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1.溺愛枠王子の本性

 学園には四阿のあるお庭があります。

 お友達同士でお茶会などする憩いの場。

 恋する二人のデートスポット。

 そんな四阿から少し離れた、裏庭にほど近い場所。

 木の影にあるベンチは、四阿付近をひっそり眺めるには絶好のポイントです。


「成程、覗き見するにはいい場所だね」


 にこやかな優しい微笑みと、微妙に違和感のある言葉ですが、それどころではありません。

 なにがどうして人気のないこの場所で、きらきらの美貌の王太子に迫られることに?


「な、なんで……っ」

 

 わたしはヒロインでもなければ、ライバル悪役令嬢でもありません。

 大好きだった乙女ゲーム世界に転生しただけの、ゲームでは名無しの背景令嬢なのに!


「黙って?」


 間近で見ると、流石に一番人気の攻略対象キャラです。

 ううぅ、顔がいい。

 少し癖のある淡い金髪にエメラルドのような瞳。陶器のように滑らかなお肌。整った目鼻立ち。上品で形のよい口元。

 穏やかな表情はまさに理想の王子様……のはずが、口を閉じろとばかり、わたしの唇をグニッと人差し指で押さえつけてきます。結構、痛い。

 強引で横暴な力加減でいて表情は穏やかなのが、恐いです――本当、なに? 

 こんなセドリック殿下、ゲームではなかった!

 

「しばらく泳がせていたけれど、田舎領主の娘にしてはなかなかどうして鮮やかな手腕じゃないか。エミリー・ブラウン」

「ん……んんぅ〜、んんっ」


 なんのことだか、さっぱりわかりません。

 否定したくて首を振ろうにも、顎も掴まれて思うように動かせない。

 甘々溺愛枠の、光の王子なのに……こんなの解釈違いです!

 

「褒めているのだよ。媚びへつらうしか能のない連中より賢いやり方だ。孤立していた平民特待生のクロエに近づき、彼女を気にかけていた僕の側近達とあっさり知己を得るなんて」


 ゲームの中では名無しの背景生徒なわたしですが、この世界の住人としてエミリー・ブラウンという名前があります。

 モブらしい平凡地味な名前ですが、その普通さを気に入っています。そう普通の一般生徒です!

 王太子殿下に感心されることなんて、なに一つありません。


「その程度なら僕も放置していたよ。でも君ときたらメラニーとも交流しだした。彼女は誤解されやすいんだ。王太子の婚約者として、公爵令嬢として模範になるよう心掛け、きつい人に見られやすい」


 メラニー様、めちゃくちゃいい人ですからね。

 ヒロインと衝突するのも、最初は淑女の振る舞いがなってないことへの注意ですから。

 悪役令嬢っていっても、全然理不尽なことしない正々堂々としたライバルキャラで人気でしたし。

 最近は、三人一緒に仲良くお茶したり、おすすめの本を交換したり、きゃっきゃうふふなお友達付き合い満喫させていただいています。至福。

 

「遠巻きにされる彼女を慰め信頼されつつ、それとなく公爵家の動向も得ていたのに。君という友人が出来たおかげで会話が非常にやりづらい」


 知らんがな〜! そんなこと〜!

 しかもナチュラルにクズなこと言ってるし。

 光どころか、腹黒王子じゃないですかー!


「ブラウン家は中立というより、中央に関せずな認識だけど、どういう意向だろう?」


 変わらずにこにこしながら、目が、完全に捕食者の目です。やばい人です。

 シナリオ的に聖女覚醒したヒロインの手を取るのも、この殿下を見たら恋愛だなんて思えません。

 わたしも一番好きなのはセドリックルートだったのに……こんなの推せません!

 クロエ逃げてっ!

 わたしも逃げたい!

 

「ん、んんんん〜っ!」

「――っ!」


 力任せに首を振り、唇の合わせ目を押さえていた指先を齧って、怯んだ王子から脱兎の如くわたしは逃げ出しました。


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