身に付ける意味。
あれ、契約者が来たって事をまだ知らなかったのかな。ミゲルさんも含めてこの町じゃ多くの人が既に召喚士なのだから、あんまり重要な事でもないのかな。
「顔を出す様に言っといてくれよ。会いたいしさ」
「そうそう。良い眼鏡もあるんだよ」
眼鏡って私は使わないから分からないんだけど、そんなに頻繁に新しいのが欲しくなるのかな。幾つも持っている人はそんなに見た事が無い。どちらかと言うと、眼の代わりになるものだから貴重品の様に大切に長く扱っていると思う。カルディナさんの場合は召喚士としてビアヘロを相手にする場面もあるから壊れやすいかもしれないが、今のところ大事にしていた。
「カルディナさん達もお二人がいると知ったら喜ぶと思います」
忘れずに伝えないと、と自分に言い聞かせると私はリッチさんが作ったと思しき装飾品の棚に行き着いていた。この場所だけ、なんだか普通の雑貨屋さんから特殊な店へと異動した様な錯覚に陥る程に雰囲気が違っている。
「これ……」
フジタカのナイフの柄に嵌め込まれている物とは大きさがかなり違うが、アルコイリスだ。小指の爪程の大きさをした耳飾りだが、これだけでもアルコイリスとは十分に分かるくらいに輝かしい。その隣に置かれた翠色のエスメラルダがあしらわれた腕輪も、店の奥に並びながらも微かに反射して妖しい光を放っている。
「身に付ける物、そして石は感応し易い。だからこそ指輪や首輪は魔術に用いられる」
隣に立っていたレブが冷静に棚に並んだ装飾品を見て教えてくれる。カスコにある以上、そうした魔的な力を持った石が召喚術にも作用すると考えられているのかな。
「あはは……」
そこに苦笑しながらリッチさんが剣の錆止めを入れた紙袋を持って現れた。
「僕のはあんまり効果があるとは思ってないけどね。貴重な宝石とかもあるんだけど」
そこだけは別でしょ?と値札を指差す。……確かに、とても私が手を伸ばして良い金額の代物ではない。
「要は思い入れの用い方だよねぇ」
追加の硬貨と錆止めを引き換えにリッチさんは別の棚を見ているウーゴさん達の方を見に行ってしまう。思い入れ、か。
希少な物こそ力を得やすい、と言うのはそれだけ持ち主も思い入れを強く持ち易いという事かな。宝石でも、硝子玉でもどういう力や役割を与えるかは人次第なんだ。あとはその力を受け止める器量が石にあるかどうか。
「………」
きゅ、と私は胸の首飾りを押さえる。レブから貰った一枚の鱗に私は何を籠めるのだろう。そして、レブは私にどんな想いで渡してくれたのかな。
「……美味い」
ブドウを頬張るレブは幸せそうだった。……あぁ、そう言えばルナおばさんのところで白ブドウを貰った帰りに突然、鱗を一枚剥がしてくれたんだっけ。その時は装飾が中心で私が思う程、何かは考えてなかったのかな……。
「……一粒だけだぞ」
私の視線に気付いてレブがブドウを一粒だけ差し出す。私が口を開けるとそっとレブは指で押し込んでくれた。
「む、おいひい。……ありがと」
「買ったのは貴様だ」
だったら私には買ってくれてありがとうってのは無いのかな。でも、美味しそうに食べてくれているから言うまでもないか。
「いいねぇ、ザナちん!今日はアラさんとライ兄さん、頼もしい騎士が二人もいてさ!」
結局私達は錆止めとブドウぐらいで買い物は切り上げた。カスコから出る際はまた買い出しに来ると約束したし、次はカルディナさん達が行くだろう。リッチさんだってこちらの懐事情は察している。押しは強かったが引き際も非常にあっさり見送ってくれる。
「俺は騎士なんて呼ばれる程何かはできていないのだが……」
ライさんの表情が一瞬沈む。
「……だが、たまには悪くないかもな」
ふ、と短く笑ってライさんの表情が緩んだ。
「でっしょー?」
リッチさんがこうして笑顔で接してくれていたから、少しは和んでくれたのかな。私やウーゴさんが店を見て回っている時、リッチさんは同じ獣人だからかずっとライさんと話していた。もしかしたら住んでいた世界も同じか似ていたのかも。リッチさんも魔法は火を出せるって言っていたし、共通項を聞き出せたらどんどん入り込んできそう。
「じゃあな!カルによろしく!」
「また来てねぇ!」
見送ってもらいながらもライさんはまだ穏やかな表情をしていた。寧ろ、本人はもう少し留まっていたかったのかも。
「またカルディナさん達とも一緒に行こうか?ライ」
「……そうだな。その時もまた、騎士でありたい」




