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25話 頬を伝う何か

 日本へ戻り、空港でラフィアと颯馬を待ち受けていたのは、リーナではなく宗教団体だとわかる白装束の人だかり。


 一体どこで情報が漏れているのかはわからないが、拍手と共に迎えられたラフィアは、逃げずにその場で宣言する。


「これからあなた達信者の方に伝えたいことがあります」




「ラフィア様だ……。おぉ、なんて神々しい……」


「私はこれで天に迎えられる……」


 自分勝手な歪んだ心根を表している信者達を前に、ラフィアは壇上に立って演説を始めようとしていた。


 颯馬は見せ物になるのは我慢ならないと、一度は突っぱねた演説を始めようとしているラフィアの内面を想像して、少し複雑な気分になる。


 ラフィアが片手を上げて、信者達が一斉にシンと静まり返る。


「まずは急遽集まって頂き感謝を。

 信者の皆さんに置かれましては、悪魔ゾルダートの破壊後の地域復興などご助力頂いており、重ねて感謝の意を。


 さて、では本題に入ります。

 今回集まって頂いたのは一つです。

 あなた達信者の方々の中に、私利私欲のために私を利用している方がいるのを探して欲しい。


 昨今は悪魔ゾルダートの変異体、そしてこちらにいる颯馬へ接触してきた人物がおり混乱を極めています。

 その人物は魔法を使えることから、人間よりも天使である私に近い存在と言えるでしょう。


 ここには魔力を持った者は居ません。

 この演説に訪れていない方をまずは疑って下さい。私からはこのかくれんぼを皆さんの活動の主軸に置き、見つけ次第私へ密告を。


 方法は目を閉じて強く念じるだけです。

 それで私に声が届きます。

 ないとは思いますが、一応忠告を。

 用がない場合にコンタクトを取った者は信者としての資格を剥奪しますので、ご容赦を。


 私からは以上です」


 盛大な拍手で締め括られ、ラフィアと颯馬はその場を後にする。

 颯馬は終始バツの悪そうな表情をしていたが、ラフィアは毅然とした態度で演説を終えた。


 すぐに会場を後にした二人は、瓦礫が転がるグロウアップラボ跡の中庭へリーナと落ち合うために向かう。


「とりあえずお疲れ。あんなに嫌がってた割にはちゃんとした演説だったじゃん」


「いえ、あれは言わば踏み絵を強要する行為です。天界がちゃんと機能している場合、間違いなく煽動としてペナルティ物ですよ。

 それがないと言うのは、やはり天界側に何か問題が起きているとしか……」


 神妙な面持ちで分析をするラフィアを他所に、颯馬は芝生の上に座り込んで声をかける。


「天界に何か問題が起きてるなら、ラフィアが何とかしなきゃいけねぇの?」


「それは難しいかと。

 私は今天界に対して何か出来る権限、状態にありません。何か知っているとすれば、颯馬に深傷ふかでを負わせた白装束の男でしょう」


「あの中には居なかったんだよな?

 そもそも、宗教団体ってどんな組織なのか俺にはさっぱりだわ。上に立つ人間っていたりすんの?」


「今日集まった中には魔力の反応が無かったので恐らくはいないでしょう。

 組織形態は私もあまり関わりたく無かったのもありそこまで詳しくは知りません。

 ただ……」


「ん? ただ?」


「人間という種族は組織を形成する時、誰かリーダーを立てる習慣があります。

 意思統一のためでしょうけど、それが宗教団体にはない。これはかなり異質だと感じています。

 隠れているのか、純粋にイレギュラーな組織なのかはわかりませんけどね」



 ラボ跡地でラフィアと颯馬は一人の少女を見つける。

 シエルだ。甲斐田の残り寿命を魔法で削り取ってから約一か月が経過した後、毎日のようにこうして祈りを捧げていたのだろう。


 二人は彼女を見つけてからそっとその場を後にしようとした時、座った状態でこちらを見ずに

 落ち着いた声で話しかけてくる。


「ここに何の用?」


「いえ、今のあなたと話すことはありません。

 ここにはリーナさんに会うために来ただけです」


「そう。せっかくリーナから逃げてきたのに、ここに来るんだ」


 淡々としたやり取り。

 その後に間違いなく憎悪の籠った声でシエルが続ける。


「あなただけは絶対に許さない」


「ええ、それで構いません。私はあなたからそう思われても仕方ありませんから」


 シエルは座ったまま、芝生を引きちぎる程強く握っている。

 感情はもう爆発する寸前。

 颯馬が前に出ようとした時、リーナが後ろから優しく声をかけてくる。


「ラフィア様! 颯馬さん、そしてシエルも。

 ご一緒でしたか。ここに来れば会えると思って正解でしたよ」


「こんな地獄を見せられるなら、私の命も一緒に終わらせてくれれば良かったのに」


「もう。すみませんラフィア様。まだシエルは見ての通りでして……。

 今が一番辛い時期なので、どうかご容赦ください」


「ええ。わかっています」


「先ほどの演説はお疲れ様でした」


「見ていたのですか?」


「はい。生き残っている古びたテレビですが、それで見ている方も沢山いらっしゃいましたよ」


 空気が緩みかけたその時、颯馬がラフィアの顔を見て激しく焦り慌てた。


「っ!! ……ラフィア!!」


「どうしました?」


 そう言ってラフィアの頬を伝った何かを拭った


「えっ?」

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