第49話 彼女の名はメキス。王都で暮らす、ただの錬金術師配信
----私の名前は【メキス】。王都で暮らす、ただの錬金術師。
私は10代にして、すでに錬金術師として仕事を貰えるほどの腕前の兎の獣人族である。
そんな私は、2年前から王都にある錬金術師の工房、【セイサ工房】にて働いており、いつも張り切って仕事に取り組んでいる。
今日も職場での仕事に精を出そうと、私は眼鏡をかけ直し、スーッと大きく息を吸い込む。
----どんっ!!
「失礼します」
職場である工房の扉を開けて、大きく挨拶。
うん、朝から大きな声を出すと清々しい気分になる。
「おいおい、来たぞ。眼鏡兎のご出勤だ」
「アイツ、兎の獣人族なのに"カワイイ"ってよりも、"コワい"って感じなんだよな」
「しっ! 聞こえるぞ!」
----私の名前はメキス。職場である工房で嫌われている、ただの錬金術師。
どうも私は職場で嫌われているらしい。
その理由は私自身も分かっている、他ならぬ私のこの眼つきのせいだ。
兎の獣人族は、他の獣人族と比べると小柄で、愛らしい容姿の者が多い。
しかし私は、他の兎獣人族と同じく小柄なのだが、眼つきがヤバいのである。
どうヤバいのかというと、私の瞳は"ドラゴンの瞳"なのである。
私の祖先に、人化魔法を覚えたドラゴンと交わった者が居るらしく、その先祖返りで私の瞳はドラゴンのような瞳になっているらしい。
瞳孔が縦長、吊り目という、ドラゴンの瞳である私の眼は、とても怖いのだそう。
一応の私なりの抵抗として、眼鏡をかけてそれを緩和しようと頑張っているのだけど、なかなか難しいようである。
「メキス、今日も元気だな! 元気なのは良い事だ! ガーハハハッ!!」
「工房長、おはようございます」
唯一、私の元気な挨拶に元気よく返してくださる工房長に返事をして、私は自分の作業に入った。
セイサ工房では、主に他商品との比較、検査を行っている。
たとえば、とある2つの商店が、同じような商品を出した場合、その商品の差がどれだけあるかを調べるのが私の仕事。
今日の仕事は、『錬金術師大会』から来たお仕事。
本選出場者を決めるために、防刃手袋を20セット納品する事が条件となっており、私の仕事はそうやって納品された防刃手袋が規定を満たしているかの検査である。
「合格条件は、ナイフを5回刺しても大丈夫な頑丈さ。そして、普通に手袋としての性能。その上で、20個中8個アウトで、不合格、と」
条件も頭に入れた上で、私は仕事を始めた。
----私の名前はメキス。防刃手袋の検査をする、ただの錬金術師。
私が検査するのは、王都の外からの納品されているモノの検査である。
「----とは言え、ほとんどアウトなのですが」
正直、この本選出場条件をクリアする錬金術師と言うのは、ほとんど居ない。
輸送の最中の衝撃に耐えきれなかったらしく、穴が開いてしまっていたり、酷いモノだと破れてしまっている物もある。
私の担当分の半分近くは、輸送の衝撃に耐えきれなくて手袋としての形状を保てていない。
「そして残っているのも、あまり良くないですね」
そもそも、1回ナイフで切りつけただけで破れるような代物を提出するのは、どういう気持ちなのでしょうか。
私には良く分かりません。
私が担当する分はすぐさま終わってしまい、100件近くあったはずですが、合格条件を満たしたのは僅か1割程度でした。
「他の皆はまだ終わってないようですね……手伝いに行きましょうか」
----私の名前はメキス。自分の仕事が早く終わったら他人の仕事も手伝おうとする、ただの心優しい錬金術師。
「あの、もしよろしければ手伝いを----」
「ひっ、ひぃっ?! どっ、どら、どどどうぞ!」
「……了解です」
同じ兎獣人族に話しかけたはずなのに、怖がられてしまいました。
……泣いてません、仕事場では泣きませんとも。
私は指し示された手袋の束を受け取ると、早速、検査作業を開始する。
「さて、これはゴム手袋? ……おっ、この名前は確か、去年の準優勝者じゃないですか。
ふむふむ、ナイフでやっても切れませんね」
タラタなる人物が納品してきた、ゴム手袋。
早速、ナイフで切りつけるが、傷一つ付かなかった。
どうやら魔術付与で傷つかないようにしているらしく、これは期待できるなと私は感じていた。
思った通り、このゴム手袋は全て検査基準をクリアしていた。
ゴム手袋なので、手袋としての基準も普通にクリア。
この工房始まって以来、全て合格は初めてです。
凄いなと思いつつ、私は次の納品物のチェックに入る。
「----これは、ロックリザード?」
次の納品物は、ロックリザードの皮膚で出来た手袋。
どうやって錬金したかは分からないが、魔術付与なしで、手袋としての柔軟性を維持しているようである。
「手を入れてみても、指1本ずつ動きます。着けているとちょっと暑いですが、この分厚さなら仕方ないですね」
手袋としての性能は問題なかったので、続いて防刃性能のテストを始める。
「おぉーい、メキス! そろそろ昼休憩に入れよ~」
「はっ! すっ、すみません!」
気付いたら、昼休憩の時間に入っていたらしい。
慌てて謝ると、工房長は「ガハハっ!」と笑って許してくれた。
「いや、大丈夫だ! ただあまり根詰めるなよ!」
「はい、勿論でございます」
工房長は、こんな眼つきの悪い私を拾ってくれた大恩人。
報いるのは当たり前。
----私の名前はメキス。眼つきは悪いが恩は必ず返す、義理堅いただの錬金術師。
「……今は、『錬金術師大会』の予選だったか。いつも通り、酷かっただろう?」
「いえ、今年のは、凄いですよ」
私はそう言って、工房長に現在検査中の手袋を渡す。
「ほぉ、これは……もしかして、ロックリザードか?!」
工房長の眼が光り輝くのを見て、私もペコリと頭を下げる。
「アイツの皮って硬くて、柔軟性皆無なはずだろう?! それなのに、この柔軟性とは、もしや硬度に問題が?」
「その硬度ですが……現在、125回目に耐えてます。しかも、全部」
「全部っ?!」と、工房長が驚いた顔を見せる。
そして私の肩をポンポンと叩きながら、口を大きく開けて笑っていた。
「こりゃあ、強力なライバルの登場だな! お前も頑張れよ、チャンピオン!」
「去年と一昨年は出れなかったので、もうチャンピオンではないですよ」
まぁ、とは言え、去年と一昨年は仕事で手いっぱいで出られなかっただけなので、あんな薬師に負けはしませんが。
そして、さっきのゴム手袋を納品してくれたタラタ、そしてこのロックリザード手袋を納品したススリア。
----他にも、まだ見ないライバルにも、私は絶対負けはしません。
----私の名前はメキス。『錬金術師大会』を3回優勝している、ただの錬金術師である。




