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火の無い所に佇んで。

 他にやりようはあった。それが炎を吐き出すか、魔法の雷を目の前に落とすか。若しくは穏便に話し合いで納得してもらうか。早々に処理するなら、やっぱりレブの取った方法が一番分かりやすいのだろう。だけどフジタカもカルディナさんも他の方法を選ぶべきだったと思っている。

 「カスコでも犬ころは一躍有名人になれたな」

 「……それも?」

 トロノに居た時のフジタカは確かに有名人だった。しかしそれはあくまでもセルヴァの英雄とか、身を呈してエルフの集落アルパを襲った悪の召喚士を倒した勇者とか。かなり肯定的に捉えられていた。途中で寄ったガロテでも、小さな犬の怪我を治療して話題にされている。

 だからこそ今回はどうだろう。イサク王子がトロノの人狼インヴィタドを迎え入れようとしたところ、手痛い反撃を受けた。……この文脈だけであれば、反撃を行ったのはフジタカとしか受け取られまい。

 「あり得なくはない、のかな」

 「勘弁してくれよ……」

 イサク王子や周り次第、かな。きちんとレブの仕業と言えばフジタカには何の影響もないだろうし。

 「こんばんは。リッチさんいますか?」

 話をしているうちにミゲルさん達の店には着いてしまう。カスコで肩身が狭くなるのは間違いなさそうだよね。私は気付くと降り積もった雪を踏み締めてできた足跡を一度振り返ってから、店の扉をくぐった。

 「おうザナちん!いらっしゃい!」

 顔を先に出したのはミゲルさんだった。遅れてリッチさんも奥から顔を見せてくれる。

 「ヨォ!随分早く来てくれたんだな!」

 「借りっぱなしは悪いので。とっても美味しかったです。ご馳走さまでした」

 ミゲルさんの横を通り抜けてリッチさんが私の前に立つ。

 「はい、確かに!」

 返した鍋と食器を数えてリッチさんはニッコリ笑う。

 「カルディナさんやトーロも美味しいって言ってましたよ」

 「だろぉ?」

 根拠は無いけどリッチさんは料理得意そう、と言ったら怒るかな……。厨房でニコニコしながら鍋を掻き回していそうというか。

 「でも、カルは大変なんじゃないのか?」

 「えっ?」

 リッチさんの肩の後ろからミゲルさんが顔を覗かせる。

 「ほら、何かしたんだろ?アラさんがさ?」

 「………」

 リッチさんに言われてすぐに頭を引き戻す。寧ろ、この場で言われると思わなくて一気に目が覚めた。

 「知ってるんですか?もう?」

 「あっははは……まぁ、そういう噂はすぐに入ってくんのさ。まして、すぐ近所だったし」

 ミゲルさんが苦笑して教えてくれる。直接見たわけじゃないみたいだけど、儀式見学の帰り道に立ち寄った召喚士辺りから聞いたのだろう。

 「で?で?どうしてそんな事になったのさ!」

 「ええと……」

 今回の話、大変な事とミゲルさんは言った。それに私達だってやり過ぎたと思っている。……その割に、リッチさんは楽しそうに笑顔を見せていた。ココの時は神妙な面持ちで聞いてくれていたんだけど……。

 私達と向こうの温度差に戸惑いながら私達が経緯を話す。その間はミゲルさんも様子がおかしく、口元を手で覆い隠す様に押さえて時折震えていた。

 「フジタカ目当て、ね……分からなくはない。分からなくはないんだが……くく、プクク……!」

 「ク、ク……クハーッ!ブハ、ブハハハハ!」

 「アーッハッハッハ!」

 最後まで話すと、遂にミゲルさんとリッチさんは耐え切れずに吹き出した。リッチさんがゲラゲラ笑うとそれに連鎖してミゲルさんまでもが腹を抱えて笑い出す。

 「笑い過ぎでしょ、二人とも……」

 自分の事も含まれているからか笑うのを止める様、最初に口を開いたのはフジタカだった。それでようやくミゲルさんとリッチさんも落ち着きを徐々に取り戻していく。

 「いやさぁ、よくやってくれたなと思ってさ」

 「よくやった……?」

 フジタカが聞き返すとミゲルさんは頷いた。

 「あぁ、そうだよ。あの王子様はカスコの民を思って何かする様な器じゃないのさ。少なくとも、今はまだな」

 将来性のある様な含みある言い方をして、ミゲルさんは顔から笑みを消した。リッチさんはまだ口角が上がりっぱなし。

 「あのお坊ちゃんはな。自分の持っている力をさ、楽しんでいるんだ。言っておくがそれは召喚術の力じゃない。もっと単純に、カスコの王族故の権力だ」

 ミゲルさんからの細く説明はさっき直接会った私達にはすんなりと受け入れられてしまった。俺のインヴィタド、とは言っていたが連れている様子も無かったし、力を示すかと思えばそのまま帰ってしまったし。

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