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3話 天使の本気は悪魔を斬る

 颯馬そうまが朝目を覚ますと、隣で横になっているラフィアと目が合う。


「おはようございます。颯馬そうま


「本当に寝てなかったのか?」


「ええ、悪魔ゾルダートの気配は未だ健在ですから。私が眠るわけにはいきません。

 逆にこの非常時によく安心して寝られますね」


「非常時なんていつものことだろ」


「そうなのですか? 日本はそこまで悪魔ゾルダートは発生していないと思いますが」


「そんなことはどうでもいいさ。んで、あのデカブツはどうするんだ?」


 急な話題転換に多少の疑問はあったが、切り替えて颯馬そうまへ自らの決意を口にする。


「倒します。あの変異体とも呼べる悪魔ゾルダートは危険です。

 野放しにしておけば、比較的安全圏の日本が更に地獄になってしまいますから」


「そうか。乗りかかった船だ。

 最後まで付き合ってやるよ」


「ダメです。いくらあなたが人間離れした身体能力を持っていても、厳しい相手です。

 変異体でなければあなた一人で何とかできるかもしれませんが、今回はそうはいかない。

 私が戦っているところをどうか見届けて下さい」


「へいへい。わかったよ」


 あっさり引き下がるが、これでいい。

 本来人間は悪魔ゾルダートから逃げて何とか生き延びるもの。


 魔力を持たない人間の打撃や武器、火薬や爆発物を用いた攻撃は、衝撃で吹き飛ばすことは出来てもダメージは受け付けない。


 そのため人類は百年前に大規模な連合軍を編成し、ゾルダートの集中地帯である米国やヨーロッパを奪還しようとしたが、原子力を使った大爆発を伴っても成果は変わらず。


 そこで人類の抵抗は終焉を迎え、悪魔ゾルダートという死が襲いかかってこないように、日々慎ましく生きるのが常識となっていた。


 寂れた公園にはブランコが悲しげにキィキィと風に揺られ、娯楽施設は軒並み閉店。

 最低限必要な店。つまり衣食住を整えるための店がポツポツと点在するのみ。


 政府機能は生きているとはいえ、ほぼ効力を持たない麻痺状態。

 法外な取引で食料を売る店なども珍しくない。


「では、私はあの悪魔ゾルダートを討ち取ってきます。くれぐれもあなたは出てこないようにお願いします」


「アンタが死にかけた時は、まだ逃げ延びてやるよ」


 負けた時の想定をされて多少ムッとする。


「本当に颯馬そうまは生意気です。それに私のことはラフィアと呼んでください」


「アンタは『アンタ』で十分だ。さっさと倒してくれると助かるね。こっちにも生活がかかってるもんで」


「ほんと生意気なんですから。終わった後はその態度、改めてもらいますから」


 ヒラヒラと無言で手を振り、大きな木の上に跳躍して登り、木漏れ日に当たりながら今度は昼寝を始める。





 悪魔ゾルダートの魔力反応の下へ戻ると、そこには自分で破壊した瓦礫に座った姿でジッとしている。


 まるで戻ってくるのを待っていたかのように、ラフィアを視認してからゆっくりと立ち上がった。


悪魔ゾルダートかどうかも怪しいですね。

 あなたからは知性を感じます」


 ラフィアの言葉とは裏腹に、悪魔ゾルダートは甲高い声を響かせてわかりやすく敵意を剥き出しにする。


 鼓膜を叩いた声を聞いて、ますます怪訝な表情を浮かべた。


(私の言葉を聞いて、普段上げない声をあえて出している?

 つまり、言葉を理解している)


 魔力を手に集中し、再び魔力光で作った片手剣を今度は二本同時に顕現させる。


「今度は初めから全力で行かせて頂きます」


 返事はない。

 だが、相手が言葉を理解している可能性を考えて、こちらも口にすることで揺さぶりをかける。


 ラフィアが純白の翼を羽ばたかせ、体勢を低くして構えを取る。

 悪魔ゾルダートもまた、再生した腕を含めた両手を前に向けて、迎撃の体制を取った。


 純白の翼を羽ばたかせ、赤いハーフロングの髪が強くなびく。


 牽制の意を込めて、出現させた二本の剣を悪魔ゾルダートの弱点である顔面に投げつける。


 上半身だけ肥大化するアンバランスさが伺える、人型と形容して良いか微妙なフォルムは、その巨大な腕で顔面をガードする。


 突き刺さった魔力光が腕から徐々に吸収されていき、更に腕周りが太くなる。


(自らの弱点も理解していますね。

 そして下手な魔力行使は相手を強くするのみ)


 ならばどうするか。

 今までは傷を再生させ、知性を持ち、そして戦闘技術もある程度感じさせる動きを見せる相手。


 魔力の吸収前に頭部を完全に落とす必要がある。


 突っ込んだ身体を急停止させ、手から今度は大太刀の形状をした魔力光を出現。

 足に魔力を集中するために、魔力運用効率を高めようと、全身を包み隠せるほど大きな翼へ意識を向ける。


 翼の根本から先端まで張り巡らせるように魔力の通り道が出来上がり、瞬間的に魔力が増幅される。


 少女を掴んだ腕を落とした時とはまるで別次元の速さで、変異体の悪魔ゾルダートの首を一刀の下に斬り伏せた。

 だが、切断した時の感触に違和感を覚える。


(この異様な強度は一体……)


 バラバラと崩れ落ちる中に、欠片ほどの悪魔の石。通称魔石が深い青色の輝きを放ちながら残っている。

 拾い上げて少し苦い顔をしながら、物陰で見ているであろう颯馬そうまへ声をかける。


「もう出てきていいですよ」


「やっぱりアンタ。人間じゃないんだな」


「見ればわかるでしょう」


 翼へ視線を飛ばすと、肩をすくめて颯馬そうま


「それもそうか」


 と呆れ笑いを返して、変異体の悪魔ゾルダート討伐は幕を下ろした。


 ラフィアは魔石を見ながら、ある決心をする。

 東京に行って、この変異体がもつ魔石を解析させなければ。


 東京の研究機関へ行けば、何かしらの糸口が見えてくるかもしれない。


「私はこれから東京の研究機関に向かいます」


「そうか。んじゃ達者でな」


「何言ってるんですか。あなたも来るんですよ」


「はぁ!? 行くわけねぇだろあんなゴミ溜めみたいな街なんざ。

 それにアンタ、もう戦いはしたくなさそうにしてたじゃねぇか!」


「事情が変わりました」


 首都東京。

 かつては人間達が日夜仕事に明け暮れる眠らない街として世界的に有名だったが、今は天使の宗教団体が拠点を置く。


 その近くに悪魔ゾルダートの研究機関もあることから、この魔石を持ち込まなければならないと思ったからだ。


 正直なところ、自分を神格化して崇め奉る相手が多くいる場所など全く気乗りしないため、今まで進んでいくことはなかった。


 しかし、人間には天使にはない可能性があった。

 集合知だ。

 人は一人だけでは全くの無力だが、何人もの知恵が集まると、そこで超常的な力を発現することがある。


 彼らはそれを『科学』と言っていたが、天使のラフィアにとっては魔法となんら区別がつかないほどに、特に最近の技術力には感服の念すら抱いているほどだ。


「変異体がまた現れたら、今度はあなた一人で対応するか逃げるかになりますよ。


 今回の変異体は力と知恵が異常に発達していましたが、速度に特化した変異体が現れたりしたら……」


 嫌味たっぷりに颯馬そうまが了承する。

 心底行くのは嫌なようだ。


「はぁー……、わかった! わかりましたよ天使様! 行けばいいんだろ全く……

 あー、いきたくねぇ……」


 そうして一人の天使と一人の少年は、日本の首都である東京の研究機関を目指すべく、南へ進路を向けて歩み出した。

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― 新着の感想 ―
民を守る使命を持った1人の天使の物語。儚さと美しさと壮大さが合わさったようなテーマがとても魅力的だと感じました また、人間の少年颯馬のキャラが立っていていいですね。相棒って感じで続きが気になります。
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