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逆上がりを遡り。

 デブが言っていた。カスコに着いたらこの世界の根幹を知る機会が得られるのかもしれない、と。

 「わぁ……」

 「……わぁ」

 舗装された道の幅が一気に広がり、町に入ってほとんど同時にザナは周りの建物に声を上げる。チコの声は小さかった。

 「普通の町でしょ?」

 カルディナ姉さんが身も蓋も無い表現をしたものだからザナはおろおろと慌て出した。

 「そ、そんな事は……」

 「……正直、そう思いました」

 チコも初めて来る場所だと言っていたがどこか浮かない表情をしている。それどころじゃない、というか。

 「まぁまぁ……」

 「都会なんて、人が多いだけでそんなに変わらないって」

 ウーゴさんに続くとチコが俺に詰め寄って来る。

 「なんだよお前、一人だけ優等生ぶって」

 「別に……。特に何だかんだと期待はしてなかっただけだよ」

 大きな町だとは思ったが、それだけだ。だけど歩いてすぐに気付いた事も幾つかある。

 それは獣人の数だった。すれ違う召喚士が獣人を連れて歩いているんだ。その姿はそれぞれ違い、中には冬だって言うのに裸足に毛皮だけの雪男みたいなやつもいる。

 「……ん?」

 チコ達は俺やトーロとずっといたから気付かないんだろうけど、獣人が何人も歩いているこの町は俺から見ても異様だ。召喚士の町、なんて言われるだけの事はあるらしいとやっと気付いた。ついでにこうして見ると、服やら武器防具をもらっている俺みたいな獣人はレアなんだとも思う。

 「どうしたんだよ、フジタカ」

 「いいや……別に」

 しかし俺が足を止めたのは獣人達が寒そうだったからじゃない。アルコイリスが急に、マナーモードにした携帯のバイブみたいに震え出したからだ。まるで誰かに鳴らされた様な気がして、俺は一度後ろを振り返る。

 「………」

 だが、気のせいだったらしい。取り出してナイフを見てみたが、震えたり光ったりなんてしていなかった。……なんか変な生き物でもへばり付いたのかな。


 その後は震える事も無かったので俺は気にせずにチコ達と召喚士育成機関のカスコ支所に着いた。使える部屋が広くなったのはありがたい。しかも今回は俺にもベッドがある。

 「くぁー!疲れた!」

 ベッドに身を投げると毛布は冬用でふかふか。羽毛布団ってわけにはいかないからちょっと重たいが、温かければ文句は無い。やっぱ久し振りのベッドは心地好い。風呂にも早く入りたくなってきた。

 「……にしても災難だったな、あんなおっさんしか話を聞いてくれないなんてさ」

 この部屋に案内される前に会ったレアンドロ、っておっさんは感じ悪い雰囲気を全身に纏って俺達を見ていた。なんつーか、トロノのブラス所長とは違うタイプだ。俺達だけじゃなくてカルディナ姉さんの方がキレてたのも新鮮だったな。

 「そだな……」

 向かいのベッドに腰掛けたチコはどこか上の空だった。窓から射す微かな光に照らされていなくとも、その表情は明るくない。

 「……どうかしたか?カスコにガッカリしたとか?」

 俺が身を起こすと顔を上げたチコはゆるゆると首を横に振った。

 「ずっと考えてた事があるんだけどさ」

 チコが座ったまま身を屈め、指を顔の前で組んで俺の顔をじっと見る。

 「……聞いてくれるか」


 急に改まったチコを前にして、俺は少しだけ背筋を伸ばして話を聞く事にした。

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