思わぬ再遭遇
「なっ……んでっ!?」
壊れる事がないはずの鬼の金棒の損傷に動揺するウィルだったが、襲ってくる骨の化物共は待ってくれない。
相も変わらず一糸乱れぬ連携で迫ってきて、ウィルはそれに応じるのだが、動物型はともかくヒト型が振るう剣や手斧を受ける度に金棒の破片が火花と共に散る。
「壊れないんじゃないのかよ!?」
『壊れてもすぐに直るだけで、絶対に壊れないわけじゃないんよ』
レッドが言うに、鬼の金棒は魔力を持つ生物の血液を使って自動修復及び強化が行われる。
当然、血液を供給できなければ修復が行われないし、その状態で使い続ければ摩耗していずれ破損する。
ここのスケルトン達と遭遇するまで多少なりとも普通の魔獣や魔物を倒していたものの、移動を優先していたせいで修復用の血液を十分に供給できておらず、そこに血が一滴も流れないスケルトン達との長期戦が重なる。
結果、ここにきて鬼の金棒は限界を迎えていたのだった。
『仮に真っ二つに折れても相応量の血液さえ供給できれば金棒は元の姿に修復されるけど』
見渡す限り、動くものは青白い骨しか見当たらない。
どいつもこいつも血気盛んに襲ってくるというのに、一体とて血が通っていないというのは、笑えない話だ。
「くそっ!」
このままでは武器を失ってどうしようもなくなるのは目に見えていたので、最初にしたようにウィルはスケルトンから武器を奪いにかかる。
連携してすばしっこく動き回る動物型がうっとうしくて仕方なかったが、多少強引にでもまだ余裕のあるうちに行動に移さないと間違いなく詰んでしまうから。
動物型がボロボロながらも尖った牙を剥いて飛びついてくる。
それに対してウィルは、強引に体を横に向けて肩を怪我して満足に動かせない腕を差し出した。
直後、圧迫感と共に茨が巻きついたかのようなもどかしい痛みの衝撃に襲われる。
「ぐっ……」
痛みをこらえつつ、横目で動物型が自分の腕にしっかりと噛み付いているのを確認したウィルは、それを同じように飛び掛かってきていたヒト型に体を捻ってカウンター気味に叩きつけた。
金棒を叩きつけた時と違って致命的な攻撃とは言えなかったが、ヒト型の体勢を崩すには十分で、そのついでに動物型の頭と胴体が離れた。
ウィルはそのまま踏み込みスケルトンの武器を持った手首を掴むと、その腕を力任せに蹴り上げて関節部分からへし折り、剣を奪い取る。
動物型の頭は腕に噛み付いたままだったがスケルトンとしての活動は途絶えたらしく、今以上に肉に歯を食い込ませようとしてくる事はしなくなっていた。
『おま……! また無茶しやがって……』
レッドの苦言ももっともだが、多少無茶をしてでも今の内に盾を手に入れておかなければ未来が無いのだから。
今の鬼の金棒は少しでも衝撃が加われば簡単に欠けてしまう。このまま限界を超えて完全に破壊されれば、ヒト型スケルトンが振るう武器を受ける手段が無くなってしまう。
スケルトン達が使う武器はどれもボロボロではっきり言って武器としては役に立ちそうもないが、少なくとも受け止める盾代わりとしてならば、こんな状態になってしまった金棒よりもまだ期待できた。
『だけど焼石に水だ。手傷を負えばその分体力が奪われるから、今のは賢いとは言えない』
「でも、やらなきゃあっという間に殺される」
今相手にしていたスケルトン達を処理すると即座に追撃におかわりが入れられる。
奪った剣はどう見ても数打ちの安物で、切れ味にしても耐久性にしても酷いものだ。
相手が柔い肉ではなく硬い骨の体しか持たないのもあって、下手に斬り付ければ簡単に刃こぼれするし折れかねず、とてもじゃないが攻撃には使えない。
が、それでも直接腕で防げない攻撃を受けるのには役立つし、素手よりかはリーチが伸びるのはありがたい。
金棒に比べるととても軽くて頼りなく感じるが、その分振り回しやすく、相手の攻撃を捌きやすくはなった。
(とはいえ、展望が無いのは相変わらず。ここからどうす――)
苦し紛れの考えしか思い浮かばず、なんとか打開策を練ろうとした矢先に更なる異変がウィルへ襲い掛かる。
先程動物型が混じり始めたスケルトン達の群れに、また新たな異形が姿を現したのだ。
「……うわ」
『あれは……オークか!?』
通常の人型スケルトンより何回りも上回る体格の二足歩行の骨格が、群れの向こうから悠然とこちらに闊歩してきていた。
『いやいやいや! オークのスケルトンとか聞いた事無いんだが!?』
たしかにウィルも話に聞いた事がないが、そうは言っても実際そこに居てこちらに迫ってきているのだから、その存在自体に文句を言ってもしょうもない話だ。
それよりもウィルはこのタイミングでオークスケルトンが出現した事に悪態をつく。
「タイミングが絶妙過ぎるだろ!?」
ただでさえスケルトン達に有効な武器が無い状態なのに、武器を持ち換えたと同時に元々頑丈な肉体を持っているオークのスケルトンがここで投入されるというのは、ウィルにしてみればただ嘆くしかないほど的確なタイミングであった。
「リッチ賢すぎない?」
『たしかにただのリッチとは思えない程の指揮能力だな……』
そうこうしている内にオークが走り出す。
――速い!?
『余計な肉がついてないからその分速度が出るみたいだな……』
「冷静に分析している場合か!?」
オークスケルトンはそのままバリケードに突進すると、手にした大鉈で蹴散らした。
「ウッソだろ!?」
破壊した障害物の残骸の間を歩を緩めることなく抜けて、そのままウィルへ大鉈を振りかざす。
(まともに受けていられるか!)
後ろに飛び退いて回避すると、ウィルがいた場所の床を大鉈が叩き割る。
それだけに留まらず、狭い廊下の壁もお構い無しに振り回され、壁を抉り破壊しながら前進してくる。
(昨日よりも厄介になってる!)
生身のオークに比べると単純に動きが速くなってるだけで驚異的なのに、金棒の耐久性が怪しいこの状況では対抗手段が本当に皆無で手の付けようがない。
そんな中レッドが妙な事を聞いてきた。
『ウィル、お前今昨日よりも厄介になってるって思ったよな?』
「ああっ!? それがどうした!?」
『昨日の奴よりも、じゃなくて?』
レッドが何を言っているのか一瞬分からなかったが、すぐに自分が思った事、否、感じた事について自覚する。
「……まさか、コイツ」
『今お前が思ったからオイラも気付けたんだが、このオークのスケルトンの大鉈、なんか見覚えが無いか?』
確かにスケルトンが持つ大鉈にウィルは覚えがある。
だが、次に口をついて出たのは否定の言葉だった。
「いや、だって、それは、ありえないだろ? あの湖からここまでどれだけ離れていると思ってるんだ!?」
そもそも、あの湖はこの魔境と違って別段魔力の濃度が高い場所でもないからこんなに早くアンデット化するとも考えられないし、加えて満足に解体もできずに放置してきたのだからスケルトンとしてではなくゾンビとして現れる方がまだ自然だろう。
『けど、よく見ればこのスケルトンの胸周りの骨が無いし、首も変に曲がっている。極めつけに頭蓋骨も陥没している』
胸部に加え頭部を損傷し、大鉈を携えたオークといえば、ウィルがつい昨日屠ったあのはぐれ個体以外に考えられなかった。
「でも……じゃあ、なんでコイツがこんな所に居るんだよ……」
『分からんが……計ったような出現タイミングと言い、妙な事になってきたな』
ウィルの困惑をよそに、大鉈を振り上げた骨の巨人は生前の恨みを晴らさんが如くそのその巨大な凶刃で襲ってくるのだった。
オーク「やあ! 一日ぶり!」
ウィル「カエレ!」
本当はもっと話を進めたかったけれど、執筆時間が取れなかった……無念
追記:予約予定日が1日ずれて設定されてました。すみませんでした。




