタカといいレブといい人を煽るのばかり上手いんだから。
「はーいはい!そこまでにしてね!君達だって、帰ってこってりおしぼりされないといけないんでしょ?」
「う……」
そこにパン、と手を叩いて鳴らし注目を集めたのがリッチさん。徐々に薄れていた意識を引き戻されて私達は帰路に立つ。ある程度を大人達に任せるにしても、押し付けてはいけない。いつまでも油を売ってはいられなかった。
「じゃあねん!怒られて凹んだらまたおいで!たっぷり慰めてあげるから!」
「カル達にはまた飲もうって伝えといてくれ」
「はーい……。ありがとうございました」
伝言を預かって外に出ると更に雪は積もっていた。深々と町を白く染め上げた氷の結晶を見るレブの鼻息は白い。
「そんなに話していたつもりはないのに……」
「うー、寒ぃ。さっさと帰ろ……うぇ、靴に雪入った!気持ち悪ぃ!」
雪の有無で町の景観は随分と印象を変える。その横でフジタカはすっかり静かになっていた町で一人声を張り上げた。
「お前は楽しそうだな……。こっちはどう言い訳したもんかずっと考えてるって言うのによ……」
そんなフジタカをチコは恨めし気に見ている。指で雪を掻き出したフジタカは腰に手を当てて胸を張った。
「だって、俺はそういう時に大抵何も言わせてもらえないじゃん。お前はインヴィタドだからって」
「お前の話をしてんだからお前が黙ってどうすんだよ!」
フジタカの言い分も分かるが、今回はチコの言う通りだ。必ずフジタカに話題の矛先が向く場面が現れる。その時も黙っていられるとは思えない。
「やべ……」
自分でも気付いたのかフジタカは口の端を痙攣させた。こちらを向かれても、模範解答は与えられない。私はレブの顔を見上げる。
「犬は雪を見ると我を忘れる、というのは本当らしいな」
「レブは忘れてない?」
王子の足元ぶん殴った張本人も同じなんだからね?と私が視線に籠めるとレブは鼻を鳴らした。
「ふん、弁明する理由は無い。向こうが勝手に騒ぐのなら、受けて立つまでの話だ」
こっちはもう最初から喧嘩腰だし……。あの副所長、なんて言うのかな……。
雪道を歩いてカスコ支所へと戻ると、なんと玄関にニクス様が一人で立っていた。
「もう少し掛かると思ったが」
「ニクス様……どうして?」
カスコの召喚士達が通り抜けはしているものの、カルディナさん達はもちろんトーロやライさんもいない。
「帰りを待っていた。そして、戻り次第部屋へ連れてくるようにも言われている」
「えっ……」
説教部屋への案内人としてニクス様に私達を待たせていた……?ちょっとトロノじゃ考えられない待遇だ。しかも召喚士は建物中にいるとは言え、一人で立たせていたなんて。気にせずニクス様は先に廊下を歩き始めてしまうので、私達も何も言えずに続くしかなかった。




