26話 喝采の断末魔
赤い。いや、真紅と言っていいかもしれない。
手の甲を頬に当てたラフィアは理解ができないと颯馬を力無く見る。
ラフィアの耳からも赤い血液が次第に流れ落ち、白い軽装の服が真っ赤に染まっていく。
「「……!!」」
ラフィア以外の全員が状況を飲み込めないと驚きの表情を浮かべるが、徐々に現実感に引き戻されていく。
ラフィアはまだ放心状態。
しかし、平衡感覚が無くなったのか膝を地面に突き、慌てた颯馬に抱き抱えられる。
「颯……馬?」
「ラフィア! どうしたラフィア!
しっかりしろ! おい!!」
颯馬がなぜそんなに焦っているのかラフィアにはわからなかった。
しかし、徐々に天使特有の感覚を最近開き始めていた弊害が、巨大な渦となって押し寄せてくる。
「ラフィアサマ、バンザイ」
「「ラフィアサマ、バンザイ」」
「「「ラフィアサマ、バンザイ!」」」
「「「「ラフィアサマ!! バンザイ!!!」」」」
まるで耳をつんざくような耳障りな声が脳内に溢れてからプツンと切れる。
次第に声の数が増えていき、音量調節を怠ったスピーカーの大音量を耳元に当て、何倍にも膨れ上がらせたような、ノイズと形容してもいい声が一気にラフィアへと押し寄せる。
ラフィアへ声を届けた信者達の断末魔が、ラフィアの脳を破壊していく。血みどろの集会所は、まさに今頃血の海なのは間違いなかった。
「あっ……」
ラフィアの意識もまた、虚無へと飛んだ。
颯馬が叫んでいる。リーナもまた駆け寄り声をかけている。シエルは目を見開くのみ。
だが、そんな騒がしい空間を一発の音で黙らせた者が一人。
パンッ!!
おかしい。
颯馬はこの時背中に違和感を覚えた。
熱い。痛みはこの瞬間は感じず、鈍器のような物で殴られた時のような強烈な違和感。
ラフィアを抱えたままゆっくりと振り返る。
するとそこには気配を完全に殺して佇む見知った格好をした白装束の男が立っていた。
手には漆黒のハンドガン。
銃口からは発射したばかりでまだ灰色の煙が薄く立ち上っていた。
「てめぇ……ゴフッ」
「ご機嫌よう。ラフィア一味の皆さん。
そこを撃ち抜いてもまだ意識があるとは……。
やれやれ、なまじ強いと不幸ですね。ふふふ」
口から血を吹きながら颯馬が相手を睨みつけ、銃弾がラフィアに当たっていないか確認する。
弾丸は貫通こそしていない。
攻撃を受けたのは自分自身のみ。
一瞬の安堵から、ラフィアを横に大事そうに寝かせてから立ち上がる。
「ほう。急所を撃たれて立てますか。
流石は適合者だ。ですが、そのまま意識を刈り取って上げましょう」
二度、三度と連続して弾丸が命の重さとは裏腹に、軽快な音を立てて発射される。
無意識の内に魔力で強化された手で弾丸を素手で受け止め、握り潰して投げ返す。
全力で投げ返した鉄の礫は白装束のフードを掠めて吹き飛ばした。
「……!!」
青みがかった白銀の短髪。
およそ人間の見た目とは思えないほど整った成人男性のような整った顔立ち。
薄く笑っている口元は、どこか彫刻品を思わせる。
フードが吹き飛んだことに気づいた男は頭の上を軽く手で触って確認してから、さらにクツクツと笑った。
「てめぇ、人間じゃねぇな」
「ほぅ。この顔を見て理解しましたか。
頭のいい子だ」
颯馬はこの時背中から撃ち抜かれた弾丸に意識を向けながら、頭は冷静に状況を高速で処理していく。
(血を吐いたってことは弾は背中から肺に到達してるな。心臓に当たってりゃ悪魔が黙って無いはず。
魔法を使わず銃を使ったのは、俺やラフィアに気配を気取られないため……。
自分が相手にどう見えているか熟知してやがる……!)
「何やら色々と考えているようですが、そろそろ私の姿を見せてもいいでしょう。
ですが、一つだけ忠告を。
この姿を見て絶望しないで下さいね」




