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召喚士の町、カスコ。

 「この後、もっと驚く事になると思うわ」

 カルディナさんは私達の新鮮な反応を楽しむかの様に笑うと先を歩き出す。向こうもこちらがトロノやカンポの方から来た召喚士だからか、たまに視線は向けられたがわざわざ声を掛けてくる人はいなかった。

 「これが……」

 立ち止まって目の前にそびえる建物を見上げてチコは顔を大きく上げた。遠目から見えていた建物に近付くにつれて私も首が痛くなってくる。これが召喚士育成機関、カスコ支所だった。

 全部で五階建てのレンガ造りの建物は物々しい雰囲気を携え町の中心近くに構えていた。更に遠くへ見えるカスコ城はそれよりも更に一回り以上の大きさを誇っているのだから……。

 「拳だけなら壊し甲斐がありそうだ」

 そうじゃなくて。

 「あっちのお城に行く事は無いかな」

 用事無いもん。このカスコを治めるだけの力を持った召喚士の家系、オリソンの名を代々継いで今も王様として暮らしているって話。私達ボルンタ大陸の者達からすれば、あまりに遠い場所での話だったからいまいち実感が湧かない。そんな他人事でいちゃいけないのは分かっているんだけどね。先代が崩御されたというのもひと月以上経ってからシルフの噂で聞くくらいだったし。

 「レブはどんなところに住んでたの?」

 どちらかと言うと私は隣に立っている相棒がどんな暮らしをしていたかの方が気になる。ニクス様やティラドルさん、それにカドモスからは武王なんて呼ばれているくらいなんだし。

 「山の頭頂に穿たれた岩窟だな。気に入っている場所が幾つかあった」

 竜人達が文化的な暮らしをしている話を聞いていただけに、レブも準じているかと思ったけど、そんな事はなかった。ある意味予想通りだけどね。

 「ティラの様な連中とは一緒にするな」

 「そうらしいね……」

 でも、前より自分の話を簡単に聞かせてくれるようになったのは自分でも気付いているのかな。

 「二人とも、入るわよ」

 「はい」

 しかしそれを指摘する間も無くカルディナさんに呼ばれて私達は最後にカスコ支所内に足を踏み入れた。

 「う……!」

 しかし一歩中に入った直後に足が止まる。その光景があまりに異様だったからだ。

 「驚いた?」

 予想していた反応をしてしまったのか、カルディナさんとトーロがまたも笑う。

 「面白いな、この場所は」

 私のすぐ後ろでレブが感想を洩らす。おかげで私も平静は保っていられた。

 トロノ支所の倍以上に大きい広間。そこの壁一面には紫色の蔦が絡まり合って伸びている。禍々しく脈打って養分か何かを奥へ運んでいるらしかった。

 外観に反して中身が明らかにこの世界でない物が詰まっている。漂う冷気は外の季節と違う、何かの吐息を思わせる様に定期的に吹いては止みを繰り返していた。

 「なんですか、この場所……」

 私達を案内しようとしてくれていた召喚士の人にも笑われている。

 「面白い、でしょ?ほら」

 レブの言葉を拾ってカスコ支所の召喚士が手近な扉を一つ開けた。するとそこは真っ暗な部屋に召喚士が一人佇んでいた。

 「うん?」

 扉の音に反応したのか部屋の召喚士が反応する。しかし直後に動いたのは本人ではない。扉に紋様が浮かび、アルゴスの持っていた様な大きな目玉が一つ現れた。

 「どうした?」

 目玉が扉を開けた召喚士の方を向き、部屋の人はこちらに背を向けたままで動かずに喋っている。

 「ボルンタとカンポからの客だ。契約者もいる」

 「契約者……?」

 目玉がこちらを見てキョロキョロと動き、ニクス様の方を見付けると視線が固定された。

 「と、これはいかん。契約者を前にしてこの様な真似……」

 「いや。術の途中ならばいい。邪魔をした」

 ニクス様が首を振ると、受け付けてくれた方の召喚士が扉を閉めてくれる。扉に出てきた目は閉まるまでこちらを向いたままだった。

 「……召喚試験士、ですか?」

 「いや?彼も浄戒召喚士だよ」

 チコの質問に何気なく答えて廊下を進む。所々、扉の前から異様な熱気を感じたり、植物がはみ出た扉も散見した。

 「この地……いや、この施設は直接異世界に通じているらしい」

 「え?」

 私が聞く前に疑問に思っていた事をレブの方から説明してくれた。部屋ごとに違う世界に通じているって……。

 「私達が通る門ではない。だけど、特殊な召喚陣で一室程度なら異界化に成功したのがこのカスコ支所よ。今の部屋の人は、恐らく新しいインヴィタドを呼び出している段階だった」

 「他の機関で試験士がやっている真似事を、このカスコなら誰でもできてしまうんだ」

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