賭ける挑戦。
「なんで俺だ!どうして俺がこの世界に来なきゃいけなかった!」
「俺と来れば教えてやる」
でなければ、教えるつもりはないと顔に書いている。似た顔立ちではあるものの、どうしてこんなに表情が違うのか。
たぶん、目だ。ロボの目からは生気を感じられないんだ。どこか沈み、疲れ切った状態で私達の前に立っている様な。暗い表情に親しみなんて感じない。
「………」
だけど、フジタカは立ち上がり、ライさんの横に立っても黙ったままだった。
「フジタカ……?」
彼の様子に皆の視線が集まる。
「まさか……!」
ライさんは剣の切っ先を向ける。
「待ってくれよ。俺が裏切るわけないだろ」
言われる前にフジタカはナイフを握った手を挙げてライさんに見せる。
「お前が欲しいのは、これだけだろ?」
「親に向かってお前とはなんだ」
はん、とフジタカは笑った。
「親面するには些か以上に傲慢だ。それらしい事もロクにしてなかった奴に言われたくはない!」
レブみたいな言い回しで、しかし語気は強くフジタカはロボを断じた。親子で戦う姿なんて見たくはないけど……。
「………」
「レブ?」
すると、レブは私の肩に手を置いてから前へ出た。
「おい!デブでもアイツは……」
「退け」
フジタカを押し退けてレブは翼を広げて身を屈めた。それを見てロボも剣を抜いた。
「悪い様にはしない。こんな場所まで連れ回されるとは思わなかったが、大人しく息子を返して頂けないか」
「それが本人の意思なら考えないでもない」
だが、と付け加える様にレブが前へ跳び出した。
「それが答えか……!」
ベルナルドとロルダンを追い返してもまだ私達の前に立ちはだかる。追っている私達からすれば出てきてくれるのは好都合。だけど彼もまた、同胞を倒されてでもフジタカに会う理由があるんだ。
レブの人離れした速度の体当たりを正面に構えた剣でロボは迎え撃つ。しかし、レブは彼の剣の間合い直前に軌道を変えた。
「ふっ!」
「く……!」
横薙ぎの一閃を飛び越えてレブは拳をロボへと振り下ろした。しかしレブに躱されると予想していたかの様にロボは剣の勢いに体を任せて転がるとレブの一撃を流してしまう。
「ち……!」
レブは舌打ちをするとすぐに後ろに跳び退いた。その間にロボも剣を構え直す。
「そうだ、それでいい!」
フジタカも拳を握ってレブを応援する。今の動き、どこかで見たと思ったらフジタカがやっていた一撃離脱の動きだ。
レブはロボの様子見をしている。フジタカの力を知っているから、一撃でも浴びる事はできない。そうか、ライさんもロボに触れない為にすぐに挑まなかったんだ。
「はぁっ!」
レブが手をかざした同時に私の胸が痛む。しかしロボは彼の魔法を浴びて倒れる事は無かった。ただ剣を前に構えているだけなのに。
「……魔法も消せるのか」
見えたのは雷糸が迸り、ロボの横を通り過ぎたところだけ。私はどちらかと言えば雷がロボを避けて割れた様に見えた。一瞬の光が瞼の裏に焼き付いているから間違いない。少なくとも、ロボには当たっていない。
それをレブは消したと言った。ならば考えられるのは複数の雷撃を放射したが、自分に当たる部分だけロボは消してしまった……とか。
「他の手を炙り出そうにもこれではな」
膠着してしまったレブとロボの間にトーロもライさんも入らない。恐らく炎や大地の魔法だって同じだ。閃光の魔法ですら消してしまう相手には発動までの時間が止まって見える。……もしかしたらロボの意識には関係無く消す力は働いているのかも、フジタカみたいに。レブすら一回の手合わせで八方塞がりになってしまうなんて。
「だったら、俺がやる」
レブの隣に立ったフジタカはナイフを展開して、ニエブライリスも抜いた。
「お前を守る為に体を張っているのだぞ。それで勝手に飛び出されては本末転倒だ」
視線を外してレブはフジタカを睨んだ。だけどロボに動く気配は無い。
「俺は、守ってもらう側じゃないんだぞ。契約者の旅路を邪魔する障害を排除するのは俺にだって重要な仕事の一つだ」
「………」
口を閉ざしたレブはただフジタカを見下ろしていた。
「あの得体の知れない相手に立ち向かえそうな力を持っている奴がお前の目の前にいる。どうするよ、デブ」
「どうもしない」
一度ロボにレブは向き直る。
「言ったからにはやってみせろ。挑む側が張った虚勢に興味は無い」
「サンキュ」
レブは目を伏せるとフジタカに道を譲る様に後ろへと下がってしまう。その様子にカルディナさんも慌て出す。




