22.ナーロ街に来たプロ作家は住人にこんな目で見られているのかもしれないという妄想
基本的にナーロ街は、プロ作家を目指すワナビのために用意された場所です。
ところが、最近はプロ作家がナーロ街にやって来て作品を執筆するという、本末転倒なことも多くなりました。
「ナーロ街発の書籍化作品が売れているから、それにあやかろうとして、出版社が自分の所のプロを送りこんで来たんじゃないかって、もっぱらの噂だよ」
おじいさんの住居に遊びに来たモウルが、そんなことを言いました。
「もしくは、そういうことにして、出版社が売れないプロを体よく厄介払いしたのかもしれんのう」
おじいさんは、何の根拠もない自説を述べ、住居の機能を使って最新連載作品リストを閲覧し、
「モウル、見てみい。最近またプロ作家が一人、ナーロ街に来て、何やら新作を連載し始めたようじゃ。しかし、予想通り、読者数も評価点もパッとせん。もとより一般向けの作品とナーロ街ウケする作品は、傾向からしてまったく違うんじゃ。せっかくプロになれたのに、慣れない場所で一から出直しとは、かわいそうにのう」
何の根拠もなく同情していました。
そして、その一週間後、
「あのプロ作家の連載作品に、昨日から急に評価点がどっさり付き、読者数も順調に増えておる。出版社め、書籍化を見込んで露骨に工作を始めおったな。社員が人海戦術で作家に協力すれば、そこらの互助会以上の組織票を使えるからのう。汚い奴らめ」
おじいさんは、何の根拠もない陰謀論にとりつかれて、見えない何かと戦い始めました。
そして、その一ヶ月後、
「あのプロ作家の連載作品の書籍化が決定したそうじゃ。大方、『ナーロ街で大人気!』、とか宣伝文句を付けて売るつもりなんじゃろ。虚構の人気じゃが、何も知らない一般人に区別は付かん。まったくもって嘆かわしい限りじゃ」
おじいさんの症状は、悪化する一方です。
そして、その三カ月後、
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、あのプロ作家の連載作品が書籍化したまでは良いが、案の定、まったく売れなかったそうじゃ。さらに、打ち切りどころか、出版社はそのレーベル自体を消滅させるつもりらしい。創設以来ヒット作がまるでなかったからのう。あのレーベルの新人賞は、ワシの作品を一次審査で落とし続け、くだらん作品ばかり入賞させておったから、当然と言えば当然の結果じゃ。愉快、愉快」
今までの根拠のない怒りはどこへやら、おじいさんは実に晴れやかな笑みを浮かべ、まったく自分とは縁もゆかりもないそのプロ作家と出版社の不幸を、心の底から喜んでいました。
そんなおじいさんを見ながら、モウルは、
「ワナビだ。この人は骨の髄までワナビだ」
と、戦慄すら覚えました。




