知ってるようで、知らなかった。
「ハッハァ!見違えたよ、アラさん!」
アラさん……違和感のある呼び方に私は面食らったがレブは短く鼻を鳴らして笑った。その呼び方、満更でもないんだ。アラサーって言われた時は怒ってたのに。
「召喚士のおかげだ」
「そうかぁ、ザナちんが頑張ったんだな!」
ざっくりした説明にもリッチさんはニコニコ笑って褒めてくれる。こうも直接言われるとちょっとむず痒いと言うか……。
「……どうやったの?」
「自分でも何が何だか……」
ミゲルさんはやっぱり疑問に思ってこっちを見ている。しかし立ち話で話すには色々あったとしか言えない。
「それに……」
やっと二人の目が私達の背後に向かう。
「遅くなってすみません。こちら、今回契約者の護衛で同行してくれている……」
「……カンポの召喚士か」
紹介しそびれていたウーゴさんとライさんもやっと前に出る。しかし、ミゲルさんは名乗る前に二人に気付いていた。
「カンポ……」
ほんの一瞬、リッチさんの表情から笑顔が消える。そうだ、この二人はココの事を知っていると言っていた。
「ライネリオだ」
「ウーゴです。こっちのライとはカンポから来ました」
ライさんとウーゴさんの方は知らないのか、初対面の様に名乗った。ミゲルさん達は契約者の護衛を二人がしていたから知っていたのかな。
「ミゲルだ。こっちはリッチ」
「二人で商売やってます、よろしゅう!」
わざわざココの話をするでもなく、ミゲルさん達もあっさりと自己紹介を終える。
「ではこの白い建物は貴方達の……?」
ウーゴさんが建物を見上げると看板が一枚。木の板に雑貨屋と書いてあるが……。
「俺達の店じゃないんです。この店は昔からの知り合いがやっていて、そこにこのリッチの装飾品を置いてもらっていて」
ミゲルさんがリッチさんの肩に手を乗せると、リッチさんは鼻の下を指で横に擦って笑う。
「年に何度かは顔を出しているんだ。商品の補充もあるんでな」
「へぇ……」
ウーゴさんは興味があるみたいで店の中の様子を窺う。
「あいにく店主は少し外しているんだが……せっかくだし、見ていくかい?なぁに、見るだけで金は取らんよ」
リッチさんからの誘いにウーゴさんは一瞬身を引いた。
「私、少し見たいんですけどウーゴさん……時間大丈夫ですか?」
なのでこちらから。その一言でウーゴさんの表情は和らいだ。
「そう、ですね。俺も興味はあるので」
「決まり!四名様、ご案内!」
リッチさんとミゲルさんに半ば引きずり込まれる様に私達は店内へと案内された。中に入っても異空間という事はない。
「このお店、ブドウは無い、ですよね……?」
リッチさんの扱う装飾品という商品を考えれば無茶な相談だが、一応口に出してみる。
「ふふん、ザナちん……僕達はお客様の要望にお応えするのが仕事だよ?」
「じゃーん!」
言った傍からミゲルさんが持って来たのは大きな実の生ったブドウ一房。それを見てレブの目が大きく見開かれたので、私も硬貨を取り出して交換する。
「毎度!」
すぐにレブに渡してやると一粒もいで口に入れる。
「どう?」
「染み渡る……」
そんなにしみじみと言われるとこちらも買って良かったと思う。シタァに着いて、ガロテを経由してカスコに着くまでしばらく食べてなかったもんね。
「ブドウ酒もあるぜ、アラさん!ライ兄さんもどうだい?」
今度はリッチさんが瓶を二本持ってきた。それぞれ違った銘柄の葡萄酒らしいけど……。
「酒は一番美味いものを知っているのでな」
「む。そいつは残念」
言ってくれるのは有難いけど後ろでライさんが飲みたそうにしていたよ、レブ。だけど一度お金を支払えば私達はもう立派な客……だよね。あまり買い物ばかりはできないけど、じっくりリッチさんの作品を見るには良い機会だ。
「やっぱりライ兄さんには錆止めか?」
手数は揃っているというか、拠点だけあって今日のリッチさんとミゲルさんは押しも強い。ライさんが興味を持ちそうな別の商品もすぐに取り出す。
「ライにはそっちの方が良いな。買っておこう」
「すまない」
ウーゴさんも所狭しと棚の上に並んだ品揃えを眺めながらも話は聞いていた。剣の錆止めってフジタカにも要るよね。
「私にも下さい。フジタカ、多分持ってないから」
「ありがとー!」
お土産と思えば、フジタカは喜ばないと思うけど。毎回トーロに分けてもらうわけにはいかないしね。
「うん?あの人狼のお兄さんもいるのか。だったらカルもいるんだな?」
「はい。今はカスコ支所にニクス様やトーロと一緒にいると思います」




