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自覚無き影響力。

 「なんか、なかなか取れないね」

 「気付けば生え変わってたりするんだけど、また汚れたりしてな」

 フジタカも気にしつつも半分受け入れている。赤と言うよりは茶色に変わって馴染んできたかな、と思うくらいで拭くのを止めてしまう。

 「これ以上は石鹸とか使わないとな」

 「そうだね」

 赤を気にするのはフジタカが血とかと間違われない様にする為だ。人によって怯えさせてしまうし。でも、フジタカみたいに服をちゃんと着ている大人しい獣人だったら疑われる心配もまだ少ないかな。それに、召喚士と同じ様に色々な事情を持ったインヴィタドも同じ様に多い。血が多少口に付着していてもそこまで気にされないのかな。

 「……よいしょ」

 借りた鍋や食器の洗浄も済ませた。帰り道にお店に寄って、リッチさんやミゲルさんにお礼を言わないと。ついでに何か買い物も、と言われたら何を買うかちょっと考えないとな。見返りを求めてやってくれた事ではないだろうけど、感謝の気持ちが言葉だけってのもね。

 「終わった?」

 「うん」

 やっぱり冬の寒空の下でざばざばと洗うのは手が痛む。すっかり肌が赤くなってしまった。赤みの強さで言えば洗った後のフジタカよりも上かも。

 「お湯で洗えればな」

 「外だもん、仕方ないよ」

 フジタカも気付いたのか心配してくれる。でも私は気にせず水気を払い、簡単に拭って籠に借りた食器をしまう。あとは返すだけかな。

 「これ、サンキュ」

 「うん」

 サンキュ、というのがありがとうという意味とは後から聞いた。だったらありがとうと発音されるのにフジタカはこの言葉を使い分けている。ちょっとした事への簡単なお礼というつもりでフジタカはサンキュ、と言っているらしい。

 「人間やデブはいいよな。汚れても拭えば簡単に落ちるから」

 「そんな事言われても」

 その分寒さには弱いから、こうして厚着しないとやっていられない。レブに至っては皮膚というか鱗だし。あれも油汚れとか落ちにくくないかな、弾くのかな。

 「デブも口拭いてやれば喜ぶんじゃないのか?」

 「えー……」

 フジタカが一度すすいでしっかりと絞ってから貸した布を返してくれる。ご丁寧に皺も伸ばしてくれた。干して乾かそうにもこの天気じゃ無理だし、暖炉まで持って行かないと。

 「そこまで甘えん坊じゃないよ。ふん、自分でこの程度拭える!とか言って長い舌でべろりぃって舐め取りそう」

 「あー……」

 私とはちょっと違う声を出してフジタカもその場面を想像しているみたい。今の声真似、上手にできたと思うんだけど感想はもらえなかった。

 「……なぁ、ドラゴンの唾液ってやっぱ凄いのか?」

 「え?どうしたのいきなり」

 目を閉じていたフジタカが急にカッと目を見開いて聞いてきた。私は返してもらった布をしまいながら逆に聞き返してしまう。そんな事を言われても特に知らないし。舐め取れば唾液のちょっとやそっとは出るだろうけど、ブドウを前にしても特にだらだら垂らしてはいない。

 「ほら、よくドラゴンの汗とか涙って宝石になるとか怪我が治るとか……あんだろ?」

 基本的に幻獣や精霊といったビアヘロに対して詳しくないのに、フジタカは妙に竜に関しての知識は豊富な気がする。フジタカの国って戦争は無いのにドラゴンや竜人はいたのかな。

 「……そういう話も聞くけど、私は使った人を知らないかな」

 強いて言うなら、ロルダンは老人でも破格の魔力量と体力を持っていた様に見えたけど……そんな話はしてないし。

 「ザナは使ってないのか?」

 「は!?な、なんで私!?」

 話の先が私を向いているなんて全く思っていなかった私は声を荒げる。その声にレブの後頭部が若干、こちらへ向けられた……様な気がした。

 「だって、デブと結婚すんなら……婚前交渉とか、あるんじゃないのか?」

 「は、はぁぁぁぁ……っ!?」

 気を利かせているのかいないのか、フジタカが声を小さくする。私も極力声量を抑えたが体中はもう一気に体温が上がった。

 「って、それじゃあ浴びるのは唾液どころの話じゃなくて……」

 「なななな、何を想像してんの!止めてよ!」

 レブの涎で健康や美容を保証されるなら、他の体液であれば、って……あぁ、もう!変な想像や心配を色々してしまった!

 「俺、まだ何も言ってないし。その様子だとまだ何もないんだな」

 「……当たり前、でしょ」

 そんな暇がないんだから……って、暇があるならどうだって事でもない。その辺はレブも承知してくれている。

 「待ってるんだぞー、アイツ」

 「……知ってる」

 そんなの、レブがまだ私より背が低い時から分かってる。こういう相談をまともにできるのって、寧ろレブ本人じゃなくて事情を知っているフジタカとティラドルさんくらいなんだよね。

 「レブの血なら飲んだ。だけど今の私はこの通り。何も起きてない、でしょ?」

 「……だったらいいんだけどさ」

 本人に調整してもらった部分が大きいけど、今はこうして健康に生きていられる。そして隣にレブがいてくれる。たまには日常の中でも思い出して、感謝しないとね。サンキュ、じゃなくてありがとうと口に出して。レブは気にするなと言いそうだけど。


 「おい、そこのお前達!」

 レブとの繋がりで私の体に生じる変化。レブの血液は劇薬と本人も言っていたし、フエンテにも若干勘付かれた。だけど今のところ私が感じているのは魔力の高まりくらい。それは必ずしもそのままとは限らないのかも知れない。フジタカは私に意識付けをさせてくれた。

 しかし、何よりもこの出会いが私達に変化を促したのかもしれない。

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