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コンプレックス(ツイッターより加筆転載)

『好きなcpの攻に俺が浮気したらどうするって言わせて受がどう返すかでのcpに対して理想が現れる』


っていうタグを見て。

《トム×エッティ》バージョンでお送りします。

「なぁ、エト。オレが浮気したら、どうする?」

「えっ?」


 ぶわっと冷気が通りすぎたかと思うと、ビシリと背後の壁に亀裂が入った。


 見開かれたサファイアの瞳。いつ見ても愛しいそれが、今だけは恐ろしい。というか、現在命の危機である。あまりの殺気に肌が粟立つどころの騒ぎじゃない、心臓は変な動きをしているし、タマも縮み上がってしまった。


「そんなご予定でもあるんですか、トムさん?」

「じょ、冗談だって……」

「ついさっきまで可愛い可愛いって言ってくださっていたのに、わたしに何か不満があるのですか?」

「全然ないよ」

「全然? まったく? ちっとも? 本当に?」

「誓うよ」


 いやはや、声が震えなかった自分を誉めてやりたいね。というかエト、さすがにシーツ一枚の格好でその冷気は体に悪すぎるんで収めてもらえないかなぁ、なんて。


「むしろないから……」

「え?」

「全然なさすぎて、それが不満なのでは?」


 オレの頭の中にたくさんの疑問符が浮かんだ。彼女はいったい何を言っているんだろうか。オレがその疑問を口にするより先に、エトワールは一気に喋り始めた。


「そりゃあ、わたしだって自分の体がそんなに魅力的だとは思いませんよ。いつか成長するかもなんて思っていたのに、ぷにぷにになるのは腕とかお腹ですし、足が細いのが羨ましいとか言われますけど、お尻もぺったんこで固いですし! トムさんは気にしないって言ってくれますけど、リアンさんはおっぱい大きかったんでしょう!? 知ってるんですよ!!

 わたしは……わたしだって……! なれるものなら巨乳が良かったです! うわ~ん!!」

「ええっと……?」


 リアン……最初の妻だった彼女のことを知っているのはジェレミアだけだから、きっとアイツがいらない情報を吹き込んだのだろう。よし、今度会ったら絞める。


 それはさておき、オレの八つ下の奥さんは自分の体型に関して実はとても気にしていたらしい。彼女はどちらかと言えばスレンダーボディで、はっきり言えばまるで少年のように肉付きがない。幼児体型とはちょっと異なるが、ぺたんこさではいい勝負だと思う。


 そうか、裸になるのを恥ずかしがったり、自分を卑下したりしていたのは、そういう事だったのか。何度も「わたしでいいんですか?」なんて念押ししてきたのも、きっとコンプレックスが原因だったんだな。疑問がひとつ氷解してオレは少しスッキリした。


 しかし事態は深刻だ。エトワールはわんわん泣いてしまって部屋の中が台風状態だし、そもそもここは借家だし、ついでに言えばさっきから夏なのに雪が舞ってる。早くなんとかしないとオレたちどっちも死んでしまう。


「なぁ、エト?」

「トムさんのばかぁ!! えっち! ハゲちゃえ~!」

「待ってくれ、それはひどい!」


 オレの頭がピカピカになっても変わらず愛してくれるんだろうな、エト?


「どうせ何にもないです! ぺったんこです! まな板ですぅ!」

「いやいや、まな板よりはカーヴがついてるから……」

「そんな問題じゃありません!!」

「う、うん、ごめん……」


 慰めようとしたらキッと睨まれた。オレはどうやら選ぶ言葉を間違ったらしい。


「もう、いいです!」


 エトワールはぷいっと横を向いてしまった。オレはその耳の後ろにそっと口づけして囁いた。シーツ越しに彼女の輪郭を柔らかく抱く。


「愛してるよ、エト」

「……っ!」

「可愛いオレの奥さん。信じてもらえないかもしれないけど、オレは姿かたちで誰かを好きになったりしないよ。どこが出てるとかへっこんでるとか、そんなの些細な問題だ。

 オレはきみの笑顔に惚れたんだから。きみが好きだから、きみと一緒にいる」


 エトの、貝殻みたいな白い耳が朱に染まった。


「不満があったら言うようにするよ、だからきみもそうしてくれ。

 変えられないこと以外の部分は、二人で何とかしよう。きみが望むなら、髪の毛だって、剃ったっていい」

「それはだめ!」


 エトワールはようやく振り向いてくれた。そして、オレの胸の中に飛び込んでくる。


 凹凸の少ない軽い体は、オレの体にぴったりと寄り添う。オレはその密着感が好きだ。彼女はいつもオレに全体重を預けてくれるけど、それだって、彼女がもし肉付きが良ければ腰をやるから受け止められないだろう。


 オレは彼女のたっぷりとした黒髪を掻き混ぜて言った。


「オレたちは、今のオレたちだからこそ、こうして一緒にいるんだとオレは思う。きみが違っても、オレが違っても、この幸せはなかった」

「トムさん……」

「だから、二人で一緒にいよう。ずっと。きみがおばあちゃんになったって、オレはきみとこうしてたいよ」

「嬉しい! わたしも、愛しています……」

「うん、愛してる。なにも気にせず、オレの側にいてくれ」

「はい!」


 いつしか風も寒さもおさまっていた。明日の朝いちばんに謝りに行かなくちゃいけないだろう。けど、エトワールが笑ってくれるなら、これも安いもんだ。


「ところで、豊胸には鶏肉が良いって聞くけど?」

「もうっ、トムさん!?」

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