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黒竜は運命に鳴いて泣く



外では今でも戦争なりなんなり起こっているがこの閉鎖的空間である学園は平和が約束されている。

そんな平和空間を掻き乱すのがイベント、魔物の乱入だ。

普通結界が壊れるのは有り得ないと思うし、そんな強い魔物が防衛ライン突破して学園まで一直線って少なくとも警報の一つでも鳴るはずだというのに都合良く故障だなんて。


おそらくこれがイベントだろう。

どんなイベントなのか内容までは知らないが魔物がやって来ている時点でそれをヒロインと攻略対象達が倒すものか懐柔するものかだろう。前者が有力だとは思うが。

分かりやすい明確な悪を知る為の、魔物と魔族の区別も知らない生徒達(プレイヤー)への洗脳イベントなら最悪だ。

悪魔達も好戦的だし、先の大戦のせいで魔族や悪魔達にとっては人間は悪だと思ってる。

ヒロインの選択肢次第で再び戦争は起きるだろう。その時までにどうすればいいのか。俺はどちら側に付くのかどちら側に(・・・・・)付きたいのか(・・・・・・)


そんなのは決まっている。

俺は悪魔(レヴィ)達の味方をするだろう。


だけど人間が全て悪だとは思えないし、シナリオ通りの勝ち目のない戦いをしたいわけではない。もし、何か平和的なルートがあるのなら協力はしたい。

今まではなるべく関わりたくはないと思っていたが、もし本当に俺が舞台(ゲーム)の悪役なら避けては通れないだろう。ならば最善の道を選ばなければいけない。




ヒロインがいる学園へ来るのだからゲームのシナリオが動いてる証拠だと言えるだろう。

パニックを起こす生徒達の波が校門から溢れてくる。俺はその波にのまれぬように避けながら、校舎を通り抜けて行く。



「ドラゴンだ!黒いドラゴンがやってきたぞっ」

「最厄の襲来だ!どうしよう!…でもきっと生徒会の皆様方がいるから大丈夫なはず…」

「そうだそうだ!」

「でも死にたくない!」

「ひゃああ怖いよぅ…」

「やだぁ死にたくない!どいて!」

「生徒会の皆様方!どうかどうかお救い下さい!」



教師や警備の者、魔物相手なら騎士団が助けがくるとは誰も言わない。あくまで生徒会が助けてくれると思っている。異常だ。

学園優秀な魔法使いの生徒会とはいえまだ子供だ、魔物も狩った事ないような経験値の足りない未熟な魔法使いだ。どんなにチート級に最強な魔法使いでも、魔物を相手にするというような緊張感を味わった事がないおぼっちゃま達が多いだろう。一部を場馴れしてそうな顔はしているが焦りが見える。

その彼等を狂ったように頼りにする生徒達。


この学園の支配体制のせいか、ゲームの強制力かはわからない。


できればヒロイン達と攻略メンバーの戦闘を見てみたいと思う。

どんな戦い方をするのか、敵になる可能性が高い以上知っておいて損はない。どんなに和平を望んでもそれが限りなく低い可能性は先の大戦の聖女の話でわかる。悪は、悪魔は滅ぼされるもの…聖女と悪魔との相性が悪すぎること。圧倒的に優位な相手(ヒロイン)に選択肢がある時点で、こちらに選ぶ権利はない。


それにこれがイベントならヒロイン達が死ぬのような事はまだないはずだ。

死にそうな場面になってヒロインを見殺したらどうなるか不確定要素すぎてわからないが、おそらく学園が終わるまでヒロインの物語は続くはず。

まだこんな序盤なのだからヒロインが生きている可能性の方が高い筈だ。ゲームだからバッドエンドにでもならない限り…


心のどこかではヒロインが、聖女が死ねば……この葛藤も終わり運命を覆せるのではと思って仕方ない。

レヴィも気付かないほど聖女としての圧倒的聖のオーラを纏っていなかった。まだ聖女として繭の状態だとレヴィは言っていた。

聖女として完全に覚醒する前にヒロインを殺してしまえば…

そしてこれが聖女への覚醒イベントなら手遅れになる。



レヴィから聞いた、本来竜は魔界に住まう者、龍の下位種、そしてアレは人間に研究され複製された魔物だということ。

戦時利用する為に造られる魔物の一種、使い魔だ。

この学園ではお馴染みの使い魔になるべく産み出された者。


おそらく洗脳される前に研究所から逃げ出した一匹で自由になりたいが為に逃げている。

レヴィ曰く、人間と契約するまでは人間を傷付けないように遺伝子操作されているから大丈夫だというのに大騒ぎしている。

そりゃあ誰も使い魔と魔物の区別はつかないし、研究所側も不手際を暴露したくない。

だから発表もされず、情報統制するのだけに必死だ。ここには権力者の子供達が通っているというのに、いくら隠蔽の為とはいえ避難指示ぐらい出せばいいのに。本来なら有り得ない事ばかりが起きている。


おそらく竜は抵抗出来ずに死んでいくだろう。淘汰される魔物とはいえ、いつも相手している魔物よりも知性が垣間見えて少し情がチラついてしまう。

魔物は魔物とはいえ、被害を出すような魔物ならまだしも契約しなければ被害も出す心配もない自由になりたかっただけの哀れなドラゴン。

これはおそらくではなく確実にイベントだ。ヒロイン達の為だけに用意された舞台。ならばこの黒竜も死ぬ為だけに用意されたかヒロイン達の使い魔になるか、そう世界から運命づけられた生き物。後者ならまだいい、前者なら……




あまり使われない旧校舎の階段を駆け上がる。

ユールフィア学園には本校舎と建て壊しが予定されている旧校舎がある。本校舎の裏口から旧校舎へと渡る通路があり、今は鍵で施錠され誰も入れないようになっているがそれを壊し、パニックとなった生徒達など誰も入って来ないように魔法で付け直しておく。氷で扉はがっちりロックしてあるから火の使い手でなければ溶けないぐらい頑丈にしておいた。

一段一段が重たい。一応人の気配に気にしながら急いで屋上へと向かう。


旧校舎を選んだのは本校舎の屋上だと誰かいるだろうと思った為。イベントの内容は知らないが、もしメンバーが集まるならおそらく本校舎の学園内か下の運動場だろうと思った。

勿論、旧校舎にもいる可能性はあったが普通にいつも通りの鍵がかかっていたし先客がいたら退散するつもりだった。

やはり本校舎の屋上には赤髪の、とても目立つ生徒会の奴がいる。赤髪だというとあの最強の二つ属性持ちの奴だ。幸いこちらには気付く気配はない。目の前の漆黒の竜と下の運動場にいるメンバーに夢中だ。


下の運動場にはちらほらとカラフルな頭がある。

その中の二人はあの時のヒロイン…桜川 琴葉と友人の皆口 藍。

桜川 琴葉は腰を抜かせてへたりこんでいるが、それを庇うように皆口 藍と生徒会の男達が囲んでいる。


半分悪魔の俺は下からの光景も良く見え、集中すれば声も聞こえてくる。

桜川 琴葉が逃げ遅れたのか庇っている奴らも息遣いが荒く、焦りが生じているのがわかる。唯一皆口 藍は震えが止まらないといった感じでそれでもどこか余裕がある顔をしている。

屋上にいる赤毛はどうするか悩んでいるといったところか。一見冷静そうに見えるが握った拳から血が滲んでいる。その事にも気付かずただただ佇んで見ている。

助けるか逃げるか。

ちっ、と舌打ちをした後、決意したのか赤毛は魔法を無詠唱で叩き付ける。

その衝撃で鉄柵は壊れ、激しく燃え上がった火の魔法と迸る雷撃の魔法が重なり合い、蛇のような竜が天高く舞うような攻撃が射出される。

しかし、スピードが出ておらず黒竜も大きな巨体をしているというのに難なく躱してしまう。


焦ったのか今度は弾丸のように素早さだけを重視した二属性の混合魔法をいくつも打ち出すが、全て翼でいなされてしまう。

圧倒的火力の火属性と雷属性だというのに全く効いていない。

呪文を詠唱させてより強力な上級魔法を打ってみせるが黒竜には避ける必要もないほどノーダメージのようだ。

赤毛の、普段よりも全力を出せていないとはえ精霊の力を借りている魔法ですら黒竜には及ばない。



「テメーらも突っ立ってないで攻撃しろっ!!」



ハッとしたように他のメンバーも各々攻撃をし始める。

詠唱が響き渡る。しかし緊張の為か集中出来てない。細々と自信なさげな声を表すかのように捻り出した魔法は消えたり届かなかったり。

本来この赤毛が可笑しいのだ。

俺でさえ初めて見る竜はいくら危害を加えないとわかっているのに手が微かに震えている。

自身より大きい者を前に恐れを抱くのは当たり前だ。それに相手は圧倒的強者のドラゴン。人間なんてやろうと思えば簡単に殺され食われる。


戦った事のない相手を前にして未知と恐怖の戦い。



「無理……っ!」

「なんで!なんで!魔法が出ないんだ!」

「皆さん!落ち着いて下さい!あたし達は絶対に勝ちますからっだから落ち着いてあの黒竜を攻撃して!皆でタイミングを合わせて魔法を合体させるの!」

「どういうことだ?」

「なんで俺がお前らなんかと…」

「他人と合体魔法なんてできるわけない」

「琴葉がいる!琴葉!」

「藍ちゃん…わたし」

「琴葉はとにかく皆さんの助けになりたいって!願って!」

「藍ちゃん……」



力を合わせて倒す、か。まるで知っているかのような説明口調の皆口 藍。転生者なのかもしれない。

考えている間も桜川 琴葉から感じる聖のオーラが徐々に強くなっている。

このままだと聖女として覚醒し、黒竜を倒す展開になるのか。


黒竜は、死ぬのか。



「イル様」

「レヴィ……」



レヴィが使い魔サイズの姿から本来の姿へと戻る。



「イル様もわかりますよね。これは茶番だって。ワタクシも竜がどうなろうと正直どうでもいいです。だけど、聖女が覚醒するのは見ていられません。芽は摘んでおくべきです」

「たしかに覚醒はさせるべきではないと思う。だが、繭とはいえ聖女を殺す力は俺達にはない」



そう、最強の悪魔であるレヴィでさえ聖女には手を出せない。

繭の状態でも神の加護は現在しており、悪魔がいかなる攻撃をしたところで死に至るほど攻撃は通らない。魔法は衝撃が少し届くぐらいだ。死ぬほどに力を込めた物力の拳も子供のパンチと変わらぬほど。

繭の状態でこれなのだから覚醒などしたらその時点で何もできなくなる。

先代ロベリアのように為す術もなく死にゆくだけ…


しかし繭の状態でならば穴はある。



「イル様、これを」

「これは……魔石?」

「悪魔専用の魔石です。龍玉に悪魔の、闇の力が込められたものでイル様の手助けになるはずです。

聖女はまだ加護も弱い段階だから…悪魔として、魔王として覚醒すれば…今なら聖女さえ殺せます」



考えている暇はもうない。

どうすればいいかなんて本当はとっくに答えが出ている。

俺は人間(七瀬 静馬)だ。たとえ悪魔になってもそれは忘れない。



「レヴィ……今はそれはいい」

「イル様?」

「悪魔とか魔王を否定するわけじゃないが、ただそれじゃあ勝てない(・・・・)



力が欲しい、だけど悪魔の力に頼るわけじゃない。俺は俺として強くなる。でなければいつまで経っても精神が伴わない未熟な己で運命に勝てるわけがない。

しかし使えるものは使うべきだとは思う。

それには力に見合った器が必要だという話だ。


その魔石から感じる魔力は確実に俺を高め、魔王へと至らしめるきっかけになるだろう。


だが、今の俺では扱いこなせない。

悔しいがそれが現実で怠慢の結果だ。



「言いたい事はわかりますよ。今のイル様で賭けに出て勝てる見込みはそこまで高くないと思います…でも今じゃないといずれ……むぐっ」

「レヴィ」



柔らかい唇に指を添える。



「問題を先送りにすればいいんだ」





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