変わり化けるか、進み化けるか。
「暴れさせるって……良いのか?体とか」
「見て回ったりもするよ?でも、それとこれは別」
カドモスには油断していた隙を突いたから勝てた。ロボにはフジタカが立ち向かってくれたからなんとか追い返せた。その二つはレブにとって、納得のいく勝利ではない。
この平原なら私だって場所を構わず召喚陣の発動も、魔法も試せる。召喚士がインヴィタドから教わった魔法もこれからは必要になる機会が増えてくる予感がした。
「じゃ、行くよ……!」
「あぁ」
レブが飛び上がった。私は彼に向けて手をかざした。
「雷よ……。レブを貫け!」
召喚士が自らインヴィタドに魔法を放つ。通常であれば立派な暴行になるのだろう。だけど相手は雷の直撃をものともしない竜人だ。
「見事」
手からほとばしった雷撃は違わずレブに向かって飛ぶ。思い描いた直線を描いて夜の平原に閃光が走った。私でも、臆病風に吹かれでもしないで立ち向かえば、生き物のビアヘロだったら深手も負わせられる。
ただし目の前にいる相手は称賛を私に寄越したものの、まったく意に介していない。
「もう一撃!」
前の私であればこの状態で挫けていた。しかし、今回は以前と違う状況が二つ。
「む……っ」
私はかざした手をギュッと握り締めて胸を押さえる。レブの表情も変わった。
「落ちろぉ!」
バァァン、と音を立てて雷が天から降る。紫電の矢はレブの頭頂から入り、爪先を抜けて地面に穴を空けた。
「う……」
違う状況の一つ。それは私の魔力が増強されている事。
そしてもう一つは、レブが空中にいる事だった。今回も痛手にはなっていない。しかし私の中で掲げていた目標、レブを私の一撃で動かす事には成功した。今までのレブは微動だにせず私の魔法を浴びているだけだったから。
「はぁぁぁぁぁ!」
流石に空中で魔法の衝撃を浴びればレブを相手にも体勢は崩せる。ゆっくりと降下してきたレブに私は駆け込んだ。
「まずは……」
「はぁっ!」
そのままレブの胸板に手を置いて、更にもう一撃。自分の手から発した光に目を灼かれぬ様、目を閉じて雷撃を浴びせる。
「……う?」
恐る恐る目を開けると、当に光は収束して消えていた。目の前にあるのは岩壁の様なレブの肉体。
「………まずは、及第点だな」
顔を上げると、レブは私を厳しい目で見下ろしていた。視界の端からレブの手がぬっと現れ、私の顔を握る様に覆い被さる。
何をされるかと思えば、そのままレブに頭を撫でられてしまう。少し強い力で髪を撫でられて頭も揺れた。
「……もしかして、やり過ぎた?」
着地しようと下りていた時点で何か言おうとしてたもんね。やるだけやってみたんだけど……。
「いや。仕留めるのなら弱った相手にもう一撃。常套手段だ」
強がるでも、弱っているでもなく平然とレブは答えてくれた。
「まさか貴様が落雷を狙うとは思っていなかった」
「そうだよ!やるじゃん!」
後ろを向けば、フジタカとチコもこっちへ駆けてきた。
「今の……狙ってやったのか?」
チコは空を見上げていたが、もう落雷用の雲は消えている。夜だから影で気付きにくかったってのもあるんだろうな。
「うん。当てられるかは分からなかったけど」
レブならもう極太の雷撃で地表を焼き払うなんて真似もできるのだろうけど、私にはせいぜい対象一体に浴びせるのがやっと。空中のレブに当てられればよろめかせる事はできると思っていた。……でも、本当に裏をかいたのかな。その気になればレブも避けられたと思う。
「貴様の魔法の威力も上がっている。あれだけ離れた位置から当ててきたのだからな」
「えへへ……だったらいいな」
自分でも思ったより飛んだな、とは感じていた。魔法は発動して起きた結果の予測が大事。予想以上に派手に発動してしまうのもまた、自分の魔力を制御できていない事になってしまう。だが、自分がどれだけできるか自覚するにはやっぱり使ってみるしかない。そういう意味でレブは本当に良い訓練相手だった。
「次は私の番だな」
問題はレブの発散だ。私は彼の魔法を受けるなんて真似はできないし、魔力も私次第でしか使えない。
「今日はいつもより派手に使っていいよ……!」
ただし付き合う覚悟はできている。魔力は精神力が物を言う世界だ。気持ちだけでは足りなくても、気持ちが無ければ使えない。
「よくぞ言った」
レブも最初の私と同じ様に前へ手をかざす。私も彼の隣で手を前へ突き出した。
「ねぇ、二人で魔法を使うとどうなるのかな」
「貴様の負荷が倍……若しくはそれ以上に増えるだろうな」
想像通りの答えだったが、望むところだ。時間を掛けたいところだけど、日中も軽く魔法を使っていたので魔力の残りは少ない。これで使い切るのも悪くないと思う。




