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竜の皆伝。

 「ある意味不戦勝じゃねぇの?大口叩くなら、ライさんくらい剣の腕も上げて見せろよ」

 「言ったなぁ!」

 チコの言い分も、フジタカが反感を持つのも両方分かる気がする。ニエブライリスは他ならぬ、フジタカの力だ。それを使って戦う事に制限は無い。だけど、もしも何らかの理由でアルコイリスが使えなくなったら何も消せなくなる。その時に物を言うのはフジタカ自身の剣の腕になってしまう。

 「だったら明日は俺がお前のインヴィタドをケチョンケチョンにしてやるからな!」

 「ケチョンだかグチョグチョだか知らねぇが、だったら俺だってお前のその長い鼻へし折る気で行くからな!」

 心配せずともフジタカは剣の腕も底上げしたいと思っているみたい。だったら、錆止めをあげたのも無駄にはならないかな。

 「……でも、決行するのは明日だ。今日はもう疲れたし」

 勢い付いていたチコも魔力切れを起こしていたみたいで引き下がる。フジタカも力を抜くとチコの肩を叩いて歩き出した。彼もチコを気遣っている。

 「だな。……ザナとデブはこれからか?」

 「うん。ちょっとだけ」

 昨日倒れた割には魔力の回復が早い。お昼にウーゴさんと食べた酢漬けの野菜が効いたのかな。昨晩調子に乗ったばかりだけど、無茶しない範囲で日課にしておきたい。休む癖がつくと簡単には抜け出せないし。

 「そっか。今は誰もいないから派手にできるぞ」

 「ありがとう、お疲れ様」

 チコとフジタカの背中が見えなくなってからレブはゴキン、と自分の指を鳴らした。

 「派手に、か」

 早めに帰ってきたけど天気と季節も相まってもうだいぶ暗い。夕食もあるし、そこそこで切り上げたいがレブのやる気はブドウが補充し尽くしていた。

 「じゃ、行こうか」

 二人で扉を潜るとその先は夕暮れの平原だった。吹いている風も冷たいとはあまり感じない。

 「あのさ、レブ」

 身体の柔軟をしていたレブが動きを止め、腰を捻ってこちらを見る。

 「タムズと戦った時の事を覚えてる?」

 「貴様と専属契約を結び、接吻された時の話だな」

 最後の一言に昨夜の事を思い出して私は頬を押さえてしまった。それを見たからか、レブはつい、と顔を背ける。

 「と、とにかく……。覚えてるなら話は早いよ。あの時に使った魔法……あれならロボでも防げないんじゃない?」

 ロボの襲撃から数日、彼との決着は息子のフジタカがつけたがるとは思う。だけど私達にだってロボやそれと同じ力を有する相手との戦いに備えないといけない。ライさんもトーロも対策手段は既に考えている、

 その一番手はやはり、魔法だ。レブの雷撃すら無効化したあの力を上回るにはもっと広範囲で強力でなければならない。発想としては単純だけど、他の方法を弄するよりは力任せ故に確実だ。

 「……ふむ」

 私が何を考えていたのか読み取ったのかレブは柔軟を止めて異室に作られた平原の空を見上げた。

 「アレに耐えられる獣人なんていまい。……いや、生物はいないだろうな」

 私に言っているのではなく、レブの呟きは暗くなっていく空に沈む夕陽と同じ様に溶けていく。

 「我が奥義、アレは貴様の魔力が私の血によって暴走していたからできたものだ」

 皆が倒れ、私もタムズの毒針にやられて倒れていたのをレブが自身の血液を飲ませる事で救ってくれた。その代償として私の魔力線は暴走し、竜の血で溢れんばかりの魔力を生成し続けてしまった。真の姿を一瞬だけ取り戻したレブはわざと強力な魔法を発動して、私の魔力線が破裂しない様に調節してくれたんだ。だから私は今もこうして生きていられる。

 「その話は聞いたよ」

 レブの顔がゆっくりとこちらを向く。

 「言っている意味は分かっているな。貴様は、私の奥義を実力で再現させようと言っているのだぞ」

 確認なんてされるまでもない。そのつもりだ。

 「召喚士とインヴィタドが二人でやるんだよ。覚悟するのは……」

 人差し指をレブへと向ける。

 「ふん、私も同じだという事か」

 「そういう事」

 指した掌を返し、私は指を広げる。

 「お願い、力を貸して」

 「貴様は変わらないな。召喚士ならば命令すれば良いと言うのに」

 でもレブは知っている。

 「何度言われても私はそんな関係をレブに普段から強いるつもりはない。そんな縛りが無くてもレブは私に協力してくれるって……信じているから」

 レブの手がこちらの手に重ねられる。指を伸ばしたら私の肘まで届きそうな手はもう片方も出して包み込んでくれた。

 「良いだろう。貴様の願いは私の願いでもある。いずれは貴様も単身で奥義を放てる様にしてやろうではないか」

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