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 振り下ろされたニエブライリスを微かな身のこなしで避けると片手でロボは剣を横に薙いだ。剣はフジタカの肉を裂き、上腕がざっくりと切れて血を滴らせる。

 「ぐ……っ!」

 「む……」

 だらんと下げた右手で剣を持ち、フジタカは包帯を巻いた左手で傷を押さえる。ロボは追撃しようとはせずに傷を見ていた。私には咄嗟に反撃して、怪我を負わせてしまい動じている様にも取れた。

 「くっ!チコ!」

 「あぁ!来いやぁぁ!」

 フジタカはニエブライリスからアルコイリスを取り出す。その間にチコは自分の召喚陣からスライムを呼び出してロボに飛び込ませた。

 「無駄だ」

 勿論、時間稼ぎにもならず、ほんの一振りでスライムはフジタカのナイフと同じ力で音を立てて消されてしまう。

 「うぅ……っ。ぐぅ!」

 「フジタカ!?それは!」

 一旦距離を置いたフジタカの手元を見て声を荒げてしまった。だってフジタカが自分にナイフを突き立てようとしていたから。

 「見てなって……!」

 フジタカのナイフ、アルコイリスは金属輪を回して橙色に合わせられていた。あの色でフジタカが使った力は確か、傷を治す力。ガロテで出会ったアイナちゃんの子犬の足を治してあげたんだ。

 だけど、その力を使った直後にフジタカは倒れた。今この場で怪我を治しても倒れられたら、私達ではロボを止め切れない。それにあのナイフを自分自身に突き立てて何が起こるかなんて、フジタカは試していない筈だ。

 「止めろ!自分が何をしようとしているのか……」

 「うるせェ!」

 ロボを一喝して、フジタカは血の染み込んだ包帯を巻いた手で握ったナイフを自分に突き立てた。そして深々と付けられた傷をナイフでなぞっていく。

 「う、ぐううぅ……っ!あぁぁあっ!」

 ナイフの跡を描く様に微かに光は傷口を包み、フジタカのナイフが横に一閃されて腕から離れる。血に塗れたままではあるが、フジタカの右手には力が戻っていた。しっかりと剣を握り直してロボへと切っ先を向ける。

 「ふう……ふっ……!どうだ……!」

 フジタカは息を荒くしながらも不敵に笑って見せる。少し辛そうだが、前みたいにいきなり倒れそうな気配はしない。

 「へへ……!」

 チコもさっきの運動のせいか汗をだらだら流しながら笑っている。もしくはスライムとの魔力共有を切っていなかったのかもしれない。

 「……その力、出所はどこだ」

 ロボは剣をすっかり下げてフジタカを険しい表情で睨む。フジタカは胸をトントン、と二回叩いて自分を指差した。

 「俺と……」

 「俺の力だ!」

 私の隣で、チコが叫んだ。その直後、フジタカが左手の包帯を解いた。

 「なんと……愚かな!」

 包帯を解いて、ロボに手を掲げて見せる直前。微かに私の目にも映った。

フジタカの掌に、小さいながらも召喚陣らしき紋様が刻まれていた。ロボはその掌を見せられて吠える。

 「俺は!そこの浄戒召喚士、チコ・ロブレスと専属契約を結んだ!」

 フジタカの力強い宣言にチコも前に進む。

 「コイツの使う魔法に足りない魔力は、俺が補う!」

 「ぬかすな小僧が!」

 ロボが再び剣を構える。先程までとは纏う雰囲気が違う。込められた殺気が鋭く私達に突き刺さってきた。

 「余計な手間を増やしおって……!その契約は即刻破棄させてもらう!」

 専属契約の破棄。一般的にはインヴィタド、もしくは召喚士のどちらか一方が死ぬしかない。しかしもう一つある。それは召喚陣と同じだ、契約の印を潰せば良い。

 ロボがどちらの方法を取るか。彼の剣幕を見れば一目瞭然だった。

 「チコ、逃げて!」

 「できるかよ!」

 チコも剣を抜いて召喚陣を腕輪から抜き出す。その間にロボも動いた。

 「ふん」

 「ぐぅ!」

 レブが腕を振るい、雷撃がロボを狙う。それも前に出された剣を境に消されて、足止めにしかならない。

 「させねぇよ!」

 だが、目的は果たされた。レブの雷撃を足止めのみに利用するなんて贅沢な話だが、肝心な決定打を与える力を持っているのは、フジタカだ。

 「藤貴……お前!」

 「俺の召喚士に手を出されちゃ、困るんだよなぁ……ぁぁっ!」

 チコを庇う様にロボの前に立ちはだかったのは、彼のインヴィタド。フジタカ・ロボは臆せずに牙を鳴らして一歩踏み込むとロボの剣を受け止め、その半分を消し去った。

 「この力……っ!」

 「逃がすかぁ!」

 狼狽しながらも冷静に剣の柄を放ってロボは即座に後ろに跳んだ。フジタカが追撃をしようと腕を伸ばすが、微かに届かない。

 「ここまでだ」

 ロボの手にはフジタカのアルコイリスと同じくらいの大きさのナイフが握られていた。そのナイフも今までと同じ様に使えたのだろう、ロボの姿は急に消えてなくなってしまった。

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