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行く先にこそ光在り。

 なんだか、久し振りに前向きなライさんを見る事ができた気がする。その表情は決してとびきり明るい笑顔とはいかないが。

 外に出ると時間も経っており、曇り空からはちらちらと白い雪が降り始めていた。それでもカスコを行き交う人々の数は多い。

 様々な目線があちこち交錯していたが、武装したライさんやレブに物申したり奇異の目を向ける者は少ない。決して私やウーゴさんが二人の護衛インヴィタドを連れた要人だと思われているわけでもなかった。

 単に、他の人々も緑色に燃える火の玉やスライム、精霊を連れているからだ。火の玉は暖を取るためにしても、なんだかカスコはインヴィタドを常駐させている人が多い気がする。

 「レブは寒くないの?」

 上半身、ほぼ裸だし。しかし愚問とでも言いたげにレブは胸を反らした。

 「この程度の寒暖に影響される私ではない」

 うーん、いかにもな答えが返ってくる。

 「それはいけない。こういう時は“貴女の手で温めてほしい”と言うべきだ。……なぁ?」

 そこにライさんが話に加わる。ライさんももこもこと厚みのある毛皮は温かそう。って!

 「な、何を言っているんですか!そんなつもりで言ったんじゃないです!」

 「……そうか、失礼。淑女に恥をかかせたかな」

 私達を知る者はこのカスコじゃほとんどいない。だけど、外では誰が聞いているかも分からないんだから。

 「……いえ」

 それにライさんは私がレブに何を言われたかなんて知らない、よね……?単なる相棒って事で人前には通っていると思う。それこそ、ニクス様とカルディナさんみたいな。……ちょっと、私にはオトナっぽさが足りないかもしれないけど。

 「……寒いのが苦手とは知らなかったが、毛皮も鱗も無いからな」

 レブはレブでまだライさんの話を真に受けている。人間は脆い。だけどそれを補うための衣類や武器防具は持っている。今だって、上着をしっかり着込めばまだまだ平気。

 「あまり降らないうちに帰りましょうか」

 「賛成です。もう少し見たい気はしますが、雪が積もって怪我はしたくない」

 こちらの提案にウーゴさんも乗ってくれた。なので町の探索は程々にして、道行く召喚士の様子を眺めながら私達はカスコ支所へと戻る。

 「ふぅぅ……。お?おかえり」

 暗くなる前にカスコ支所に戻り、ウーゴさんとライさんは自室で武器の手入れをすると言っていた。歩いていた道の途中で鍛冶屋を見付けたからそこに持ち込む前に検査したいらしい。魔法の炎を剣に纏わせていたのだから、少々不安なんだそうだ。

 私達が名も無き平原の部屋に向かうと、丁度フジタカが部屋からチコを連れて現れる。二人の手には数枚の召喚陣が握られていた。

 「ただいま。って、昨日はごめん」

 「平気そうならいいさ」

 二人にも心配かけちゃったし。この二人も私が倒れるのはそんなに珍しいと思ってないよね、きっと……。

 「特訓、してたの?」

 「そんなところさ」

 フジタカが背負ったニエブライリスの柄を叩く。それを見て私は彼へのお土産を思い出した。

 「あ、そうだフジタカ。これあげる」

 私の声と共にフジタカが反射的に出した左手へ紙袋を乗せる。

 「痛っ……!」

 その手には怪我で巻かれた包帯。その存在を無視して私は彼の手に錆止めを置いてしまった。

 「ごめんっ!フジタカ……大丈夫?」

 痛がるフジタカに手を引いてしまったが、フジタカはそのまま左手で紙袋の上を掴んだ。

 「いや、大袈裟に言っただけだって。……おぉ?錆止めじゃん!いいのか、これ!」

 「う、うん……」

 フジタカは平気な顔をして袋を開けて中身を取り出すと笑顔を見せてくれる。

 「ミゲルさんとリッチさんって覚えてる?二人が知り合いの店に今は間借りしているみたい。フジタカ達にも会いたがってたよ」

 忘れてはいなかったのか二人は顔を見合わせる。

 「場所、後で教えてくれよ。フジタカも行くだろ?」

 「当たり前だって!どこにでも居るな、あの人達」

 錆止めを見てにやりと笑うフジタカはもう再会を楽しみにしているのか尻尾も振っている。

 「それで、この部屋で何をしてたの?」

 「久々に召喚術の訓練だよ。サラマンデルやらスラレムやら、片っ端から呼び出してフジタカと戦わせた」

 通りでチコの前髪が汗で額にくっ付いているわけだ。息遣いもかなり荒いし、かなり激しく召喚術を行使したんだと思う。

 「そして俺とニエブライリスの力で全勝ってわけだな」

 フジタカは紙袋に錆止めをしまうと右手でとんとん胸を叩いた。何でも消せる剣としての調子も良いみたい。

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