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肩の力を抜くのも大事。

 「言葉だけはこの世界に合わせさせる、ってのもつまんないだろ?」

 「そういうもんかな……」

 単に自分の言葉遣いを容認してほしいだけじゃないのかな、と感じてしまうのは私が注意してしまうから?……言って直るものじゃないだろうな。フジタカだって十七年はその言葉を使って生きていたんだし。

 「じゃあ話を戻して。フジタカ、何か感じる?」

 「昨日の今日だぞぉ?……って、言いたいところだが楽観視はできないよな」

 フジタカは集会場に集まった人々を一度見回す。私が言う何かとは、昨日の襲撃者を指していた。

 「少なくとも、今は感じない。昨日みたいなハッキリとした気配は感じないよ」

 「そう……」

 一つ脅威が減っている。寧ろ、心当たりがそれしかない今はロボが現れる気配が無いなら平和とも取れるぐらいだ。

 「あのさぁ。お前の感じ取る力ってのは昨日見せてもらったけど、それって相手が力を使ってない時でも感じ取れるもんなのか?」

 言葉にどこか陰りがあったのはそういう事か。チコの質問にフジタカは耳を畳んで頷いた。

 「それが分からないんだ……。昨日のだって、チコから魔力を貰ってたから探知できたってところまでは分かってるんだけどさ……」

 あの場にロボは自分の力を使って現れた。だからフジタカはロボを見付けられたのかもしれない、か。だとすれば……。

 「向こうが歩いてやってきたら分からない、って事?」

 「無いとは言い切れない……」

 フジタカはがくん、と肩を落として頭を垂れた。

 「気にしないで。昨日はそのおかげで未然に防げたんだからさ!」

 何かが起きてからでは遅いんだ。だったら昨日はニクス様の防衛を完全に成功させたのはフジタカのお手柄と言って間違いない。

 「フエンテは親父だけじゃない。ベルナルドと、ロルダンもいる。その二人は親父みたいな力を持っていないんだ。次に来るのはアイツらかもしれない」

 ロボにだってフジタカが自分の力を感じてあの場に現れた事にはとっくに気付いている。だとしたら、フジタカが感じ取れない程に遠い場所から一気に転移してくるか、さっき言った歩いてやってくるか。ただし、歩いてもフジタカが無条件にロボの力を感じ取れるのならば近寄ってきた時点で私達に見付かるだろう。

 私がもしもフエンテだったら堅実に別の者を寄越す……かな。自分をあっち側に置いて考えたくはないが、そうでもしないと先読みなんてとてもできない。

 「な~に難しい顔をしてるの?ザ~ナちん!」

 私を呼ぶ声に反応して顔を上げると、集会所の端でリッチさんが何かを二つ抱えながらこちらに手を振っていた。

 「リッチさん!こんにちは」

 「おう、こんにちは!フジタカも、チコも!」

 挨拶をすると大声を張りながらリッチさんはニコニコ笑いながら近付いてくる。獣人でもあそこまで表情をくっきりと浮かべているのはやっぱり商人だからなのかな。

 「そんで、アラさんも!」

 「うむ」

 リッチさんは忘れずにレブにも挨拶してくれる。心なしか、レブもリッチさんには警戒心をそれ程見せていない。

 「何か用事っすか?」

 「うんにゃ、差し入れ!」

 ぐにゃぐにゃに曲げた口角が大きく上を向いて見せる笑顔でリッチさんはフジタカに持っていた籠を差し出した。受け取った中身を見るとすぐに湯気が立ち上る。見ると中には小さな鍋と木の椀が幾つか入っていた。

 「これ……」

 「トマトと肉のスープ!冷めないうちにカル達にも渡しといてよ!」

 出来たてなのだろう、湯気を嗅いだだけでも急にお腹が空いてきた。言いながらリッチさんはレブにもう一つの籠も渡していた。

 「アラさんには、ブドウ!食べるのはスープで温まってからにしてね!」

 「後に食べる楽しみ、か。流石に分かっているな」

 籠の中にブドウが入っているのを確認してレブも笑う。リッチさんを前にしているからか、それともブドウのおかげかいつもよりも朗らかに見える。

 「ハッハァ!そういう事さね!じゃ、俺は戻るよ」

 「あ、ま、待ってください!」

 渡すだけ渡して帰ろうとしてしまうリッチさんに私から呼び止める。

 「なぁに?」

 「あの、どうして……?」

 寒いと思っていたところに丁度リッチさんから差し入れを頂けたのは心強い。だけど、こんなに急に貰うだけ、というわけにもいかなかった。

 「どうしても何も、僕達はお友達でしょ?お客さんでもあるけどさ」

 立ち止まったリッチさんは振り返るとこの季節でも丸出しのお腹を叩いた。この人の場合は温かいのはきっと毛皮だけのせいじゃないかな。

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