コンジュエ
【コンジュエ】
コンジュエの注ぎ込んだ気と、経絡を突かれた事で治癒力が活性化した男児は、驚く速度で回復し、しばらくすると完全に意識を取り戻した。コンジュエがその傷を見ると、外傷どころか内臓の損傷までも回復しかけている様子であった。
意識を取り戻した男児は人間の言葉を話せなかったが、不思議と心の波動で意志を伝える事ができる様であった。
コンジュエは男児から送られた波動により、男児の生い立ちと、事のあらましをを知った。
(この子は……一体……)
人間とも魔物とも判断がつかなかったが、コンジュエが一つ確信していた事は、その男児は命の尊さを知る心優しい子供であると言う事であった。
だが、獣達と暮らし世の善悪を知らず、更には感情を制御できない為、今回の惨事が生じてしまったのだと悟った。
(命を奪うは大罪なれど、それを償うは命のみではないはずだ……)
コンジュエは自分がこの子に正しい道を示してやるのが仏のお導きだと思った。
コンジュエが様々な考えに耽っている間、男児は地べたに座りこみ、ずっと空を眺めていた。
「空が好きか?」
コンジュエの言葉に、男児から違うという感情の波動が伝わった。
「じゃあどうしてずっと空ばかりを見ているのだ?」
男児は空を指さした。空に浮かぶ白い固まりを指さした。
「雲か。あれが好きなのか?」
男児から笑いの波動が伝わった。
「そうか」
コンジュエも自然と笑みがこぼれた。
「お主には名前がないようだから、儂が名付けてやろう」
コンジュエはそう言うと、ゆっくりとした口調で何度も発音しながら、新たな男児の名を教えてやった。
「ユ……ィ……ン……、ユィン……、ユィン」
「ユ……ィン?」
「そうだ! ユィンだ! お前の好きな空に浮かぶ雲のことだ」
コンジュエがそう言ってやると、男児は嬉しそうに何度もその名を繰り返した。
「ユィン! ユィン! ユィン! ユィン! ユィン!」
そして、さらに口を開いた。
「あ……りが……とう……」
「お前、言葉が話せるのか!?」
コンジュエの驚きに、ユィンはまたも感情の波動でなく、言葉で答えた。
「すこ……し……おぼえ……た」
ユィンはコンジュエが話す言葉や波動から、この短時間で言葉を学んでいたのであった。
コンジュエは必死になって、様々な言葉を教えてやった。自分の名前、物の名前、挨拶や様々な言葉を……。ユィンとのやりとりが遠い昔の己と重なり、コンジュエの目から涙が流れた。
「コンジュエ、かなしい?」
ユィンの言葉に、コンジュエは首を振った。
「嬉しい、嬉しいだ」
「うれ……しい? うれしい?」
「あぁ、ああ」
コンジュエとユィンは村人の遺体を丁重に埋葬し、祈った。コンジュエはユィンに何も言わなかった。ユィンの心が張り裂けそうになっているのを感じていたから……。
そして、二人は山の獣達にも別れを告げた。
「ユィン、今日からお前は人間として生きるのだ。決して感情に惑わされ魔物となるな。良いな」
「うん」
「ははははは、では行こうか!」
「うん!」
こうしてコンジュエとユィンの旅が始まった。
コンジュエとユィンの旅がこうして始まりました。
二人の行く末を見守ってやってください^^




