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かずさとノエル⑤

 戸が風に吹き付けられ、ガタガタと揺れる。囲炉裏の火に照らされながら二人は話を続ける。

 かずさにとってノエルに家族がいたことなど初耳だった。そして両親がすでに息絶え、自分が拾われたことも。

「親父様はそれからどうしたのですか」

 前のめりになるかずさにノエルは落ち着けと言わんばかりに茶の入った急須を付き出してきた。

 かずさはおずおずと手元にある湯呑を差し出しつつ視線で続きを促す。

 かずさに茶を入れた後、自身の湯呑にも入れながらノエルは続きを語りだす。

「それからは大変だった…。お前は昼夜問わず泣くし、すぐにどこかへ行ってしまうし。おしめの変え方も乳のあげ方も分からないことばかりで…」

「親父様がご自身のち……った―!」

 突然鍋に入った杓子が勢いよくかずさの顔面に飛んだ。無言で睨むノエルに、額を擦りながらす、すみません、と冗談が過ぎたと反省するかずさ。

「牛や羊の乳をお前に与えていた。立ち寄った村で乳飲み子を持つ人がいればお願いしていたし、ほんとにあの頃は苦労した…」

 仏頂面の大男がいきなり、赤ん坊に乳をあげてください、なんて頼むのはなかなかの光景だ。相当数断られてきたことは想像に難くない。

「お前が乳以外を食すようになった頃くらいだ。東の最果てに能力者の村があるというのを噂で聞いた。行ってみる価値があると思い向かった。それだけだ」

 話を終わらせようとするノエルにかずさは静止をかける。

「いやいやいや、まだ何かありませんか?そもそも1,2歳児がこの村の山脈に耐えれるのですが?人が簡単に上れる場所じゃありませんよ。今も山を渡る際は神の子(能力者)が付いて下山もするし、村も力によって存在ごと隠されていますし」

 この村はある能力者によって許可した者しか入れない結界が張られている。

 また、村を囲う山脈は常人ではまず登れない。かずさたちのような身体能力の高い能力者や浮遊の能力者などが付き従うことで初めて登山できる。

 はあ、とため息をつきながらノエルは続ける。

「お前が能力持ちなのはわかっていた。赤子の時の異様に素早い行動、おもちゃ代わりにものを与えればすぐに握りつぶす握力。お前なら食料さえあれば山越えなど難しくないと思ったのだ。現にお前はここにいる」

 いやでも危険じゃないか、とかずさは釈然としないものの一応は納得する。

 そう、山越え自体はノエルの身体能力を持ってすれば難しくはなかった。しかし危険がなかったわけではない。抱っこひもでかずさを背中にくくり、絶壁の壁を上ったとき、かずさは暴れて一瞬、宙に浮いた。が、幸運にもかずさはノエルの裾を掴み一命をとりとめたのだ。かずさがただの赤ん坊だったなら今ごろ奈落の底の藻屑と化していた。

 過ぎた事は振り返るだけ無駄だ。何食わぬ顔でノエルは茶をすする。

「ですが、どうやって村を見つけたのですか。村には結界があるのに」

「……」

 答えたくなさげな態度をとるノエルだが、前に乗り出し興味津々のかずさに根負けする。

「山脈から降りる時、お前はまた暴れて下に落ちたんだ。慌てて掴んだが私も落ちてしまい、地面で気絶していたところを見つけられた」

 あの時、長時間身動きが取れず、暴れたかずさは30メートルほどの高さから下に落ちた。すでに手元でつかめない距離、さすがに受け身も取れない赤ん坊では死んでしまう、ととっさにノエルも下に落ち空中で掴んだ後、かずさを胸に抱き地面を背にして落ちた。常人は十分死ぬ高さだが、ノエルは持ち前の頑丈さで無傷であった。しかし、自身の体重分の落下速度で地面に叩きつけられた衝撃は多大なもので、そのまま気絶てしまった。

 落下時にはノエルの巨体が出した爆音が周囲に響いた。その音で近くにいた村人たちが驚き見に行くが、堀の深い顔の大男が赤ん坊を抱き、白目をむいている姿はなかなかに奇妙であった。動揺しながらも村人たちはそのまま受け入れ保護し、能力者ということもあって、村は二人を歓迎した。

 多くは語らないノエルだが、かずさはなかなかの珍道中だったのではと察し、少しだけ嬉しくなった。

「親父様と私はずっと前にもう旅をしていたのですね」

 ニコニコと嬉しそうなかずさの目に、照れ隠しなのかツイッと視線を逸らすノエルであった。

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