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優先順位。

 カルディナさんと一緒に男の召喚士も説明してくれた。もっと驚くってこういう事だったんだ……。

 「こちらでお待ちください」

 通された客間は、特に何の変哲もない部屋だった。しかしこの場へ辿り着くまでに見たものは、他にも回ったどの育成機関とも違っていた。

 「カスコ支所って凄いところなんですね……」

 「それがまた、少し違うの」

 客用の椅子はインヴィタド達の分もしっかり用意されていた。用意はされていたんだけど、面子がどうしても肉厚な為、若干窮屈そうだった。全員尻尾持ちなのも邪魔になっている。

 「……違う?」

 場所の取り合いでレブがフジタカと体を揺らし合い、ライさんとトーロが何も言えずに顔を背けている。その様子に苦笑しながらも私はカルディナさんに振り返る。

 「この空間はね、召喚士育成機関だからこそ成立しているの」

 「逆を言えば、この建物を出ればもっと混沌とした異世界を広げている召喚士もいる」

 カルディナさんに補足してくれたニクス様の一言で少し寒気がした。もしかして、今まで通って来た建物も扉を開けたらとんでもない場所に通じていたりする……?カスコ支所だからせいぜい一室で済んでいただけなんて考えるだけでぞっとする。

 「それができるから、この町はオリソンティ・エラの中心になったとも言えるのでしょうね」

 「へぇ……」

 地図帳で見ていた景色に私は歴史の背景をあまり勉強していなかった。そこにどんな話が根付いているか知っていても、その根本を理解していない。カルディナさんやニクス様はそれも含めて経験で知っていたんだ。

 「でもあちこちが半分異世界に足を突っ込んでる場所になんてよく住んでいられるよな」

 フジタカの言い分にカルディナさんの眼鏡が光る。

 「そう。でも、危険を冒さないと得られない物もある。貴方だって分かるでしょう?」

 異世界から力を招く為に発動した召喚術によって現れた何かに自分が負ければどうなるか。場合によっては大怪我ですら済まないなんて事は誰にでも分かる。

 決して安全、ではないんだ。でも、挑戦し続ける人達がいたから今日のカスコがあるのもまた事実。フジタカもすぐに察して言葉を引っ込める。……そう、私達からすればどこだって危険なんだもの。

 「もちろん、未知の危険がある一方で別の場所では対処できない事案をこのカスコなら防げる例もたくさんもあるのよ」

 「分かりますけど……」

 そこで客間の扉が開かれる。中に入って来たのはこざっぱりした短い白髪交じりの男性だった。

 「失礼、お客人」

 重い圧を乗せた声が発せられると同時に召喚士全員とトーロが立ち上がる。男性は私達よりも後ろのインヴィタド達に注目している様だった。

 「ふ……。楽にしてください。話は少し聞いておりますので」

 扉を閉めて笑った男性が座る様に促してくれる。私達が座ったのを確認して、正面に腰掛けた。彼もまた、腕輪を巻いた召喚士だった。

 「ようこそいらっしゃいました、契約者ニクス様。そして、トロノの若き召喚士達。私はこのカスコ支所で副所長を任されております、レアンドロと申します」

 レアンドロ副所長、と聞いてフジタカがうん?と声を洩らしたのが聞こえた。私だってたぶん同じ事を考えている。

 「所長はただいま席を外しております。用件はこちらにお伝えください」

 そう、所長が直接出てこない。今までの所長達なら自分の用事を放ってでもニクス様に会っていた。それが今回は歓迎はされているが、こうも反応が淡白とは。今までが今までだっただけにフジタカもそわそわしている。召喚士の町だからこそ、契約者が大事ではないのかな。それとも、契約者よりも大事な何かがあるのか。

 「フエンテ、の話はどこまで伝わっている」

 気にした様子は無くニクス様も用件を伝える。その名を出すと流石にレアンドロ副所長も眉根を動かした。

 「カンポで猛威を振るった、育成機関が知り得ていない召喚士集団……。この召喚士の町、カスコでも知っている者はそう多くない。トロノの所長、ブラスからの報告書はこちらで確認しましたが」

 じゃあ、もうある程度の人は知っているの……?ライさんが短く唸ったのも聞き逃せなかった。

 「自分達は数度、道程を阻まれながらこのカスコにまで来た」

 ふむ、とレアンドロ副所長は背もたれに身を預けて顎から生えた短い無精髭を抜いた。

 「保護のご相談、でしょうか」

 「違う」

 副所長の予想にニクス様は首を横に振る。何度も無理をしてでもカスコに来た理由にしてはその考えは浅い、と言わざるを得ない。

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