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悪寒。

 「君は旅路を自身の意志で決めるだけの力があるから、今この場にいる。だからこそ自分は君にこれからも力を貸してほしいと願う」

 「………」

 ニクス様からの頼みにフジタカは頷く。彼に関して言えば、召喚士や契約者に従う理由は無い。それでも自分の成すべき事、したい事を差し置いて傍にいてほしいという願いを聞き入れる。

 「そう身構えるな。これは契約ではなく、ただの口約束。真に果たすべき事が訪れた時、きっとこの約束は解消される」

 「でも今は。自分の事もこなしながら、今だけでも俺はトロノの召喚士とニクスさんに従うつもりだ」

 ニクス様の目が細まった。笑ったみたい。

 「十分だ」

 既に昨夜の時点で話はついている。ウーゴさんもトーロもニクス様の決定には従ってくれた。


 カスコへ向かう街道に誰一人欠ける事なく全員が無事に立っている。今日までを思えばそれが奇跡の様に思えた。今までが、そうじゃなかったから。

 「草が切り拓かれているとかじゃないんだな、この辺まで来ると」

 鼻をひくひくと動かしながらフジタカは足元に敷き詰められた石畳を見ている。倒れてから三日、既に体調は戻って普段通りの彼に戻っていた。魔力の方も、普通に消す分には構わないらしい。またレブが急にガロテと同じ様にやってみろ、と言ってもやってみせるとまで豪語していた。

 「空なら関係無いのだが、飛べないとは不便だな」

 「お前みたいな飛んで火ぃ吹く鱗のお化けばっかりいたら、この世界は終わりだよ」

 ただし、それを今度はレブの方が警戒している。あの力は何度も行使すべきではないと言っていた。それは私も同意している。だって、フジタカがちょっとの傷を治すのに倒れていては本末転倒だもの。

 「……お化けか」

 あれ、フジタカの言葉がレブに効いている……?

 「レ……」

 「この街道、血の臭いがするな」

 私が顔色を窺う前にレブが言った。それを聞いてフジタカとトーロ、そしてライさんも目を合わせていた。どうやら、気付いていなかったのは私達召喚士だけらしい。

 「……業者を警備する者と、業者を襲う者。そのどちらもいるからね」

 だけど私は知識として知っていた。この首都へ続く街道、エスクード街道はガラン大陸の入り口、シタァとガロテからカスコを繋ぐ人工の道路。それはカスコまでの道程を確実に繋げ導いてくれているのと同時に、野盗達はこの街道を目印に待ち伏せして商人達から身ぐるみを剥がす。街道に血の臭いが染みついていてもおかしくはない。それだけ利用者も多いという事だ。

 「それにしては臭いが濃いんだ。まだ新しい」

 「え……?」

 ライさんと同じ物を嗅いでいたフジタカとトーロもそれぞれ武器に手を添えている。

 「気を付けてくださいニクス様」

 「うむ」

 ウーゴさんとカルディナさんがニクス様を挟む様に歩く。前後にはインヴィタドを配置して、ニクス様の安全を最優先に考えてもらう。

 「近くでカスコの騎士か召喚士が野盗狩りとかビアヘロ退治をしていたとか……?」

 「それにしては静かだ」

 レブの言った通り、街道は私達以外に遠くまで目を凝らしても人の姿は見当たらない。つまり事は済んでいる……?

 風が通り抜ける音だけが耳に入って気持ちが沈む。この感覚を知っているからだ。

 「……心配するだけ損だよ。気にするのは当たり前だけど、それで竦み上がって留まる方が危険だもん」

 「……その通り」

 「だが!」

 レブも肩から力を抜きかける。しかし、そこで誰よりも声を張ったのはフジタカだった。

 「……来てる。アイツが、近く……まで」

 耳元を押さえて、と言うよりも耳を握り潰すのではないかと言うくらいにフジタカはしっかりと掴んでいた。

 「どこだ!出てこい!」

 まるで何かに怯えた様だったフジタカが急に耳から手を離して叫び出す。私には何も聞こえないし、何も見えてこない。

 「フジタカは何を……」

 「父親だろうな」

 レブは闇雲にあちこちを見回して吠えるフジタカを冷静に見ていた。

 「来てるの……?」

 「知らん。だが、奴は何かを感じたらしい」

 フジタカの動きはニクス様を中心に据えて円を描く様に動いていた。でも、相手の狙いがフジタカならば契約者を守ろうとしても意味がない。離れたところで彼の危険が増すだけだ。

 「フジタカ、離れないで!」

 「……っ!」

 動かないで言うんじゃなかった。フジタカは私の声に足を止めてしまう。その次の瞬間、フジタカの全身の毛皮が明らかにぶわっと逆立った。

 「ふん」

 直後、レブが腕をかざす。同時にフジタカの背後がレブの魔法によって呼び出された雷撃で土を弾き飛ばした。威力は軽く土が抉れて跳ねる程度。大きな音を立てただけで生き物には命中していない。

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