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7話 食い潰された未来を取り戻すために

 遠慮なく中華料理を食べる颯馬そうまを見て、ラフィアは微笑ましく見ていた。


 昼下がり、店を出てどこか泊まれるところを探すことになったが、そこで待ち受けていたのはラボを出る時に見た白い装束の人だかり。


「ラフィア様。お迎えに上がりました」


 颯馬そうまは見逃さなかった。

 露骨に嫌な顔を一瞬だけ見せたラフィアの表情を。


「ご苦労様です。

 しかし、私は見ての通りこれから用事がありますので、迎えは不要です」


「恐れながら、これからラフィア様には信者達の前で演説をして頂きたく……」


「お断りします。

 私はあなた方の信仰を制限するつもりはありませんが、見せ物になるのは我慢なりません。

 お引き取りを」


「し、しかし……」


 キッパリと断ったラフィアの言葉は、明確な拒絶を示したものだったが、それでも団体の信者は諦めなかった。


 いい加減苛つきが隠せなくなってきたラフィアは、拳をギュッと握ってから大きく息を吐いて、颯馬そうまを見た。


「なんだよ?」


 いつも通りのやり取りをした二人に割って入り、団体の男が颯馬そうまへ掴み掛かる。


 それをアッサリと手で払ったのは颯馬そうまではなく、ラフィアだった。


「無礼ですよ」


「お、お言葉ですがラフィア様……!

 御身に対してその言動こそ無礼に当たるのでは!?」


「それはあなた達の教義の話です。

 彼は私の付き人として共に行動しています。

 颯馬そうまに対して働く無礼は、私に対する不遜だと心得なさい」


「それは大変に、失礼を……どうかお許しください」


 深々と頭を簡単に下げるのを見て、颯馬そうまは心底気色悪さを感じていた。

 全く腹の内側を探れないこの男は、どこか危険だ。


 この男だけではない。

 恐らく他の信者もまた似たような内面をしているのかもしれない。

 ただ漠然と得体の知れない恐怖は、身体中を這い回る虫を想起させて全身が総毛立った。


「行きますよ、颯馬そうま


「コイツらはいいのか?」


「ええ」


 ラフィアが純白の翼を広げて颯馬そうまを抱き寄せて大空へと羽ばたき、再び都市部の方へ飛び立った。


 そこからは寝泊まりできるホテルを探そうと考えたが、身の安全を考えればラボで泊まらせてもらった方が確実。


 高度を落とし再びラボへ向かうが、颯馬そうまの顔が真っ青になっている。

 額からは初めて見る焦りの表情と、滲む汗。

 ラフィアは明らかに様子がおかしいと気づいた。


「どうしたのですか?」


「いや、あのラボの後ろに見える小さい建物。

 アンタはみたことあるか?」


「いえ、グロウアップラボ自体初めてなので、私はよくわかりません。

 顔色が悪いですよ。空酔いですか?」


「いや、酔ってない。

 それより、俺はあの建物には行きたくない。二度と……」


「以前に行ったことが?」


「俺はあそこにいた。

 裏口から施設を壊して逃げてきたんだ。

 正面から見たことがなかったから、今までわからなかったけどな」


 ここまで目に力が宿っていない颯馬そうまは初めて見る。


 どちらにせよ、このままラボに再び戻るわけにもいかず、怯えているようにも見えた颯馬そうまの異常な警戒感は放っておけなかった。


「一度ラボから離れた森へ降ります。

 それでいいですね?」


「ああ、それでいい」


 一度数キロ離れた森林地帯へ降りて、颯馬そうまが落ち着き、自ら話し始めるのを待った。


「アンタ。俺が人並み外れた力を持っているのはもう気づいているだろ?」


「ええ、ギフテットともいうのでしょうか。

 生まれながらに持つ恵まれた力。

 珍しいですが、この千年間で悪魔ゾルダートに立ち向かう人間を何人かは見たことがあります」


「俺は確かにギフテットと同じ力を持っている。だが、後天的なギフテット……なんだろうな」


「どういうことですか?」


魔物ゾルダートを倒した時に出てくる魔石があるだろ。それが俺の中にある……らしい」


 戦慄する。

 後天的に魔石を体内に宿して、人間の限界点を無理矢理超えているというのか。


 それは人工的に悪魔ゾルダートの力を宿しているに等しい。

 感心していた技術の信頼は、足元から崩れ落ちた。


「それは私の、いいえ。

 私を派遣した天界への冒涜に等しい。

 そんなことは絶対に許されません。


 今まで颯馬そうまがどんな過去を背負っていたのか、話してくれますね?」


 頷いて、今まで経験してきた幼少期を話し始める。真っ白な部屋の中に、病院服を着た子供達が集められ、得体の知れない薬を飲むことが仕事だった。


 子供ながらに研究員が話していた内容は、悪魔ゾルダートに対抗する手段が、兵器が出来上がる。適合者を探せ。といった言葉。


 薬の副作用に耐えられない子供達が泡を吹き、呼吸困難になって死んでいく。


 颯馬そうまは薬の副作用に耐性があり、最後の適合試験を受ける。

 胸を切開され、生命の源である心臓に寄生させるように取り付けられた悪魔の石が、今もなお動き続けている。


「見た方が早いか」


 颯馬そうまはおもむろに上半身の服を脱ぎ、胸の傷を見せる。


「触っても良いですか?」


「ご自由に」


 縫い合わせた赤い線が斜めに入っており、少しだけ凹凸がある。間違いなく付いた手術の跡は、ラフィアの心を強く揺さぶった。


「あなたに確認しなければならないことがあります」


「なんだよ」


「あなたは悪魔ゾルダートと戦う覚悟があって、その手術を受けたのですか?」


「いや、俺達はそんな覚悟を持っていようが無かろうが、否応無しに受け入れていた。

 まあ身体はすこぶる順調だし、力にも慣れたさ」


「そういうことを聞いているのではありません!!」


 森の鳥達が一斉に逃げるように飛んでいく。

 悔しそうな表情を浮かべながら、我慢できない感情が溢れ出して爆発していた。


「なんで、アンタが泣いてるんだよ」


「……すみません。私が千年、悪魔ゾルダートを滅ぼせなかったが故の、人間なりの抵抗なのは理解しています。


 現代兵器がまるで通じないのなら、同族の力を宿したとしても、今までの復讐を果たそうとする気持ちも理解できます。


 でも、でも……!

 それは大人達の都合です。

 何も知らない子供達が、これから未来へ羽ばたいて行くあなた達が、食い物にされて良いはずがありません!」


「わかった。わかったから、これ以上は勘弁してくれ」


「私は私の無力を呪います。

 ですが、今もまだ子供達が犠牲になっているのなら、それだけは看過できません」


「だけどよ。そんなこと言っても何をする気なんだよ」


「決まってるじゃないですか。

 そんな研究機関、この世に存在して良いはずがありません。これから乗り込みます」


「は? いやいや、何言ってんだ。

 一旦落ち着けよ。これからアンタがしようとしてるのは、自分が千年頑張って存続させた人類の努力を無かったことにするのと同じだぞ。


 いいのかよ。

 自分の努力を否定するようなことをして」


「私は確かに、人類の歴史を一歩進めたかもしれません。努力の方向を間違えてはいけない。

 それは、例え天界が許しても私が許しません」


「そうか。なら、まずは俺から殺すのがスタートだな。

 俺以外に悪魔の石と適合したやつは知らないが、何にせよ今は健康でもこの先何があるかわからねぇんだ。

 効率的に考えろよ。ラフィア」


 初めて名を呼ぶ。

 しかし、芯の通った声がそれを拒否した。


「嫌です。私はあなたを殺したくない」


「どうして?」


「理由なんて一つに決まってるじゃないですか。

 私はあなたに救われた。

 今度は、私があなたを救う番です。

 体質が暴走するなら私が止めます。

 元に戻りたいならその方法だって、一緒に探します。

 殺してくれなんてまた言ったら、本当に怒りますからね」


「なんだよ。結構人間臭いじゃん」


「怖くないのですか?」


「アンタが助けてくれるんだろ?」


「もちろん。私はあなたを、未来を奪われそうになっている子供達を助けに行きます。

 悪魔ゾルダートの殲滅はまた後で考えればいい!」


「んじゃ、さっさと片付けに行くか」


 決意を新たに、力の籠った瞳に変わった二人は、グロウアップラボの凶行を止めるために立ち上がり、再び都心部へと向かう。

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