5話 廃れちまつた東京を歩く
「なんだ? このバカみたいな格好して集まってる奴らは」
「私を信仰してる方々。宗教団体の方だと思います」
「宗教団体ねぇ……、手でも振ってやれば?」
「簡単に言わないで下さい。
あなたは耐性があるようなので問題ありませんが、集まっている方々は私の持つ魔力に魅せられてしまったのが殆どです。
今、手なんて振ったら軽い暴動が起こりますよ」
「でもアンタは日本に来るまで他の国で戦ってたんだろ?
日本の連中がアンタの魔力に触れる機会なんて無かったはずだ。
ただ単に写真を見てその整った顔立ちを見に来てるかもよ」
皮肉っぽく言ってのける颯馬を少し睨みながら、困った表情に変わる。
「それに関しては私も不思議に思っています。魔力を直接浴びた方が信仰してしまう対象になっているなら理解できますが、それにしても数が多すぎる。
他に何か理由が……」
「なんか考え込んでるようだけどよ。割と簡単な理由だと思うぜ」
「どういうことですか?」
「俺にはその苦労は到底想像つかないが、アンタは千年間必死こいて汗水垂らして戦ってきたんだろ?
それだけデカい功績があれば、信じちまう奴が出てきてもおかしくない……かもな」
「随分と優しいことを言ってくれるのですね。
何だか意外です。
ただの生意気な子供だと思っていましたから。
それと、汗水は流しません。天使ですから」
「あっそ」
どうやって建物から出たものかと考えていると、先程の受付をしてくれた女性が駆け寄って来る。
「ラフィア様、お連れ様。どうぞこちらへ。
裏口へ案内致します」
「助かります。颯馬、行きますよ」
「へいへい」
ラボの裏口から出た頃は昼下がりくらいの時間だろうか。腹が減ってきた颯馬は、どこか食料品が買える場所を探すように辺りを見回していたが、東京という都心部まで来たのに店は見つからない。
「お腹が空いたのですか? さっきお菓子を食べていたではありませんか」
「あれ食ったら余計に腹減ったわ。
どっかにないもんかね」
「仕方ありませんね。天使は本来飲食は必要ないのですが、丁度今まで食べていませんし。
すっかり食事について忘れていましたよ」
「通りで全然休憩しないと思ったわ。
鬼かなんかだと疑って悪かった」
「こうして気づいたのですからいいではありませんか。細かいですね」
「あぁ! それは言っちゃダメなやつだろうが!」
颯馬が抗議の声を上げているのは放っておいて、食料の購入と場所の確保。
幸い通貨は崩壊現象の後に全世界で共通となったので、ラフィアの蓄えはかなりある。
ラフィアもフードを目深に被り直してから確認したが、閉まっている店は多い。
ここを必ず店でいっぱいにする目標も付け加えておこう。その可能性が、ここ東京に集まっていると言ってもいい。
「それにしてもどこにも無くないか?
ここに住んでる連中はどこで飯食ってんだろうな」
「そうですね。栄養剤のようなタイプもあるらしいですし、東京の方々はそれで飢えを凌いでいるのかもしれません」
「何だそれ。もったいねぇ……
ともかく、俺は何か探して来るわ」
「一人で出歩くのですか?」
「おう。アンタと一緒じゃ宗教団体様がついて来るかもしれねぇし、居心地悪いのは勘弁だ」
「もし悪魔と出会ったらどうするのですか?
離れすぎたら助けられませんよ」
「そこまで落ちてねぇよ。
自分一人だけならちゃんと逃げられる」
「ふむ、では今から一時間後にここへ戻って来てください。時間厳守。
来なかったらまた肘打ちしますからね」
「気になっていたからこの際聞くが、アンタはどうしてそんなに俺に拘るんだ?」
言葉に詰まり、ラフィアの視線が泳ぐ。
到底隠せない感情が、表情に出ていた。
「そ、それは……、…………だから、です」
「何だって?後半よく聞こえなかったぞ」
「あー! 耳が悪いですね!
私のことを信仰でなく、一人の友人のように扱ってくれる貴重な方だから! ですよ!」
「お、おう……絶対最初より長いこと言ったろ。
まあでもいいさ。
何となくわかった、天使様はぞんざいに扱われるのがお好きだと」
「全然わかっていません。ほんと生意気なんですから」
「んじゃ俺は適当に飯食ってくるわ。そっちこそ、時間に遅れるなよ」
言葉は返さず、しっしっと手で払いながら早く行ってこいと合図すると、颯馬はすぐに人間離れした跳躍を何度か見せて、雑踏の中に消えていった。
その場で待つこと一時間を過ぎた頃、颯馬は約束の時刻になっても帰ってこなかった。
真っ先に悪魔を疑ったが、魔力放出特有の空の変化は無く、どこかで油を売っているのだろう。
「全く世話の焼ける」
耳に意識を集中して、颯馬の出す音を探す。
幸い歩く時の音がやや特徴的なため、判別は難しくないはずだ。
瞳を閉じると、靴の奏でる音よりも喧騒が先に耳へ伝わって来た。
どこかで揉め事でもしているのだろう。
切り替えて他の音を探そうとした時に、聞き慣れた声を喧騒の中から捉え、ラフィアは大きなため息をついた。




