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軽はずみな重い一発。

 尾の先を微かに揺らして地面を叩いたレブに思わず表情が綻ぶ。難しい顔をしていても始まらない、かな。

 「お前達、天下のカスコにいる王子にケンカ売ったのによくのんびりしていられるな……」

 チコがしきりにキョロキョロと周りを見回しているので私とレブも改めて集会場に集まる召喚士達を見る。レブの拳を浴びて無事でいられる人間はいない。だけどあれだけさっさと帰ったのだから怪我はしていないとも分かっている筈。驚かせて転ばせた、ってだけでも良くはないんだけど敢えて問い質してくる人もいない。

 「ふん。先に売ってきたのは向こう。ならばあんな安モノを売り付けてくる悪徳商人には制裁を加えて然るべきだ」

 情けない、と言ってレブは目を瞑った。難義な、と言ってたしああいう人が上の立場にいるのが許せないのかな。

 「王子様に迫られてどんな気分だったよ、フジタカ」

 「からかうなよ。気色悪い」

 その言い方だとフジタカの立ち位置は物語で王子様が迎えに来たお姫様、かな。若しくは一目惚れされた町娘か。

 「……うん、無理あるよね」

 「さり気無く酷くね?」

 個人的な感想を呟くとフジタカの耳は当然聞き逃さない。

 「どっちかって言うとザナの方が王子様に興味あったんじゃないのか?」

 チコはなるべくこちらを見る召喚士達に背中を向けていた。気にしない風を装って私達は徐々に元々任されていた自分達の陣地に戻る。

 「知らない場所に住んでる知らない人だよ?名乗られても気付かなかったのに」

 名前は新聞とかで読む事はあっても顔を見る事なんてないしね。興味以前の問題だよ。カルディナさんに今の始終を見られていたら怒られただろうな……。

 ……それに、私には自分の元に来てくれた武王なんて存在が隣にいる。

 「………」

 「……別に」

 立ち止まったレブが目線を送ってきたから私は何も聞かれていないのに顔を背けてしまった。これではレブの事を考えていたのが丸分かりだ。

 「でも正直なところどうだったんだよ。王子の方に行けば毎日好きなもん食い放題だろ?」

 「お前の王子様像がどういうものなのかよーく分かったよ……」

 フジタカが苦笑する程にチコ描く王子の生活は極端に偏った想像だった。でも、私達一般市民の貧困な想像力じゃその辺りが妥当なのも頷けてしまうんだ。

 「きっと赤い絨毯が敷かれてて……」

 「フジタカみたいな毛皮が壁に飾られてるんだよな」

 「お前ら、全裸の俺が壁に貼り付いてたらどう思う?貼り付けられる側の方の身にもなってみろよ」

 そんなお城の優雅な暮らしに思いを馳せている間に時間は過ぎていく。イサク王子に出会って言われた内容を振り返ろうにもフジタカは完全に聞き流してしまった様だった。

 「大事は無かったか」

 ……しかし、それもニクス様達と合流するまでの話。まだ儀式を待つ子ども達はいたが、雪が思いの外降り積もってしまった為に翌日に残った数名は繰り越された。召喚士選定試験に関してはカスコ支所で時期毎に行っているらしい。私達の方で受け持つ分は特に無かった。

 「ええと……別に変わった事は特には!なぁ、フジタカ?」

 「俺に言うなよ!」

 集会場の小屋にぎゅうぎゅうに詰まって入った私達を前にニクス様が聞いてくださる。自分も魔力の消費でお疲れなのに気に掛けてくれるのは有難い。だから余計にチコも誤魔化そうとしてしどろもどろになっている。

 「はぁ。……ザナ」

 「はい」

 ニクス様の隣に立っていたトーロが代わりに口を開く。カルディナさんは急に私の名を呼んだトーロの顔を見上げる。

 「聞こえていた、と言ったら……後は分かるな?」

 トーロがチコを一睨み。私とレブは言い逃れはしない。

 「はい……」

 獣人の聴力を前に一発とは言え大きな音を立てた。その後集まった召喚士達もしばらくの間はざわついていた。それに気付かぬ契約者の護衛ではない。ライさんはわざと黙っているだけ。

 チコは無かった事にしたかったみたいだけどそうはいかなかった。結局リッチさんが持ってきてくれた鍋を洗っていたところにイサク王子が現れたところから全部話してしまう。カルディナさんは顔を真っ赤にするどころか最後の方は若干血の気を引かせて聞いていた。

 「イサク王子に……全力で殴り掛かったの」

 「人聞きを悪くするな。黙らせただけで傷は負わせていない。尻を擦り剥いたとしたら自分で転倒しただけだ」

 恐る恐る尋ねるカルディナさんにレブは当然の如く悪びれもしないで答える。

 「貴方、自分が何をしたか分かってるの!?この世界では契約者とはまた違った象徴の末裔を……!」

 「落ち着かないか、カルディナ……」

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