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終わりのない後悔と贖罪

過去編です。

なるべく直接的な描写は避けていますが、胸糞悪い展開なのでこのページだけ飛ばすの推奨します。




母さんが優しかった時があったわけではない。母親似のこの顔は余計母さんを腹立たせていたし、またこの顔を利用されたこともある。

母さんに好かれようと必死だった時代、珍しく上機嫌でポテトチップスをくれた。味はコンソメ味。母さんから殴られず食べ物をもらったのは初めてで嬉しかった。いつも通り犬の餌皿に乗せられたポテトチップス必死に食べてがむらしゃらに頬張った。

あ、やばい。音を立てて汚く食べたから怒られると思った。ライターで舌を炙られるか、爪の皮を剥がして剥がしたモノを食べさせられるか。


だけど降ってきた言葉はスープも飲むかい、というもの。

怒ってないということが嬉しくて必死に首を縦に降った。

コンソメ味のポテトチップスに温めた薄い色の牛乳を入れてくれた。それをを犬の餌皿で犬のようにずるずると啜った。

母さんの初めて見た眩しい笑顔。母さんが俺の事少しは好きになってくれたのかなと嬉しかったし、生まれて初めて飲むスープはあまり美味しくはなかったけど母さんが用意してくれたことが何よりも心があったまった。


母さん、女の子が欲しかったんだよ。母さんの為に女の子にならないかい?

涙が止まらなかった。母さんが喜んでくれるなら。母さんが愛してくれるならと俺も了承してしまった。

性器を刃物で切り取られてから止血の為と言って炙られたけど母さんが笑っていたから我慢できた。

俺は男として失ってはいけないものを失った。

ゴミ箱に捨てられたソレを薄目で眺めながら、失神し気絶をした。その日からボーッとする頭と激しく襲われる悪寒に耐え、煮え滾るような熱さと戦った。無くなった筈のソレがジクジクと傷んで膿んでいた。


それからしばらく3食の食事が続いた。何日も食べれなかった日が嘘のようだ。

だけど高熱が続いて食事がなかなか喉を通らないけど母さんの機嫌損ねたくなくて必死にかき込む。気持ち悪くて熱で身体が重くて下半身の激痛が絶望を呼び起こさせるけど辛い顔はあまりしないで頑張る。悪夢にうなされようとも母さんも父さんも殴ってこない。

天国のようだった。




おじさんの相手をするまでは。


おじさんは笑って言った。

おじさんのスープは美味しかったかい、と。


押さえ込まれておじさんは息を荒らげながら人を殺ししてみたかったんだと言った。

ぐぐっと首を締められる。

ギリギリまで呼吸ができず、苦しくて苦しくて手足をばたつかせるけどそれを喜んで楽しんでいるようだった。

手を離された瞬間、咳き込んで必死に息を吸い込んで呼吸をしていると、いつの間にかどこからか取り出したのか大きなナイフを持っていて、それを顔の近くでチラつかせていた。

顔に滑らせて浅く切りながら、服を切っていく。



おじさんのスープ好きでしょう?


そう言っておじさんは俺を殺しにかかってきた。

今まで何度も死にかけた事はあったけど本当に死んでしまうところまで来てると肌で感じとった。

死んだら楽になれるかもしれないと思ったけど生きてたら母さんがまた笑ってくれるかもしれない。


股間のモノを思い切り蹴って怯んだ隙に落ちたナイフを拾う。

子供の力じゃなかなか上手く刺せなくて、おじさんに殴られて反抗が終わる。

おじさんは嬉しそうな声でよくもやってくれたな、と言った。

両手にナイフが刺さる。

痛くて痛くて涙が止まらなかった。手が熱い。男としての尊厳さえ踏みにじられそうになる。悔しくて悔しくて痛くて苦しいのは俺が弱いせい。俺に力がないから。


汚くなった俺を母さんは愛してくれない。


痛みに耐えながら気付かれないよう少しずつナイフをズラしていく。大丈夫、痛みには慣れている。大丈夫と心の中で何度も叫びながら、嗚咽を混じらせているけどおじさんは息を荒くするばかりで気付かない。いつもの暴力もそうだが時間が経つと次第に痛みがスーッと薄れていく時が来る。その時は回数を増す度に時間も早めて行った。今では最初の痛みを我慢すればほとんど痛くなくなってきた。むしろ変な高揚感がある。殺意、とでもいうのだろうか、相手をどうにかしたくなる。父さんみたいに、人を壊してみたくなる。いけないとは分かりつつもこの時の俺は善悪の感覚が麻痺していた。

そうしているとおじさんに隙が生まれた。

抜いた勢いのまま手に刃物を持って柔らかそうなおじさんの首を刺した。激しく血が吹き飛ぶ。掌が熱く焼けるようだ。

おじさんはびっくりしてそのままベッドの角に頭を打ち付けた。

そのまま動かなくなっていく…


これが俺が初めて人殺しをした時だった。



母さんが様子を見に来るとと怒りの形相で近付いてきた。

なんで死んでないのか、と。悪魔の血を引いた人殺しめ、と。子供の顔をした鬼、だと。役立たずのゴミ、だと。

父さんと男の人達がおじさんの死体を片付けると今度は俺の番なのか腹を殴られる。クソガキが、よくもやってくれたなと言って俺を蹴っては蹴っては血塗れの手のひらをグリグリと踏み潰される。流れる血液。寒くなってきてそのまま意識を飛ばしてしまった。

その後最低限の治療もされていて俺は生かされていたけど俺を生かしたのは損した分を回収する為、買い手が見つかったらまた売られるということ。つかなかったら保険金をかけて殺そうと言っていた。


でも母さんは良かった、と言った。あたしより汚くて良かった、と。

最初で最後頭を撫でられた。

俺は永遠に愛される事はないと子供ながらに悟った。


結局母さんは自分より下の俺を見て笑っていた。

下の存在がいる事が嬉しそうだった。

父さんとは愛がある仲というわけではないみたいだった、たまに母さんも父さんに暴力を振られていた。

母さんはそれが嫌だから俺に死んで欲しい一面、生きて代わりに殴られて欲しいと言った感じだった。ついでに自身のストレス解消の為にも。

だけど父さんは俺を金に代えたい。殴られる代わりがいなくなってしまう。


母さんがしたのは新しく子供を作る事だった。

父さんも子供はまた売れるだろうし、金稼ぎに使うつもりのようだった。

誤算は母さんは子育てができない人間であること。お風呂場で産み落とした赤子に愛情など微塵もないといった感じですぐに売れなければやはり捨てるか悩んでいた。

父さんが面白半分でした遊びが反射的に俺の身体を動かした。父さんから誰かを庇うなんて初めてなこと。

するとそれからただの穀潰しの俺が赤子の子育てを任された。初めて見る赤子は無邪気だった。可哀想だな、と思って死ぬまでの気まぐれになればなと思っていた。

泣き止まないとよく赤子ごと蹴られた。灰皿や酒瓶などよく飛んできた。

赤子は何も知らない顔をしていつまでも母親を求めて泣き叫ぶだけ。それが俺には鬱陶しくてどうしようもなかった。どうすればいいのかわからないのに。どうしたら泣き止むのか、どう世話すればいいのか。

母さんに聞いてもおむつとミルクがあればどうにかなるというだけ。

おむつとミルクも買うお金を渡されて街に出た。外はとても眩しく感じるのでささっと買って出ようと思った店員の目線が痛かった。

説明書も見ながら、なんとかおむつを替え終わると先程泣き喚いていたのにすやすやと安らかな顔で眠る赤子。

呑気なものだと思いながら見ていると不思議と涙が出てきた。

久しぶりに泣いた気がする。


俺の妹はこんな地獄の中に産まれなければ、もっと普通の家庭に産まれていれば幸せになれたというのに。

赤子の頃は俺もこんな感じだっただろうか。俺にも上の兄弟がいただろうか。母さん以外の誰かが育ててくれたんだろうか。凄く手間かかっただろうな。


妹が俺と重なるとこの子にまで同じ思いをさせるなんて。

愛情に飢えている俺の事を愛してくれる存在に、家族になってくれるじゃないかと最初は打算的に思ったのに、今ではどんな形でも幸せになって欲しいと願っている。


その為にはこの地獄から抜け出さないといけない。まだ子供な俺と小さな妹がこの世界を生き抜けるかわからない。

お金を貯めて、協力してくれる大人が必要かもしれない。

すぐには無理でも妹が両親の事を覚えていない内に行動しようと思った。


色々考えてたら揺れ動きすぎたのか妹を起こしてしまった。

泣いてしまうと思ったのに、妹は朗らかに笑った。キャッキャッと無邪気に喜んでいる。何がそんなに楽しいのかわからない、眠りを妨げたというのに。

馬鹿らしくて俺も笑ってしまう。

妹の為に俺も生きてみようかと思った時だった。


その姿を母さんに見られていて、幸せそうな姿に見えたのだろう。

惨めな俺が惨めじゃなくなったのが気に食わない、鬼のような形相になっていた事を俺は見て見ぬふりをした。

もう母さんは家族だとは思えなかったから。怒りを妹にぶつけてこなければいいと思っていた。ちゃんと見張ってれば大丈夫だ。

この幸せが壊れないよう心に誓った筈なのに。


そうして油断した俺は妹を殺してしまった。



俺は人殺しだ、どうしようもない。

もっと早くから死ねば良かった。もっと早くから殺せば良かった。

その事ばかりが頭に浮かんで。不思議とおじさんや両親を殺した事への罪悪感が無くて。

違和感ばかりが俺の中で埋め尽くされていた。

妹への謝罪だけを口にする自分自身が気持ち悪い。そう、冷静に分析する自分が遠くにいた。

狂ってしまった俺とマトモだと取り繕うように思考だけする俺が同居する奇妙で不気味な人間なのが七瀬 静馬。


人を殺しておいて真っ当な人生を歩もうとした報いは受けなければならない、とどこかで思いつつも前世でも自問自答をしていた。

死んだ人間に償いなどどうやってできようか。死んでその先で本人に詫びるしかないじゃないか。

遺族の事など考えもせずに俺は無責任に死ぬ事だけを考えて生活してた。


皮肉にも殺したおじさんの家族に引き取られるとは思いもしなかった。

絵に描いたような幸せな家族を俺は引き裂いてしまった。その事に気付いた時にすぐにお義母さんに本当の事を言った。

お義母さんは知っていた、と言って俺を抱き締めてくれた。

おじさんの性癖に気付いていた。おじさんは影で何人も犯しては殺してきたのを見てきた。

お義母さんは自身の家庭を守る為に、何も知らない子供達の理想の父親を崩さないよう、見て見ぬふりをした。

人殺しの父親がいたなんて世間が知ったら今の家庭が壊されてしまう、尊い犠牲は出ていようが自分の家族の為にしてはならない事をしてしまった、と泣きながら謝ってきた。

ずっとずっと謝りながらお義母さんは、償いがしたかった、と。だから人殺しである俺の事を受け入れようと決めたらしい。


何処でその事を知ったのかはわからないが、俺は人の温かみを知ってしまった。

許された事で錯覚してしまった。罪が消えたのだと。

そんな事はない。罪は一生背負うものだというのに。

愚かな俺は人並みの生活を得て満足してしまった。


地獄にいた妹に気付きもせず、のうのうと生きてしまった。

殺された時は本当に申し訳なくて少しでも妹の気が晴れたらいいな、と思った。

その後どうなったか気がかりだけど今となっては知る由もない。

兄にももう一度会ってちゃんと話をしたい。


後悔が尽きない。

人を殺すという重みがそれを重みだと感じなくなるのが怖い。



『それがお前の後悔か』

「俺はロクデナシなんだ。それを忘れて悪魔として生きるほど高尚な魂じゃない」

『本当に馬鹿な奴め。ただの正当防衛だというのにグチグチと。貴様が死ねば良かったとでもいうのか?それで相手に人殺しという罪を着せる事が貴様の正義か?シズマよ』

「それは…」

『戦場の兵士は?人殺しだと断罪するか?また人質など人を助ける為に奪わなければいけない命も?』

「……」

『たとえ貴様が殺さなかったとしても相手は貴様を殺す。そして同じ事を繰り返しては業を重ねる。その犠牲を見過ごすのが正義なのか?もし殺さない方法があるというならそんな高尚な事を言う奴が罪を犯す前にやればよかっただろう。犠牲となった子供達やその家族の前でその傲慢を言えるのか?

確かにシズマの世界よりこの世界が生死に慣れすぎているのかもしれない。殺す事の重みが違って感じるのかもしれぬがそれでも貴様が死んでいい理由にはならない。


シズマ、もういい。貴様はもういいんだ』



お義母さんのように抱き締めて、優しく諭すように



『救われちゃいけない魂などない。幸せになってはいけない魂などもない。貴様は後悔をしちゃんと罪悪感も感じてる人間だ。人を殺した事を忘れるじゃない、ヒトデナシになるなという話だ』

「お、れは…」

『もう充分頑張った。貴様はもういいんだ。前世の事まで引き摺るな、自分の人生を生きろ』

「無理だ、そんなの」

『無理じゃない。その為に我もいる』



まるで俺が赤子のようにあやされる。

不思議と胸が熱くて熱くて情けなく泣いてしまう。

我慢したものが一気に溢れ出るように。

こんなんで許されていいわけがないと思う反面救われた気持ちになってしまう。

まだまだ自覚がない。俺はシズマのままでいいのか、イルとして生きた方がいいのか。

答えは出ない。それでも悩んでいたものが終わりを告げるように俺は一つの人生を全うした事を受け入れた。



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