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白い鳥  作者: 九JACK
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「代ちゃん、大丈夫かなぁ」

 はながやや不安げな声を出す。日向はすんと前を向いていた。

「大丈夫だよ。代ちゃんはあれで物分かりのいい子だから」

「同じクラスでもなかったのに、ひーちゃん、そんなことわかるの?」

 はなの返しに日向がすっと目を細める。はなはあ、やば、と口を押さえた。

 はなと日向は家が近く、保育所も同じだったため、交流が深い。日向たちは二年生であるため、学校は休みだった。家が川向こうであるため、橋を渡って、公園に遊びに来たのだ。そうしたら、いつの間にか一年前の世界に来ていた、というわけである。

 日向は第六感だか霊感というものが鋭くて、賢い子だ。洞察力もあって状況分析に長ける。ただ、プライドが高かった。ちょっと何か言うと、すぐ拗ねてしまうのだ。

 些細なことへのプライドの高さは子どもらしいといえばそうなのだが、はなは大人びている日向の見せる子どもっぽい姿がなんだか受け入れられなかった。

 日向の拗ね方というのが、ぶすっとした顔で黙り込んで、しばらく口を利かないというものだ。それが困る。謝るほどのことでもないけれど、謝るときに、気軽にごめんと言えないのだ。ごめんと言っても、口を利いてはくれないし。

 それは時間経過で治るのだが、めんどくさ、とどうしても思ってしまう。

「……代ちゃんの言ってた瑤って子は、今は保育園で年長、髪を二つに結んでいる子で、妹さんと一緒に保育園に通ってるんだったね」

「え、ああ、うん。小野寺瑤ちゃん。妹さんが美晴ちゃんだっけ」

「あと、代ちゃんの弟くんも通ってるんだったよね。比呂くんっていう」

「兄弟で名前似てるよねー」

 はなの言葉に似てるって……となる日向。「シロ」と「ヒロ」で確かに音が似ているかもしれないが、だいぶ違うと思う。

「子どもに『犬みたい』って思われるような名前つけるなんて、どうかしてるとわたしは思うけど」

「うーん、それもそっか。比呂くんはその点、普通の名前だしねー」

 しかも代の名前に使われている字は「代わり」という意味を持つ。なんだかつついたら闇深そうだ。

 ひとまず、日向たちは保育園を目指した。保育園は神社の側の坂を登っていくとあるらしい。

「うわ、なかなか急な坂だね」

「あ、桜の木がある」

 日当たりがいいためか、坂の上にある桜はふっくらとした蕾をつけていた。桜の時期にはまだ早いかもしれないが、春らしさを見つけた気がする。

 坂があると聞いてはいたが、園児が登り降りするのは少々きついのではないだろうか、と日向は思うが、この町にはわりと坂が多いので、まあ、こんなもんか、と考えることにした。

 子どもたちの賑やかな声が聞こえる。遊具で遊んでいるようだ。木造の滑り台、象の形をした滑り台、ジャングルジム、鉄棒、車の形をした乗り物、それらを覆うように大きく広がった橡の木。子どもたちは橡の木に手が届く木造の滑り台が特にお気に入りのようで、次から次へと滑り台に上っていく。

「あら?」

 そうして眺めていると、日向とはなに気づく者があった。四十くらいの女の先生が二人の方に寄ってくる。

「どうしたの? お父さんお母さんは? 迷子?」

 はなはおわ、と焦る。職員に見つかることを全く考えていなかったのだ。だが、この保育園の立地上、正面から来るしかない。何せ背後には山を背負っているのだ。

 はなが焦るのとは裏腹に、日向は平静に対処する。

「保育園の先生? ひーは友達に会いに来たの」

 はなは日向から出た幼気な声にぞわっとする。気持ち悪いということではなく、日向の特技を思い出したのだ。

 日向はぶりっこなのではない。他の子に比べて少し幼く見える容姿を理解して、年少のふりをしているのだ。つまり、演技である。

 特技というのは、目的のために手段を選ばないという選択をできること。はなにはとてもできない。が、合わせなければならないだろう。

「あ、あたしも友達を探しに来たの! 瑤ちゃんって言って……」

 先生は苦笑いした。

「はるかちゃんなら何人かいるけど、上のお名前はわかるかな?」

「えっと、えっと」

 思い出すふりをしながら、はなは内心で苦いものを噛んでいた。「上のお名前」なんて久しぶりに聞いた気がする。この人には自分たちは何歳に見えているのだろう。

「小野寺瑤ちゃん!」

 日向が元気よく答える。わざとらしさがなくて、先生はそっかそっか、と頷く。

「でも、小野寺瑤ちゃんって子はいないよ、ここには。美晴ちゃんならいるけど……」

「……年長さんの瑤ちゃん、いない?」

 日向が涙声で問うと、先生はちょっと待っててね、と保育園の建物へ向かう。

 その隙に日向とはなは顔を見合わせた。

「名前間違えてないよね?」

「うん。でも、美晴ちゃんはいるって……」

 美晴は瑤の妹の名前だ。妹の美晴がいて、瑤が同じ保育園じゃないのはおかしい。家族であるのだから、同じ家に住んでいて、お迎えの都合上、別々な保育園になどするわけがないのだ。

 ほどなくして、先生が戻ってくる。

 首を傾げていた。

「やっぱり、小野寺瑤ちゃんって子はいないよ」

 どうしよう、とはなが怖くなってきたところで、日向が別の名前を紡ぐ。

「美晴ちゃん! 美晴ちゃんに会いたい」

「小野寺美晴ちゃん?」

「あのね、お友達いっぱいいるから、名前がぐちゃぐちゃーってなったかも」

「そっか。名前がぐちゃぐちゃってなっちゃうのは仕方ないね。ところであなたたちのお名前は?」

「ひーはね、日向黒羽! でもひーちゃんって呼ばれてる」

「は、はなです」

「うん、じゃあちょっと待っててね」

 はなが日向に小声でぼやく。

「妹さんに会ってどうするの?」

「妹さんにお姉ちゃんがいるか聞けばいい。代ちゃんが名前を間違えてた可能性を確かめられる。いざとなったら代ちゃんの名前を出せばいいし」

 頭の回転の早い日向にはなはほへー、と感心する。おそらく喋り方などからは日向ははなの妹のように思われているかもしれないが、日向の方がよっぽどお姉さんだ。

 やがて、赤い飾りのついたヘアゴムでハーフツインテールをしている女の子が来た。先生が優しくその子に声をかける。

「美晴ちゃん、知ってる子?」

 どうやらその子が美晴らしい。美晴もこてん、と首を傾げた。

「誰?」

「呵神代ちゃんの友達! 代ちゃんは知ってるよね?」

「代姉ちゃん? うん。代姉ちゃんがどうかしたの?」

 代の名前が通じ、ほっとする。

「美晴ちゃんのお姉ちゃんに会いたいんだけど……」

 本題を切り出すと、美晴も先生もきょとんとした。

「みはる、お姉ちゃんなんていないよ?」

「え」

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