なんとかの心、狼知らず。
「おぉぉぉお!」
フジタカがニエブライリスを振り回す。ロボも剣を抜いたがもう遅い。アルコイリスは赤に色を合わせられており、その力を発揮する。
「く、う……!」
前回と同じ流れだ。剣と剣とがぶつかり、そこに纏う力がぶつかり合って拮抗する。
「う、おぉぉぉぉお!」
「なに……ぃっ」
しかし展開が違う。フジタカのニエブライリスでもロボの剣は消えない。押し返されて二人は距離を取った。
「消えない……」
「当たり前だ」
フジタカ渾身の一撃を受け切ったロボが低くしていた姿勢を正す。それでもレブも私も今は仕掛けられない。
単純で迂闊な話だが、私とレブは町の中で戦う事を想定していなかった。ライさんだってレパラルで大暴れしたのは人が避難した後だったからだ。広範囲を一気に雷で焼く事で、このカスコではどれだけの人が巻き込まれるかなんて、考えるのも恐ろしい。
「前回はお前が気合いで押し勝った。だったら今回はお前以上の気迫を以て対すれば、俺が勝つ」
「違うな」
ロボの考えをレブは腕を組んで否定する。チコも息を整えながらレブを見上げていた。
「その言い分を通すのならば、お前はそこの犬ころに勝ってはいない。力を取り上げていないのだからな」
「………」
フジタカの手には未だニエブライリスが健在。ロボに勝った時の様に途中で折れているわけでもない。ロボも否定しないでレブを睨むだけだった。
「手心を加えたつもりだとすれば、その侮りは命取りだ」
「そういうこった!」
勢いに乗っているのはこっちだ。勝敗が気迫で変わると言うのが本当だとしても、フジタカの心は折れていない。
「ナイフを取り戻したいだけだ。残りは必要無い」
「このナイフも、ニエブライリスももう俺の物だ!欲しけりゃ腕ごと持っていくか!」
だけど疑問に思う事もある。フジタカを元の世界に帰そうともロボは言っていた。
「フジタカのナイフで何をする気……ううん、ナイフでフエンテは何ができるんですか」
「答えると思うかね」
……思えない。だからこそ。
「だったら、私達の前に立ちはだかる貴方はフジタカのお父さんでもやっぱり敵です」
きっと答えられても私達は考えを改められない。余計な問答だったかもしれないが再確認ができた。手加減できる相手でもない。
「仕方ないな」
ロボが腰に巻いた革の入れ物から何かを取り出した。レブは直後に翼を大きく広げ、力強く羽ばたき風を起こす。
「させん!」
「くっ!」
ロボの手から零れ落ちた小さな塊に見覚えがあった。しかしそれは屋根に触れる前にレブの起こした風に吹き飛んでしまう。
「スパルトイが召喚士だけの物とは限らぬか」
「………」
さしずめ、足止めにでもするつもりだったのだろう。この場合、吹き飛んだカドモスの牙はレブの言う事を聞くのか、発動しないのか。どちらにせよこちらで回収しておきたい。
「後は任せろ!」
再びフジタカは剣をロボへと向ける。ぶつかり合う刃が発するのは金属音や火花を散らすでもなく、妙に耳が痛い羽音に似ていた。
「……藤貴!自分の世界に帰りたくはないか……!」
ロボがフジタカの手首を掴む。片手でフジタカの両腕から繰り出される一撃を受け止めた腕力は手首を掴まれたフジタカには不利に働く。徐々に力負けし始めた。
「離せ!」
「俺とお前が争ってどうなる!このナイフを渡して……」
「渡して!どうなるってんだよぉ!」
フジタカが怒鳴り返してそのまま剣を薙ぎ払う。ニエブライリスはフジタカの手首を掴むロボの腕を狙ったが見切られて躱されてしまった。
「ふー!ふー!」
「……渡して、帰れ。向こうで待っている者達もいるだろう」
気が昂るフジタカに努めて冷静にロボは言う。だがフジタカは首を横に振った。
「誰がいるってんだ!自分は俺達も放ってオリソンティ・エラにずっといたんだろうが!なんで待っている誰かなんて曖昧なモノを捏造している!」
異変に気付いたカスコの住人達の声が幾つか集まっている。騒ぎ過ぎた。
「……独りだったのか?」
「独りにしたのは、誰だっ!」
フジタカがこれ程までに怒りの形相を浮かべるなんて、あの日以来だ。
「この世界でもそうだ!アンタの仲間に俺達はココを奪われた!その時は何をしていたんだよ!」
フジタカの悲痛な叫びがカスコに広がる。私が魔法で援護できないかと腕を掲げたが、レブは無言でこちらの肩に手を乗せて首を横に振った。この場は私達の出る幕ではない、と。
「俺は……」
「止められなかったから、俺はアンタと戦っているんだろうが!」




