第75話 ある王子王女の衝撃について配信
その日、シュンカトウ共和国にある城にて、盟主の一族が夕食を行っていた。
シュンカトウ共和国は、商いを美徳としている。
故に、共和国を治める盟主ですら、今でも現役の商人として商いを続けている。
ドラスト商会が共和国一の大商会だとすれば、盟主【パファー】は共和国一の個人商人。
たった1人で、別の国の政府との交渉を行って成功させ、共和国を豊かにする『稀代の商い王』なのだ。
当然、そんな商い第一のこの国において、王位継承権はその経営能力によって決められている。
シセン王子とシミット王女の2人は、長男長女という立場ではあり、第一継承権と第二継承権を与えられ入るが、経営が傾けばいつ継承権を下へと下げられるか分からない。下手したら、剥奪されるかもしれない。
そんな薄氷の上で、父にして盟主であるパファーに見捨てられないように、2人は努力し続けている。
日々、ミスしないように頑張る2人は、唯一家族が揃う時間である憩いの時間、夕食の時間であっても、緊張して味がしない。
そんな日々を送る中、盟主は、その場に座る全員にこう宣言した。
「フランシアの継承順位を、1位にまで上げたいと思う」
----その日、シュンカトウ共和国盟主は、唐突にそう宣言した。
「えっ?!」
「それって、本当ですか? お父様?!」
シセン王子とシミット王女の2人は、そう聞き返す。
この夕食の場にいるのは、5人。
父にして共和国の現在の盟主である、パファー盟主。
第一王子にして第一継承権保持者の、シセン王子。
第一王女にして第二継承権保持者の、シミット王女。
第二王女にして第三継承権保持者の、【スパニ】王女。
第二王子にして第四継承権保持者の【ジャポネ】王子。
盟主と、その盟主の座を継ごうという意思のある家族の4人。
継承権剥奪とまではなっていないが、「私は、武術を磨く姫騎士となります!」と出て行った第三王女のフランシア王女はここには居ない。
そんなフランシアを、利益しか考えていない盟主は、継承権を上げると宣言したのだ。驚いて当然だろう。
「本当だとも、シセン、それにシミット」
まるで何事もなかったかのように、食べ進める盟主。
そしてある程度食べ終わると、どうしてそういう結論に至ったのかを説明し始める。
「正直、フランシアに経営的センスがあるとは到底思えん。勉強すればそれなりのセンスは備わるだろうが、フランシアは『武術をしたい』と言って家を出て行った。そんな彼女に、今更経営学を教えても、興味がなくて覚えんだろう」
「だったら! そんな奴の継承順位を上げる必要はないだろう!」
「えぇ、そうよ! しかも1位にする必要はないと思うわ!」
シセン王子とシミット王女の2人は、必死にそう抗議する。
2人にとって、共和国盟主の椅子は最も座りたい椅子であり、そこを取られるのは嫌だった。
ましてや、日々競い合っている敵対者ではなく、家を出て行った武術バカに取られるなんて、認めたくはなかったのだ。
それに対して、スパニ王女とジャポネ王子の2人は「へぇ~、そうなんだ」くらいに軽く流していた。
今の継承順位こそフランシアよりかは上ではあるが、2人とも将来的には経営以外の道に進もうとしているらしく、自分達が盟主にならないならどうでも良いと思っていた。
「父上! 私は反対です! 盟主の座は、私か、シミット! どちらかが継ぐべきだ!」
「えぇ、兄に賛成です! シセン兄さんか私以外だと、認める事なんて出来ません! 納得いく説明をお願いします!」
2人の抗議に、盟主は「はぁ~」と溜め息を吐く。
そして、ギロッと、凄腕商人としてのオーラを込めて、2人を睨みつける。
「「ひぃっ!?」」
その凄みに、2人は座り込む中、パファーは父として、そして盟主として的確にその理由を述べていく。
「シセン、お前には商会を1つ任せているな。輸入物の取引を行う、比較的重要な所だ。お前はミスなくやり遂げ、さらには前年度よりも利益を上げている。----だから、ダメだ。
シミット、お前にはドラスト商会の販売部門を1つ預けていた。彼らが取って来た商品を売る、重要な所だ。お前はミスなく行い、さらにはお客様からの感想も良いのが多い。----だから、ダメだ」
盟主はそう言うと、続いてスパニ王女とジャポネ王子に指摘して行く。
しかしながら、シセン王子とシミット王女の2人には、そんな事はどうでも良かった。
----ミスがない。反応も上々。
----だから、ダメ?
もし仮に、明確な失敗があるというのならば、それを治そうという意思が芽生える。
もし仮に、利益が下がったり、悪い感想があるというのならば、それを無くそうという意思が芽生える。
しかし、盟主からの指示は、そうではない。
ミスもしていないのにも関わらず、結果は『ダメ』の一言のみ。
そして何故か、家を出て、経営以外の道に進んだフランシアが、自分達よりも盟主に相応しいと言われている。
不条理だろう。不合理だろう。到底、受け入れられないだろう。
そこで2人は、そんなフランシアが絶賛するススリアに発注をかけた。
恐らく父は、この錬金術師と関わっているからこそ、継承順位を上げているのだと思ったから、彼女と取引をして実績を、関わりを得たかったのだ。
それなのに----。
「さぁ! 我がラーメン魂、とくと味わうが良いアル!」
何故か2人は、食堂でジュールにラーメンを差し出されていたのであった。
(※)スパニ王女
シュンカトウ共和国の第二王女にして、第三継承権保持者。ジャポネ王子とは双子の関係にあり、妹。現在、18歳
兄姉であるシセン王子とシミット王女の2人の争いを見て育っているため、盟主には初めからなれないと諦めており、現在は良い家畜を育てたいと思って勉強中。経営学はほどほどに学んでいる
(※)ジャポネ王子
シュンカトウ共和国の第二王子にして、第四継承権保持者。スパニ王女とは双子の関係にあり、兄。現在、18歳
兄姉であるシセン王子とシミット王女の2人の争いを見て育っているため、盟主には初めからなれないと諦めており、現在は魚の養殖に興味があって勉強中。経営学はほんのちょっと程度で学んでいるつもり




