第31話「王都の街並み」
「凄い……」
私達はエンチャント屋に行くために街の中を歩いていた。
しかし改めてこの街は大きい。サーショ街の規模を更に大きくしたような感じだ。
建物はより大きく、高く、華やかで、道は広く、大きく、いくつも枝分かれしている。
そして王都だけあって、遠くには大きな宮殿が見えた。
これだけ大きな街なのだから、この街を歩く人達もまさしく千差万別だった。
戦いとは無縁そうな普通の街人や、ローブに身を包んだ人、鎧を着たガタイの良い戦士、
獣の耳としっぽが生えた獣人と言った様々な人が居た。
……しかし、その中にも特に気になる人達が居た。
大きな頑丈そうな首輪をはめた人達だ。
彼らはみんな荷物を持ってたり、荷台を引いてたりと
何らかの肉体労働を強いられていた。
これはまるで……
「奴隷が気になるんですか?」
彼らをじっと見てると、リーナがそんな事を言ってきた。
「奴隷?彼らは奴隷なの?」
「はい。首輪をしている人は服従の魔法をかけられた奴隷なんです」
「何それ酷い……」
奴隷……まさかそんな非人道的なものまで存在するなんて。
「確かにちょっとかわいそうだと思いますけど、
犯罪者か借金を返せない人しか奴隷にしてはいけないと言う決まりがあるので
それでも奴隷になった人はしょうがないと割り切るしかないですね……」
つまりこの世界における囚人のような扱いが奴隷と言う事か。
そう考えると納得できなくもない。
……それでも見ていてあまり気分のいいものでは無いけれど。
しばらく歩いていると、街の広場に出た。
広々とした広場の中央には、2人の男女の像があった。
片方は剣を構えて鎧に身を包んだ戦士風の青年で、
もう片方は杖を構えてローブを着込んだ魔術師風の女性だ。
「あの像は何なんだろう?」
「あの像ですか?あれはこの世界を救ったと言われる勇者と賢者の像ですね」
「勇者?そんなのも居るんだ。……もしかして魔王なんてのも居たりするの?」
勇者の存在意義は魔王を倒すもの、と言うのがファンタジーにおける常識だ。
「はい。昔この世界は魔王ベルーゼによって支配されていたけれど、
ある日、こことは違う世界から勇者リュウザキがやってきて、
賢者ラプラスと共に魔王ベルーゼを倒したと言う話が残ってるんです。
もう100年以上も前の出来事ですね」
やっぱり居たか魔王。でも、もう勇者に倒された後みたいだ。
しかし、それよりも1つ、凄く気になる事があった。
「こことは違う世界から来た……?」
「はい。詳しくはわかりませんが、確か「ニホン」と言う世界から来たそうです」
「日本……!?」
間違いない。昔魔王を倒したと言う勇者は日本、つまり私と同じ世界から来た人だ。
リュウザキと言う名前も漢字で書くなら竜崎、日本人の名前だ。
まさか私よりも前にこの世界に来た日本人が居て、しかもそれが勇者になったなんて、
もしかしたら私も勇者になって魔王を倒さなければならないんじゃ……?
「魔王……って勇者に倒されたんだよね?まだ他にも居るとか、復活するとか無いよね?」
「ええと……そんな話は聞いたことがありませんね。
魔王は勇者に倒された1人だけですし、その魔王が復活するなんて恐ろしくてたまりませんよ」
「そ、そうだよね。ごめん、変な事聞いちゃって」
「……?」
リーナにはまだ私が異世界から来たと言う事は打ち明けてはいなかった。
しかし、これで余計に打ち明けるわけにはいかなくなった。
とりあえずこの心配は杞憂であって欲しい。そう願った。




