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8話 嘲笑いする胸の内に巣食う悪魔

「で、どうやって中に入るつもりだよ?

 恐らく警備もかなりの数いると思うが」


「正面からの侵入は得策ではないですね。

 頑丈なあなたを見越して、私に考えがあります」



(んで、考えがこれか……、やっぱりちょっとズレてるんじゃねぇか? あの天使様は……)


 グロウアップラボの正面入り口に颯馬そうまのみが立ち、ガラスの自動ドアが開いて中に入る。


 すると、すぐに厳戒体勢の武装した職員と見られる者が取り囲むように現れた。


「お出迎えってわけね」


葉山颯馬はやまそうま。一人で戻って来たということは、つまり『ルーム』へ戻る。

 そういう事でいいんだな?」


「あぁ、生憎あの天使は人使いが荒くてな。

 それならこっちに戻った方がまだマシってもんさ」


「では大人しく魔力遮断の鎖をつけさせてもらおう。万が一お前が暴走しても良いようにな」


「ご自由に」


 二つ返事で承諾した颯馬そうまに多少の疑問を感じながらも、武装した男が無骨な作りの腕輪でガッチリと封じる。


(ここまでは予定通り。ラフィアはちゃんと捕捉しているのか?)


「まるでVIP待遇じゃん?」


 颯馬そうまの周りを取り囲むように歩く武装職員をからかうと、手に持っているセミオートタイプのアサルトライフルを背中に突きつけて急かされる。


「黙って歩け」


「へいへい」


 懐かしい青みがかった服へ着替えさせられ、昔のトラウマがフラッシュバックする。

 だが、今回は頼っていい味方がいる。

 今信じるのみ。


 再び歩いて大広間を抜けようとした時、聞いたことのある声が聞こえた。


「やあ、葉山様。今回は一人かい?」


「あぁ、アンタか。えーっと、名前なんだっけ」


「全く悲しいねぇ……? さっきの今でもう忘れてしまったかい?

 適合手術を受けた影響か、ただ単に残念な頭なのか。その辺り、脳を直接観察すれば分かるだろうか」


「生憎俺は興味のない奴の名前は覚えられないんでね」


「そうか、ではやはり脳に重大な欠陥があるようだ。


 早速手術室に……いや、こういうのはどうだろうか。

 これから葉山颯馬。君には二人目の適合手術が行われるところを実際に見せるとしよう。


 運良く二人目が見つかったのでね。

 昔の記憶を刺激すれば、私のこともきっと思い出してくれるだろう

 それに加えて、今回は君のような脱走者を出さないように思考抑制のチップを埋め込むとするよ。


 なに、安心してくれていい。

 君もすぐになにも考えられなくなり、ラフィア様のことも忘れるさ」


 ガタガタと腕輪が勝手に揺れ出す。

 この男をすぐに壊してしまいたい。

 そんなドス黒い感情が颯馬そうまの中から溢れ出そうするのを必死に誤魔化したが、魔力封じの腕輪が反応してしまった。


「おぉ、怖い怖い。

 人間は通常魔力を持たない。

 その腕輪が震えるということは、君の中にある化け物の石が感情に引きづられている証拠だ。


 やはり適合体なだけあるね」


「お前はラボとルームの責任者ってわけだ。

 さぞ甘い汁を吸って肥えているな」


「見ての通り私は平均的な男性像だろう?

 この体型を維持するのだって、かなり大変なんだ。肥えているだなんて、そんな表現はよして欲しいな」


「はっ、思考まで腐ってやがる。

 いいか? 腕輪は俺の力を封じる。

 悪魔の力を封じるもんだ。


 だが、それは外に出ようとする力を内側に留めるためのもの。抑えられないほど吐き出された場合、この腕輪はどうなるだろうな?」


「ははは、面白い冗談だ。この特殊鉱石でできた魔力封じの腕輪を?

 悪魔ゾルダートを生け取りにするために開発した技術の結晶を、君の強化された肉体如きで打ち破れるわけがないだろう」


 予定にはなかったが、ここで囚われていてはラフィアの計画に迷惑がかかる。

 颯馬の役割は一つ。ひたすらに時間を稼ぐこと。

 心臓に寄生しているように付いている魔石の悪魔を呼ぶ。すると、嘲笑ったような声で「ようやくその気になったか」と声が聞こえた気がした。


 颯馬そうまの目の色が黒から淡い青色に変わる。


「あ、あぁあああ!!!」


 唸り声を上げながら全力を嵌められている腕輪に込めると、甲斐田が哀れな者を見た時の目をして「無駄な抵抗を」と、わざわざ武装職員を手で制してまで見守っている。


 壊してみろ。

 口では馬鹿にしていても、甲斐田自身気になるのだ。

 自分達が作り上げた成功例が、技術を更に超えるのか。


 奥歯を噛み締め、全身の骨が軋むような音を上げてなお、壊れないはずの腕輪引きちぎろうとすると、鋼鉄と特殊鉱石でできた無骨な輪にヒビが入る。


 ピシ……ピシッ!!


 もう少し、もう少しでこの腕輪を引きちぎれる。より一層、力を込めようと目を見開いて絞り出すように声を張り上げた。


「あぁぁ……はぁあアアアア!」


 腕輪を捻じ切り、両手が慣性とともに開かれたと同時に、一発の銃声が響く。心臓部を避けられた弾丸は、颯馬そうまの腹へ命中した。


「……っ!」


「今のはお祝いだよ、颯馬君」


「何が祝いだ……クソ野郎」


「流石は適合者だ。銃弾が腹を貫いても出血が少ない。もう内臓は自然修復しているのかな」


 続いて更に二度、乾いた銃声が鳴り響いたが、今度は颯馬の手が銃弾をアッサリと掴んで握り潰し、地面へと転がした。


「どうやら身体能力だけでなく動体視力も向上しているようだね。

 なら、これならどうかね?」


 甲斐田が手を上げ、そして下ろすと合図と共に武装職員が四方八方から銃弾の雨を浴びせた。

 だが、一瞬で空中に跳躍してこれを躱す。


 武装職員の構える銃口が颯馬を追いかけて再び発射しようとするが、甲斐田が他の設備に着弾するのを嫌って手で制した。


 二階の鉄柵に掴まって颯馬は全体の敵数を把握していると、甲斐田が疑問に思っていたことを口にする。


「君はわざと我々に掴まって、そしてここで暴れている。なぜ一人で来たのか?

 身体を弄られた君自身の復讐か、それともラフィア様を巻き込まないように単独で来たのか……


 ふむ、私はね? 颯馬君。

 君がここに来た理由を考えてみたよ。

 口ではこちらの方がマシと言っておきながら、すぐに腕輪を捻じ切って暴れている。


 これでは辻褄が合わない。

 では戻ってきた本当の理由とは何か?

 心根の優しいラフィア様だ。

 君の過去を知れば、他にもルームに囚われている子ども達を助けようと動くだろう。


 ならば、君の役目は囮だ。

 これからは私は、私の資源《子どもたち》を守りに行くとするよ。


 さらばだ、颯馬君。化け物の子よ」


「行かせるわけないだろ」


 踵を返してルームへと向かって歩いていく甲斐田を追いかけようと、踏ん張りを効かせようとした時、足元の鉄柵に銃弾が撃たれ、躱す動作を取ったことにより出遅れる。


「今撃った君、後で特別ボーナスだ」


 隔壁に閉ざされ、甲斐田を足止めすることは出来なかったが、ラフィアに武装職員を向かわせなかったのはよしとする。


 気がつけば颯馬の周りは武装職員が数十名以上。非武装の子供達を助けるなら甲斐田一人いたところで障害にはならない。


(これでいい。俺の役割は、ここでラフィアの元に武装した奴らを行かせないことだ)




 颯馬が孤軍奮闘している中、ラフィアはルームと思われる建物の前に降り立ち、施錠された鍵を魔力を通して強制的に解錠する。


 重苦しい扉を開いて中へと入ると、そこには子供部屋が広がっていた。


「お姉さん、だあれ?」

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