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かずさとノエル④

 今から15年前。ノエルは大陸中央で傭兵をしていた。類まれなその戦闘力はどの戦場でも重宝され、出動する度に多くの武功を上げた。

 ノエルはとある傭兵組織に属していた。その組織は家族とともに移動し、都度拠点を設けることで、より広範囲な地域で活動できる組織であった。ノエルの家族もまたその拠点にいた。


「俺には妻と息子がいてな。息子はちょうど今のお前くらいの年齢だった。本当にいい子だった。あいつはそろそろ初戦(はついくさ)に出てもいい時期だったんだ」

 ノエルは囲炉裏の火に薪を()べながら懐かしそうな顔をした。

 彼は普段あまり話さない。こんなに饒舌なのは15年暮らしてきて初めての事だった。

 囲炉裏の薪が爆ぜる。



 慎ましくも幸せな家庭を築いていたノエルだったが、ある日、そんなノエルに不幸が訪れる。

 傭兵として戦場にいた時の事だった。仲間から緊急の知らせが入った。傭兵団の拠点が敵に見つかり、襲われたという知らせだった。

 戦場からも遠く、見つかりようもない場所だったが、味方陣営だった一部の将が裏切り、敵に情報を流したらしい。

 その知らせを聞くや否や、ノエルは戦闘中にもかかわらず、戦場を後にし、馬で一目散に家族のもとへ向かった。

 --が、遅かった。拠点はすでに破壊され、女子供の遺体があたりに転がっていた。震える足取りでノエルは家族がいるテントに向かう。

 祈るようにしてテントに入るノエルだが、運命は彼に非情な現実を突き付ける。

 中ではおびえて隅に逃げ、そこで絶命したであろう妻と、その妻を守るようにして前で仰向けに倒れた息子の無残な姿があった。

 妻は背中を、息子は心臓を刺された痕跡がある。身体から流れた血は息子の腕を伝い、握られた短刀の先から血が滴っていた。

 ノエルはあまりの光景に膝から崩れ落ちた。妻は突然の出来事にさぞ恐ろしかったに違いない。息子は震えながら必死に戦ったのだろう。

 自分も普段傭兵として多くの兵士の命を狩っている。これはその報いか。だとしても、あまりにも残酷で、惨い。

 腹の奥で後悔と悲しみと恨みと、怒りがが煮えたぎり、どす黒い感情が沸いてくるのが分かった。許さない。必ず、お前たちを、後悔させてやる…。

 

 ノエルは他の仲間たちと一緒に妻と息子を近くの山に埋葬した。そして墓の前で誓った。この惨状を起こしたすべての奴らを地獄に送ってやると。

 妻の形見の、飴色の鉱石のネックレスを首に下げ、ノエルたち残された傭兵団の仲間は復讐を決行する。

 ノエルたちは昼夜問わず戦い続けた。この時のノエルの戦いぶりを見た者はあれは鬼神だと恐れた。

 怒り狂い、大きなの大刀を易々と振りかぶり、一気に5,6人の首をバサバサと狩っていく。敵、味方問わず戦場にいる誰もがこんな姿に恐怖を抱いた。

 最後に裏切った敵将の首をノエルが取り、圧倒的な戦力差を覆した味方陣営の勝利となって終わった。戦が終わった頃、共に戦った傭兵団の仲間は誰一人残っていなかった。

 

 その後は、当てもなくただひたすらに東を目指した。何もかもどうでも良かった。自分で死のうともした。しかし、胸に剣を突きつける時、妻が揺れるネックレスを通してじっとこちらを見ている気がして、死ねなかった。

 飲まず食わずでもこの身体は簡単には死なせてくれない。もうひと月も生きてしまった。

 だが、ようやく限界のようだ。最期のために静かな場所を探そうと、とある遺跡の廃墟に立ち寄った時の事。

 遺跡はすでに使われていないが、元は神殿にでも使われていたのだろう、大半は壊れ、コケも生えているが、ところどころ凝った彫刻が目に付く。

 歩を進めると人気もないのにどこからか赤ん坊の声がした。入り組んだ道を抜け、倒れた古い石柱を越えてようやく声の主の元へたどり着いた。

 生まれて間もない赤ん坊がいた。赤ん坊はおそらく両親であろう若い男女の遺体に抱かれ、ひたすらに泣いている。遺体の布にはいくつもの矢が刺さり、逃げてこの場所まで来たことがわかった。腐敗して無いため、ごく最近亡くなったのだろう。

 ノエルは悩む。

 生きる希望も何もない自分にどうしろというのだ。これ以上、私はもう何もできない、しない。すべて終わらせるためにここに来たのだ。

 そんなノエルのことなどつゆ知らず、いつの間にか泣き止んだ赤ん坊は可愛らしい声をあげながら、抱っこしてほしそうに両手を突き出す。少し前に乗り出し遺体の腕から落ちかける。

 思わずノエルはその赤ん坊を受け取ってしまった。

 赤ん坊を両手で抱え、難しい顔をしていると、赤ん坊は満面の笑みをノエルに向けた。

 思わずノエルは面食らってしまった。

 隙間から差し込んだ陽光に照らされ胸のネックレスが光る。

 宙ぶらのままノエルに手をのばす赤ん坊は大きな蒼い瞳にノエルを映して笑う。

 もう、自分に何ができるというんだ。どうしろというんだ。運命のいたずらにやり場のない感情を向ける。

 しかし、もう引き返せない。抱いてしまったこの手はもう離せない。

 ノエルは無邪気に笑う赤ん坊をゆっくりと抱きしめたのだった。



かずさの両親はおだやかな笑顔で亡くなっていたりします。

裏設定ですが、父親は未来予知能力者で、その力を狙われて家族で逃げていました。ですがこの力、突発的に見えるものでして、危険を回避して逃げ切るには困難が伴いました。

結局廃墟の宮殿で亡くなってしまいますが、最期の時、二人にはノエルがここにきてかずさを拾い、幸せに暮らす未来が見えたのでしょう。

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