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正そう元が間違っていたら?

 「わざわざ持ってきてもらった物だ。頂戴しよう」

 カスコ支所内でなら、テーベの竜が持つ牙の力を調べられるだろうけど、今の私達には調べるよりも必要な物だ。ニクス様の判断で使ってもらおう。

 「契約の儀式は引き続き行うんですよね?」

 念押しする様に確認すると、カルディナさんはニクス様の方を見る。ニクス様はその視線に気付いているのかいないのか、静かに頷いた。

 「自分達は行動を起こし続けねばならない。例え、この世界の召喚士に狙われようと契約の儀式は続ける。……それが契約者だ」

 契約者は自分にその力があったから行使し続けるだけ。かつてのニクス様もそうだったが、今は違う。命を狙われてまで普通の契約者は儀式を行い続けるとは思えない。なのに、ニクス様が拘ってくださっているのは今までの経験からだ。


 幸い、未然に防げた事もあってレアンドロ副所長には持ち場を離れた事やロボとの遭遇の報告は最小限に留めるとの事だった。おかげで私は翌日もカスコ支所の外へ出られている。

 「寒い……」

 「雪は積もらないんだな」

 空から降り注ぐ雪という白い氷の結晶を見て喜ぶなんて子どもみたいな真似は今ではもうできない。かじかむ手を摩擦して熱を起こしていると、隣に立つフジタカは悠長に空を見上げて口を開けていた。チコとレブは契約を待つ子どもの親や見物に来た召喚士達に目を光らせている。

 「フジタカは温かそうだね」

 「自然に冬毛仕様になるからな」

 言われてみれば、出会った頃よりも体に厚みがあるような。

 「単に太っただけではないか」

 「お前が言うか!?」

 いや、レブの場合は太ったそういう問題じゃないと思う……。苦笑しているとフジタカは私の方を向いて顔を強張らせる。

 「なぁザナ!俺、ダイエットなんて必要無いよな!?この温もりは毛皮であって皮下脂肪じゃないよな!?」

 「だいえっと……は知らないけど、太ってはいないと思うよ」

 レブがふん、と鼻を鳴らしたのが聞こえた。チコはそんなレブを横目で見て笑う。

 「へ、へへ……そうだよな。増量したのは筋肉と毛皮だよな……」

 どこか自分に言い聞かせる様にしてフジタカは自分の手を見下ろす。昨日の襲撃を機に包帯を巻くのも止めたみたい。

 そう、まだ一夜しか経っていないのに私達の調子はいつも通りに戻りつつあった。それは召喚士とそのインヴィタドに襲われる、という特定の場面に自分達がある程度慣れてしまったからなのかもしれない。

 「……あのさ、フジタカってたまに変な言葉を使うよね?」

 昨日の襲撃はフジタカが怪我をしたものの、それは自力で即座に治してしまったから実質無効。無傷で状況を終了させられた、とは言い難いけど前日を引き摺る人は誰もいなかった。だからこそこんな話もまだ、していられる。勿論警戒は怠っていない。

 「変な、ってなんだよ。俺の世界というか住んでた場所じゃ当たり前なんだぞ」

 それだ。

 「だからさ、向こうの当たり前をフジタカはどうしてオリソンティ・エラでも持っているのかなって」

 「あぁー……」

 分かってくれたのかフジタカは地面に向かって自由落下する雪を見ながら顔を下に傾ける。

 「……なんで?」

 地面に触れた雪が同化して消えたのを見届けてから、顔を上げてフジタカはレブに尋ねる。

 「考えられるとすればビアヘロとインヴィタドの狭間に立つ者として召喚した弊害、か」

 嫌そうに口を曲げながらもレブはしっかりと答えてくれた。今までは何となく、フジタカはそういう言葉遣いの人だと思っていた。でもこうして理由を考えればもっともらしい考えも出てくるんだなぁ。

 「チコ、専属契約する時に言語系の呪言は刻まなかったの?」

 召喚陣には異世界と自分の世界の言葉を介する翻訳呪言を陣の紋様へ刻み込んでおく。だから竜人や獣人だろうと関係無く知恵さえあれば意思疎通はできていた。

 「そういうのって最初の召喚で済まされてるだろ?だから俺の時もいいかな、って思ったんだが……」

 だからレブは最初から私と言葉を交わし、今日まで何不自由無く話ができている。だけどフジタカはセルヴァに現れた時は、カルディナさんの召喚陣とチコの魔力を通して顕現していない。そこをチコは失念していたみたい。

 「専属契約したからってなんでも上手く話せる様になるわけでもないんだな」

 文字の勉強もあるし、とフジタカは付け足す。話を聞いていたレブは笑った。

 「良いではないか。私は犬ころの言霊は面白いと思っている」

 私から言わせるとレブにはフジタカの言葉は悪影響の方が多いと思う……。止める様に言っても隙を見ては妙な言葉を教わっているし……。

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