プロローグ
澄んだ泉のような美しい髪を神官が、僕の手を取る。
「ああ、私の心はもうあなたのもの……。すべてを捧げると誓いましょう」
言い終わらぬうちに、ガシャーンという愛を囁くような甘い声のBGMとしてはひどく耳障りななにかが割れる音がする。ああ……。また食器が犠牲になったな……。こりゃ……。
「……普通の作業の邪魔なんで、離してもらっていいですか?」
神官の手の中から自分の手を引っこ抜くと同時に、今度は大きな獣耳を持つワイルドな獣人が、僕の肩を強く抱く。
「焦らすな、リューよ。我は気が短いぞ」
「そうか。じゃあ、話は『待て』ができるようになってからだ」
ガシャーンとかパリーンという音を聞きながらその手をぴしゃりと叩くと、獣人が獣耳をしゅんと下げて俯く。
「そう冷たくしてくれるな。リュー」
ふいに引き寄せられ、大きな手が僕の顎を持ち上げる。
ついに店内に、大きな悲鳴が響いた。
僕と見つめる深紅の双眸が甘く煌めく。
「焦らさないでくれ。……欲しいんだ」
白銀の髪の、見る者を圧倒するほどのカリスマ的美貌の公爵閣下が、吐息だけで囁く。
「…………」
いや、お前らさぁ……。
僕ははぁーっとため息をついた。
ただでさえ顔面偏差値が異常に高いんだから、妙な言い回しするなよ。誤解を生むじゃないか。
って言うか、すでに店内が大惨事だ。失神しちゃったお嬢さんまでいるし。
僕は公爵閣下の顔面をわしづかみにして、押し戻した。
「お前らの目的は、僕の料理だろうが!」
素直に『お腹すいた』って言え!




