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負けを惜しみ、勝ちを狙う。

 刀身の途中に設けられた窪みはアルコイリスの足りない長さを補う物だった。光を散乱させる霧は人の目を曇らせると同時に、虹は虹のままに輝きを広げる。霧虹ニエブライリスと名付けられたその剣は、刀匠セシリノさんとポルさんの望み通りにアルコイリスを受け入れフジタカの力を強化した。

 「これは……」

 信じられない物を見る様に、ロボは自分の手元を見ている。そこにあるのは途中で折れてしまった彼の剣。フジタカの剣には関心を向けていない。

 それはフジタカの剣が優れていると彼が思っていない証拠だ。ならば、彼が今口元を震わせているのは自分の力が……フジタカに競り負けたと知ったからだ。

 「形勢逆転だな」

 ニエブライリスの切っ先を向けてフジタカが宣言する。

 「……これだけ力を身に付けていたとはな」

 やっと顔を上げたロボの表情は苦い。

 「俺の力じゃない。俺達の力だ」

 腰を下げて剣を溜めるフジタカを見てロボは鼻を鳴らして短く笑った。

 「僥倖だ。その力は必ず使う日が来る」

 フジタカは首を横に振る。

 「そんな日を来させない為に今、こうしてるんだろうがぁ!」

 「さらばだ」

 叫ぶと同時にフジタカが踏み込む。今度こそニエブライリスの剣がロボを捉えると思ったが、剣が袈裟懸けに振り下ろされる前にロボの姿は消えてしまった。剣は虚しく空を裂く音だけを響かせ溶けていく。

 「あ……」

 剣がぷるぷると震えた。

 「勝手にどこ行きやがったぁ!」

 空に向かって吠えようとフジタカの声に返事をする者はいない。剣を折られた事でロボはどうやら撤退したらしい。

 「消えた……」

 「気配を探ろうにも、ああも騒がしくてはな」

 街道外の草むらを踏み潰しながらフジタカはうろうろと歩き回る。ロボを探していると言うよりは取り逃がした苛立ちと興奮が治まらないと言ったところか。

 「フジタカ!」

 「………ザナ」

 こっちがまだ周辺に何かいないか気にしても、フジタカの気が逸れていては守れる者も守れない。

 「……凄かった。使えたじゃない、ニエブライリス」

 「俺……。そうか……」

 やっと立ち止まったフジタカが自分の手を見下ろす。その手には今もしっかりとニエブライリスが握られていた。

 「……すー…」

 深呼吸してからフジタカはニエブライリスの金具を解除し、ナイフ部分だけを取り出してから背中の鞘に収めた。

 「ふぅ」

 やっとフジタカの肩から力が抜ける。表情を少しだけ緩めて彼は黙って立っていたレブの方へ歩いていく。

 「なんとかなった」

 「その様だな」

 突き出したフジタカの拳にレブが応じ、同じ様に握った拳をこつん、とぶつける。

 「……でも、逃げられちまった」

 「私では追い返す事もままならかった。この場を救ったのは犬ころ、お前だ」

 本気を出したレブの魔法を幾らぶつけようとロボは無かった事にしてしまう。下手すればこの街道を吹き飛ばしても本人だけ無傷という事も考えられた。

 レブに言われてフジタカの目が恐る恐るこちらを向く。そんな風にせずとも、私達も同じ様に思っている。

 「また助かったよ、フジタカ」

 それを一番に伝えるのは、やっぱりチコだった。

 「この場にいた中で唯一あの男に正面から対抗する力を持った男だ。そんな目をしていては、その剣も泣こう」

 トーロも努めて穏やかに言っている。横のライさんからすれば取り逃がした事を攻めたい気持ちもある、みたい。だけど褒めも怒りもしないで背中を向けたのが彼なりの優しさだったのかもしれない。

 「……だったらもっと使いこなさないとな。まだ、アイツと同じ事ができるわけじゃないんだから」

 フジタカももう次の事を考え始めている。そう、きっと次も現れる。それだけは間違いない。もしかすると、次はまた総出で来てもおかしくないだろう。

 「次、か。私達も一層気合いを入れないとね」

 そうなったら私達だって戦力の中核になるくらいの気持ちは持っていないと。私はレブを見ながら今後の抱負を伝える。

 「そうだな」

 返事をしてレブは前を歩き出す。私もカルディナさんやニクス様と一緒にフジタカがニエブライリスで行った魔法を検証しようと思った。

 「……レブ?」


 だけど、レブの背中がいつもと違う様な気がして一旦私は足を止めてしまった。

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