第50話 今年の大会はめちゃくちゃ大規模らしい配信
『----それではこれより、第8回『錬金術師大会』本選を、開始したいと思います!!』
「「「わーっ!!」」」
課題である防刃手袋で見事本選出場を決めた私と、タラタちゃん。
そんな私達は、王都にある多目的ドームという、巨大施設にやって来ていた。
最大観客収容数1万人という巨大なドームを、大勢の人間が熱狂と共に詰めかけていた。
それどころか、この大会の様子は配信によって生中継されているらしく、その人達を合わせるとおよそ10万人にも及ぶらしい。
「凄いな、この大会。去年もこんな感じだったのですか?」
「いやいや、ここまでではなかったであります! 恐らく、ベータちゃんのせん----はっ!」
おいっ、そこの弟子。
いま、何を言いかけたんですかね?
……まぁ、だいたい察しはつくけれども。
恐らくは、うちのベータちゃん、ガンマちゃん、デルタちゃんを始めとしたゴーレム達が、配信内で『錬金術師大会』の宣伝をしたとか、そんな所でしょう。
問題はその宣伝で、いったいどれだけの人数が興味を示したか、なんだけど。
「ところで、師匠は何ブロックになりましたか?」
「ブロック……?」
タラタちゃんの話によると、今回の『錬金術師大会』の出場者は過去最多、256名にも及ぶらしい。
どうやらいつもの大会は100人以下の規模らしいんだけれども、今回はいつも以上に参加者が集まったらしい。
やっぱり優勝賞品のドラゴンの卵が、魅力的すぎたんだろうな。
なにせ、私もそれで参加を決めたんだから。
とは言え、参加人数があまりにも大人数すぎるため、大会運営スタッフは人数を分ける決断をしたんだそうだ。
そして今回の大会では、4つのブロックに分けての開催となったという訳だ。
それでも1つのブロックに、64名とかなりの大人数での戦いになるんだけど。
4つのブロックそれぞれ課題が違っているらしく、春ブロック、夏ブロック、秋ブロック、冬ブロックと呼ばれているらしい。
タラタちゃんの話によると、タラタちゃんは春ブロック、私は冬ブロックに登録されており、私達は勝ち進んで行けば決勝で戦えるんだそうだ。
また、今回の出場者があまりにも多すぎることもあって、3日間の開催となっているそうだ。
春ブロックと夏ブロックが、1日目。
秋ブロックと冬ブロックが、2日目。
そして各ブロックの決勝者による真の決勝戦が3日目。
そういう、3日間開催になったのだそう。
1回戦で64名を、16名に。
2回戦で16名を、4名に。
そして各ブロックの決勝戦で1名に絞り込んだ後、4ブロックの優勝者による真の決勝戦が行われて勝敗を決定するんだとか。
つまり、4回勝ち進めば、優勝という事である。
「春ブロックでは、私の他にもチアンがいますので、激戦区だそうです! なので、頑張りたいと思いますです!」
「チアンって……あぁ、確か例の優勝者の事ね」
錬金術によるための大会のはずなのに、薬師で連覇中の人の名前が、確かチアンだったはずだ。
そんなチアンと、一緒のブロックか……。
「まぁ、頑張ってね」
「はいっ! 去年の雪辱、果たして見せます!」
そう意気込んで、タラタちゃんは春ブロックの開催場に向かって行った。
師匠として、私もタラタちゃんを応援しに行こうかな……。
「----あなた、ススリアさん?」
と、タラタちゃんを迎えに行こうとしたら、いきなり兎の獣人族に話しかけられた。
藍色の髪の、白い作業服を着た兎獣人。
愛らしい顔立ちと体躯でごく普通の兎獣人と言った様子だけれども、ただ瞳に特徴があった。
----ドラゴンの瞳。
吊り目に、縦長の瞳孔----まさしく、私が欲しいと感じているドラゴンの瞳。
そんなドラゴンの瞳という、めちゃくちゃ特徴的な姿の兎獣人さんが、ぎろりと、私を睨みつけていた。
「あなたは……?」
そんなドラゴンの瞳を持つ、不思議な兎獣人に声をかけると、「これは失礼しました」と、頭を下げる。
「----私の名前はメキス。夏ブロックにて登録されている、ただの錬金術師」
「メキス、さん?」
私が聞くと、彼女はこちらに近付いてきて、握手を求めて来た。
瞳は異様だが、握手という有効的な態度を取って来たので、私は彼女の手を取る。
「えぇ、私、王都で錬金術師をしていますメキスと申します。一昨年までは仕事が忙しくて参加できませんでしたが、それまでは三連覇している猛者でもあります」
そう言いながら、その証拠となる金メダルを3つ見せて来る兎獣人。
「ほぅほぅ、なるほど」
……なんだよ、あの連覇してる薬師ってば、優勝候補が居ない時に優勝してただけかよ。
「そんな優勝候補さんが、私に何か用ですか?」
「……決まってます。あなたに戦いを挑みに来たんです」
と、彼女はニヤリと笑う。
「私の名前はメキス。夏ブロックを勝ち進んであなたにも勝つ、ただの錬金術師。
----お見知りおきを」
「それでは」と、彼女は意味深な事を言って、夏ブロックに向かって行った。
……なんだったんだろう、今のドラゴン瞳の兎獣人娘は?
意味深に呟いただけかも知れないけれども……。
「……ちょっと気になるかもしれない」
タラタちゃんには申し訳ないと思いつつ、私は夏ブロックを見学する事を決めるのでした。




