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何かが起きた一夜。

 「試しても?」

 「構わん。私の召喚士は貴様だ」

 命令するくらいの気持ちでやれって事ね。だったら……。

 「雷よ重なれ……」

 「阻む物全て破砕する竜よ、その雷鳴を轟かせろ……!」

 レブが隣で私と声を重ねる。辺りが光に包まれた途端、私の意識は急速にしぼんで、途絶えた。

 「………」

 「目が覚めたな」

 目を開けると、私とレブがカスコ支所で借りた部屋に戻っていた。しかも、あれだけ言ったのにレブに使う様に言った大きなベッドに私は横たわっている。

 「犬ころが心配していたぞ」

 「ええと……」

 記憶ははっきりしている。レブと魔法を使って、急に……。

 「……倒れたんだ」

 「久し振りにな」

 起き上がって私はレブに頭を垂れる。

 「ごめん……。調子に乗り過ぎたね」

 全快の時ならまだしも、消耗した状態で一気に魔力を解き放つなんて真似は普通に考えてもすべきじゃなかった。

 「あれ……」

 外を見るとまだ暗い。

 「もうしばらく寝ていろ。夜明けまではまだ時間がある」

 そんなに長い間意識を失っていたわけじゃないんだ。魔力の調子は……うん、レブに送っている分で精いっぱいかな。

 「調子に乗るのは悪い事ではないぞ」

 「……もしかして、倒れるって分かってたでしょ」

 私が言うとレブは鼻を鳴らして笑った。

 「貴様を抱き抱えたくなったのでな」

 「船旅でも散々抱えてたじゃない!」

 うん、叫ぶ元気はあるかな。しかしレブは起き上がろうとした私をそっとベッドに寝かせる。意識を失う前に私を撫でた時よりも力を抑えてくれていた。

 「弱った召喚士が吠えるな。堪えるだけだ」

 「……明日は」

 レブは首を横に振る。

 「その消耗で他に魔力を使おうなどと思うな。今度こそしばらく目を覚ませなくなるぞ」

 見切って数時間倒れるぐらいにレブが調整してくれていたんだろうな。

 「……明日は町の散策。ちょっとだけ散歩しようか」

 だから今晩はレブの言う通りに寝させてもらおう。体は気だるく重い。目を閉じればすぐに眠りに落ちそうだった。

 「承知した」

 召喚士だらけの町、カスコ。この町は育成機関の教育を離れた召喚士の方がずっと多い。そんな人達の暮らしを遠巻きに見るだけでも刺激は貰えそうだ。自分から発する事ができないなら、相手から頂く日も設けたい。

 「おやすみ」

 何気ない、当たり前の言葉。だが今日という一日を終え、明日を気持ち良く迎える為に相手へ送る挨拶。言ったから、言われなかったから実際に体調が変化する程の力は持っていない。だけどこの言葉をレブに贈りたい。今日までを共に過ごしてくれた彼にこれまでも、そしてこれからも。

 「あぁ、おやすみ」

 二人きりの時だけ返してくれる様になったこの言葉に目を瞑ったまま私は微笑む。同じ様に想ってくれているのか、それとも億劫に思いながら返してくれているのかは分からない。だけど……。

 その時、ベッドが軋んで頬に何か触れた。ほんの短い間押し付けられたそれはひんやりとして、一気に目が覚める。

 「……?」

 頬に触れた何かが離れて一秒、再びベッドが軋み私は目を薄く開いた。映ったのはレブの背中が隣のベッドへと移動する姿だった。

 ……レブが私に覆い被さって何かした?頬を触った?どうやって?どこを使って?

 「………」

 自分が何をされたのか想像して私は極力自然体を装って寝返りを打ってレブに背を向けた。頬がどんどん熱くなる。

 指?いや、それにしては爪程は鋭くなかったし小さい気がする。じゃあ、掌かと言われるとそれはあまりにも大きい。だったら何が一番適してるかと言われると……。

 強いて言うなら口先、とか。そう考えた途端に私は今すぐに毛布を蹴飛ばして部屋から出て行きたかった。しかもそんな事を考えて外れていたら?爪の腹を少し押し付けてただけとかだったらもっと信じられない。

 ……レブに口づけされた、かも。こんなんじゃ、おやすみと言われたのに、考えるだけで休めないよ。


 窓の外を眺めて時間が過ぎて、段々と空に青みが増していく。外で鳥が飛んでいくのを見掛ける頃には町の人々も徐々に起きて活動し出している生活音も聞こえてきていた。

 目を閉じて映るのはレブの顔がどんどん近付いてくる場面。実際にはそんな風に露骨に迫られた事なんて一度も無い。なのに、うとうとしては背後にいる彼の姿を正面に思い浮かべてしまっていた。

 「……おはよう」

 「確かに、寝たにしては早いな」

 もぞもぞと寝返り、振り返ればベッドの上でレブは胡坐を掻いて腕を組み、静かに目を閉じていた。話し掛ければ既に起きていたのかすぐに目を開けこちらを見る。

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