5話 廃れちまつた東京を歩く
「私を信仰してる方々。宗教団体の方だと思います」
「宗教団体ねぇ……、手でも振ってやれば?」
颯馬がふざけながら手を振る仕草をしてからかう。
少しイラッときたラフィアは肘打ちをしようとしたが軽々と躱された。
「はぁ……。簡単に言わないで下さい。
あなたは耐性があるようなので問題ありませんが、集まっている方々は私の持つ魔力に魅せられてしまったのが殆どのはずです。
今、手なんて振ったら軽い暴動が起こりますよ」
「でもアンタは日本に来るまで他の国で戦ってたんだろ?
日本の連中がアンタの魔力に触れる機会なんて無かったはずだ。
ただ単に写真を見てその整った顔立ちを見に来てるかもよ」
皮肉っぽく言ってのける颯馬を少し睨む。
ラフィアは困った表情をしながら口を開いた。
「それに関しては私も不思議に思っています。魔力を直接浴びた方が信仰してしまう対象になっているなら理解できますが、それにしても数が多すぎる。
他に何か理由が……」
「なんか考え込んでるようだけどよ。割と簡単な理由じゃね」
「どういうことですか?」
颯馬がなぜこんなにも簡単なことがわからないんだ? と言いたげな呆れ半分、哀れみ半分で話し始める。
「俺にはその苦労は到底想像つかないが、アンタは千年間必死こいて汗水垂らして戦ってきたんだろ?
それだけデカい功績があれば、信じちまう奴が出てきてもおかしくない……かもな」
「随分と優しいことを言ってくれるのですね。
何だか意外です。
ただの生意気な子供だと思っていましたから。それと、汗水は流しません。天使ですから」
「あっそ」
どうやって建物から出たものかと考えていると、先程の受付をしてくれた女性が駆け寄って来る。
「ラフィア様、お連れ様。どうぞこちらへ。
裏口へ案内致します」
「助かります。颯馬、行きますよ」
「へいへい」
ラボの裏口から出た頃は昼下がりくらいの時間だろうか。
颯馬は、腹を擦りながら愚痴を零した。
「いい加減腹が減った」
「お腹が空いたのですか? さっきお菓子を食べていたではありませんか」
「あれ食ったら余計にな。
どっかにないもんかね」
「仕方ありませんね。天使は本来飲食は必要ないのですが、丁度今まで食べていませんし。
すっかり食事について忘れていましたよ」
お前マジかと言いたげに若干引いた颯馬がすかさず口を挟む。
「道理で全然休憩しないと思ったわ。
鬼かなんかだと疑って悪かった」
「こうして気づいたのですからいいではありませんか。細かいですね」
颯馬が抗議の声を上げているのは放っておいて、食料の購入と場所の確保。
幸い通貨は崩壊現象の後に全世界で共通となったので、ラフィアの蓄えはかなりある。
ラフィアもフードを目深に被り直してから確認したが、閉まっている店は多い。
ここを必ず店でいっぱいにする目標も付け加えておこう。その可能性が、ここ東京に集まっていると言ってもいい。
店を探そうと辺りを見ている颯馬の表情が曇る。
無いのだ。探している飲食店が。
人の営みの上で重要な役割を担っている食事ができる場所が、ない!
「それにしてもどこにも無くないか?
ここに住んでる連中はどこで飯食ってんだろうな」




