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4話 グロウアップラボ

 途中何度か悪魔ゾルダートと遭遇して、これを撃退。

 どれも変異体の時と比べると、明らかに弱い。

 討伐は全てラフィアが行い、颯馬そうまは後ろで見ているのみ。


 東京の街並みが見えてくる。

 千年前の崩壊現象で世界各国に現れた悪魔ゾルダートが原因で、当時の世界は大混乱に陥っていた。


 文化が芽生え、その継承が始まった頃だった国は、すぐさま土地争いによる闘争を止めた。

 腹の底では敵対しつつも互いに協力し合う関係へ変わり、悪魔ゾルダートを打ち滅ぼさんと躍起になっていたが、それも無駄だと悟る。


 以降は慎ましく、文化が再び根付く前に破壊されると言う悲惨な歴史を歩み、歴史が浅い国が大多数を占めた。


 しかし日本は例外的に悪魔ゾルダートの侵攻がなだらかに進んでいたため、対悪魔と評した文化や歴史を深めていった。


 ラフィアは島国という土地柄と、国土がアメリカやヨーロッパと比べると小さいことが関係していると睨み、諦観と共に日本に滞在することを選ぶ。


 それでも、今回のように今まで経験したことのない相手が現れたことは、吉兆と受け止めていた。


 街並みは低い建物が目立つが、広く土地を使い一つ一つの建物は大きい。

 悪魔ゾルダートの出現傾向からも、他の国ではここまで大規模な建築物は残らずに破壊されてしまうだろう。


 空は青く、風も心地いい。

 冬空にはあまり似つかわしくないほど、よく晴れた天気は二人を迎えた。


 ラフィアを崇める宗教団体に見つからぬように、予め全身を隠すようにローブを羽織り、研究機関の中へ入る。


 入り口のエントランスから、受付の女性に話をつける間、颯馬そうまは建物の内部をキョロキョロと見回していた。


 目深に被っているフードを取り、ラフィアが受付の女性に説明する。


「あなたは……いえ、あなた様はもしかして」


 頷いて返事をすると、焦った表情に変わりながらもテキパキと取り次ぎの電話を入れる。


『ええ、そうです。……はい、はい。

 ラフィア様がいらっしゃっております。

 ……はい。恐らくは間違いないかと。

 承知致しました』


 受話器を置いてはぁーっと一息ついた受付の女性を見て、ラフィアは少し申し訳なさそうに謝罪を入れる。


「突然伺って申し訳ありません」


「いえ、御身が日本にいらしているとは梅雨知らず、こちらこそ申し訳ございません」


「良いのです。その気持ちを私の後ろにいる颯馬そうまに教えてあげて欲しいくらいですから」


「そちらはラフィア様のお付きの方ですか?」


「そうです」


「違う」


 ほぼ同時に声が被せられるのを見て、受付の女性は口元を押さえて笑う。

 程なくして全身を黒のスーツに身を包んだ短髪の、平均的な体格の男性がでラフィアの前に歩み寄り、深く一礼をした。


「お写真では何度か拝見していましたが、お初にお目にかかります。

 私はこの研究機関。グロウアップラボの責任者を務めております甲斐田と申します。

 長旅大変お疲れ様でございました。


 お客様専用のお部屋に通させて頂きますので、どうぞこちらへ。

 お連れ様もご一緒にどうぞ」


 団体でなくとも、世界的に見たらラフィアの地位は頂点に近い。

 そのラフィアが連れている人物が誰であれ、甲斐田には無下に出来る権限など、責任者の立場からしてもあるはずがなかった。


 動く歩道の上に乗りながら、ラフィアと甲斐田がグロウアップラボに来た経緯を話し合っている。


 後ろで一人聞き流していた颯馬そうまは会話に興味はなく、中庭にある見たことのない植物群が並べられているのをボケっとしながら肘を突いて眺めていた。


「ラフィア様がラボへいらっしゃった理由は承知致しました。

 しかしながら、なぜ日本に滞在されていたのでしょうか?


 失礼を承知でお伺いしますが、日本は世界各国と比べて悪魔ゾルダートの発生率は高くありません。


 日本の治安を守って頂けることには頭が上がらない思いなのですが、全体で見たらもっと苦しい国が多くあるのではありませんか?」


 至極当然の疑問である。

 ラフィアは言葉に詰まりながらも、取り繕う仕草が伝わらないように早口で答えた。


「私が日本に来たのは、悪魔ゾルダートが少ない土地に何か理由があると思い調査しに来たためです」


「なるほど。逆に考えれば我が国に悪魔ゾルダートが少ないことに加えて、茨城県の北部でラフィア様が遭遇した変異体を考えれば、ある種の偶然とは考えづらいですね」


 ここでずっとそっぽを向いていた颯馬そうまがそのままの体制で口を挟んだ。


「ただの逃避行だろ」


 甲斐田は眉を顰めて「逃避行? 葉山様。それはどういう……?」と聞き返したが、あと一歩で誤魔化せそうだったために、ラフィアは甲斐田の言葉をスルーして颯馬そうまの脇腹を強めに肘打ちして強制的に黙らせた。


 プルプルと震えながらうずくまる颯馬そうまを心配するように甲斐田が声をかけたが、ラフィアの満面の笑みを見て「何でもない」と一言だけ返した。


 重役専用の客間に通され、出された茶菓子を遠慮なく何個か食べる颯馬そうまを見て、ラフィアは少し引いたが、初めて訪れるラボの説明を聞くと心が躍る。


 悪魔ゾルダートの出現である崩壊現象の考察や、ラフィアが倒した後に残る青い魔石について。


 新たな対悪魔として、人類はまだ叛逆の意志があるというのを知った。


 諦めかけていたラフィアにとって、それは希望以外の何者でもなかった。

 自分がこの千年間、ひたすらに人類の盾となって守り続けた結果、今の研究機関があるといっても過言ではない。


 あの時の自暴自棄になった時に助けてくれた颯馬そうまには、後で改めてお礼を言わなければならないだろうと心に留めておく。


「ぜひ実際に研究風景をご覧になって下さい。

 職員の指揮も上がると思います」


「いえ、今回は変異体とその魔石を届けに来ただけです。

 皆さんは短い寿命の中で一分一秒も無駄に出来ないことを考えれば、私がお会いするのはよろしくないでしょう。邪魔はしたくありませんので」


「お気持ちだけでもありがたく頂戴いたします。

 結果が分かり次第、ラフィア様にお伝えしたいのですが……、御身はこれからどちらに?」


「定期的に訪れますので、どうぞご安心ください」


 甲斐田はその場でもう一度席を立ってから深々と頭を下げて後にする。

 ラフィアも釣られるように、今度は小さく会釈した。


 ラフィアと颯馬そうまがラボを後にしようと入り口へ向かうと、そこには白い装束を身に包んだ人が多数集結しており、軽いパニック状態となっていた。

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