助手の仕事内容
「君は馬鹿か。いや、そういえばバカだったね……」
程なくしてユウが仲間二人を起こし、ウィルを自分の助手にして連れて行くという旨を告げると、返ってきたのは予想通りと言うべきなのか冷ややかなものだった。
「ユースの言う通り、バカなのは知っていたが、ここまで大馬鹿だとは思っていなかった……考え直せ! 呪い子なんて連れた所でロクな事にならんぞ!?」
あくまに静かに咎める青年ユースとは違い、仲間からオヤジさんと呼ばれていたこの男は、昨夜から引き続きウィルを、いや呪い子を強く敵視しているらしく、冷ややかを通り越しむしろ火さえ吹きそうな有様である。
「あらら……昨日の様子からしてオヤジさんの反応はまあ大体予想通りだけど、ユースさんまで反対するとは思わなかったな」
意外そうなユウだが、むしろ反対する方が常識の持ち主である事は言うまでもない。
「行きずりの短い関係はともかくとして、仲間にして連れて行くのはさすがに無理がある」
と、ユースはウィルの同行に反対する理由をつらつらと並べていく。
「まず、このパーティの食糧問題。一応、念のため余剰分は用意してあるけど、さすがに魔力が無くて何の役に立つのか全く見通しの無い人をずっと食べさせるだけの余裕はない」
要は働かざる者食うべからず、いや、ウィルの場合は働けない者食わすべかざる、という事らしい。
「えー? 普通に使えると思うよ? なんだかんだ言ってあのオヤジさんをたった一人で取り押さえたんだよ?」
引き合いに出されたオヤジさんのウィルへの視線が更に厳しく吊り上る。余計なことを、ウィルは天を仰いだ。
「かもしれないけど、それだけじゃない。魔道具を動かせない都合上、連れて行った所でまともに一緒の生活はできない。彼が水を飲むときもトイレに行くときもずっとキミがついて魔力を与えて面倒を見続けるわけにはいかないだろう?」
「んー? しばらくはそれでもいいかなって思っているよ?」
「いや、よくないから! やめてくれ!」
とんでもないことを言い出したユウを慌てて止める。
「別に誰も面倒みてくれなんて言ってない! 自分の面倒くらい自分で見れるから放っておいてくれ!」
呪い子が人並みの生活が送れない事は今更だが、別に人並みである事に拘らなければ、独りでも生きていけるのは身を以て証明済みである。
「……君が保護を求めたんじゃないのか?」
ユースが訝しげにユウとウィルの顔を交互見る。保護? と話の前後が繋がらなかったウィルは聞き返す。
「君が保護を求めてユウが了承した。話の流れとしては一番自然だろう?」
「たしかに俺に困り事があったら協力は惜しまないとは言われたけど、俺から言い出したわけじゃない。……俺みたいな奴が他人に近づけばどうなるか、それぐらい自覚している」
と、オヤジさんに視線を送りながらそう言うと、ユースはその視線を辿った得心顔になった後、ユウに視線を戻し、ため息を漏らした。
「……なるほど。つまり、そういうことか。分かった。君の同行を認めよう」
「ユース!? お前まで何を言い出すんだ!?」
つい先程まで自分と同じ側だったはずの仲間が意見を翻した事に、オヤジさんは目を剥いた。
「僕だって気が進みませんが、ユウが一度言い出した事は、どんなに無茶でもはた迷惑でも絶対に曲げてくれない。オヤジさんだって知っているでしょう?」
「それは……だが、しかし」
徹頭徹尾呪い子の同行に難色を示し続けるオヤジさんだったが、ユウを引き合いに出されると、反対できる言葉が見つからないのか口ごもる。
「仲間からもこういう扱いって、お前今までにどんなことやってきたんだ?」
「アハハ……二人とも酷い言い草だよねー」
仲間からの酷評に言葉だけは抗議するユウだったが、目は逸らしていた。どうやら自覚も心当たりもあるらしい。
「こうなったユウは梃子でも動かない。ここで問答していても時間の無駄だ。オヤジさんには悪いけど、このパーティのリーダーとして決定させてもらうよ」
『ほーん。この子がリーダーなのか。てっきりあのオッサンがリーダーなのかと思ったが』
ユースがリーダーであると聞いて、レッドは少し驚いた声をあげる。ウィルもそう思っていたので、意外に感じる。
「……分かった」
しかし、実際にそうであるらしく、オヤジさんは不服そうではあるものの、素直に頷いた。
「だが、忠告だけはさせてもらうぞ」
そう言いつつ、オヤジさんはあの鋭い視線を改めてウィルに突き立てる。
「俺の経験から言えば呪い子と関わればロクな事にならない。それだけは確かだ」
「? オヤジさん、他の呪い子と会った事が?」
何の気なしに、それこそ悪意の欠片もないはずの質問だったが、オヤジさんは先程までと打って変わって感情がスコンと抜け落ちたような表情になる。
昨夜向けられた敵意剥き出しとはまた違うが、それよりももっとゾッとするような昏い光を宿す目だ。
そう感じたのはウィルだけではなく、ユウもユースも一気に張り詰めた場の空気に思わず息をのんでいた。
「……直接会った事はない。会った事はないが、呪い子のせいで俺は馬鹿にならない害があった」
淡々と、けれど酷く重く響く声でオヤジさんは続ける。
「ユウ。そんなに呪い子を抱え込みたいなら好きにしろ。だが、それによって生まれる不幸は自分で始末をつけろ。さもなきゃ俺がお前もその呪い子も始末する。ユース。お前もただ認めるだけじゃなくて、それによって生じるメリットやデメリットも踏まえた上で条件を付けろ。ユウの馬鹿に付き合うのはアホらしいが、それによって起こりうる害をパーティメンバーが被るのはもっと阿呆だ」
それだけ言うと、オヤジさんは頭を冷やしがてら少し周りを見てくると、木々の間に消えていく。
オヤジさんの姿が見えなくなり、張り詰めた空気が無くなると同時に気を取り直すように一息ついてから、ユースが口を開く。
「……オヤジさんも言ってたけど、元より僕も無条件で同行を認めようとは考えていないからね?」
そう言うとユースは、このパーティの物資をウィルの為には使えずあくまでユウが個人所有しているものを使う事、何かウィルが面倒事を起こしたらユウが責任を取る事、ウィルが足手まといになったら即座に切り捨てる、等々の条件を付けた。
自分の面倒は自分で見れるって言ったよね? ユースに言われ、ウィルは特に今までの生活と変わらないので異論は無いと了承し、ユウも事もなげに頷いた。
ユースは気の毒そうにウィルに視線を向けた。
「正直、僕個人としてはパーティとして認められなくても、同行させる以上は君をこんな村八分みたいな扱いはしたくなかった」
オヤジさんがあそこまで頑なになるとは思っていなかったと、ユースは言うが、たしかにあそこまで敵視される事はウィルも経験した事は無かったが、対応自体は珍しくなく、むしろ実害は出て無いので別に気にしていない。
「それに、ユウに目を付けられたのは本当にご愁傷さまとしか言い様がない」
「ちょっと!? ユースさんもオヤジさんもさっきから酷くないかい!?」
抗議の声を上げるユウだが、それを無視してユースは「それから」と話を続ける。
「ウィル君だっけ? 君がユウの助手? になる経緯は恐らく君にとってかなり無理矢理なものである事は想像に難くないけど、それでも了承したからには覚悟して欲しい事がある」
覚悟、というユースが出した不穏な言葉に、ウィルは顔をしかめた。
「……覚悟って、何?」
「ユウは君の面倒を見ると言ったみたいだけど、無理だ。この子は実能力はあっても、自分でまともな生活が送れない生活破綻者だ。だから、実際にはユウが君の面倒を見るのでなくて、君がユウの面倒を見ることになると思う」
ユースの思わぬ言葉に、ウィルは目を白黒させる。
「……は? いや、ちょっと待って。魔力を持たない俺がどうやってコイツの面倒を見れるの? というか、そんなことするつもり全くないんだけど……!?」
「たしかに君は魔力が無くて実行能力は無いけど、それでも食事や寝る事は普通にするだろう? ユウは放っておけばいつまでも自分のやりたいことに熱中して、まともな生活が送れなくなるんだ」
ユースの説明にレッドが『ああ、やっぱり』と呟く。
ユウがレッドの語った“バカ”の一例そのままの人間であったことに、ウィルが戦慄を覚えていると、ユースは話を続けた。
「だから、君がやりたいやりたくない、できるできないの問題じゃなくて、ユウと行動を共にする以上はそうせざるを得ない。そういう話なんだ」
嘘だろオイ。と、ウィルが思わずユウに視線を移すと「アハハ……」と渇いた笑いを浮かべるだけで、反論すらない。事実なのだろう。
「そういうわけで、君がユウの趣味の助手になった以上振り回されるのは確実で、そうなりたくないなら頑張って制御してほしい」
じゃなきゃユウのペースに巻き込まれて自分の寝食もまともにできなくなると、脅しなのか警告なのか判然としないユースの忠告に、ウィルは頬を引き攣らせるしかなかった。
今回のあらすじ
ユウ「ちゃんと面倒見るから飼っていい?」
ユース「自分の面倒も見れないのに無責任な事言わないの!」
オヤジさん「そんな厄介なもん連れてくんな!」
↓
オヤジさん「もう知らん。勝手にしろ」
ユース「もう、しょうがないにゃあ。でも、本当にこっちでは面倒みないからね? 君も大変な人に拾われたけど、頑張って付き合ってあげてね?」
ユウ「やったぜ」
ウィル「どうしてこうなった」
呪い子に親殺された説がありそうなオヤジさん。その内少しだけ彼の過去に触れるかもしれませんが、がっつり回想とかの予定は無いです。
ユースの感覚は割りと一般的な良識ある現代日本人に近いです。
呪い子でありユウに捕まってしまったウィルには同情的で、積極的ではありませんが多少なら助力してあげたいと思っています。




