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24話 青い炎と共に消えた白装束の男

「なんで変異体を呼び出さなかった?

 操ってるとはいえ通常の悪魔ゾルダートには変わりねぇ。

 あえて変異体じゃなくて通常種を呼び出したってことは、知性の薄い悪魔ゾルダートしか操れないんだろ」


(この少年……、勘がいい)


 ルインズは一瞬はぐらかそうと考えたが、すぐに無駄だと悟り真実を話す。


「ええ、その通りです。

 流石ですね。天使の付き人よ」


「随分とあっさり認めるじゃねぇか。

 ならもう一つ気づいているはずだ。

 通常の悪魔ゾルダートなら頭を潰さなくても打撃を与え続ければいつか壊れる。

 俺を半殺しにするのは諦めるんだな」


「では答え合わせといきましょうか」


 今度はルインズの指が素早く動く。

 繋がった糸で悪魔ゾルダートが颯馬に接近し、ラッシュを仕掛ける。


 繰り出される連続攻撃を捌きながら、颯馬は数度の防御からあっさりと悪魔ゾルダートの両腕を掴んで動きを拘束する。


 頭への攻撃ラインは確保された。

 自慢の足技で蹴り上げようとした時、ルインズの口元が笑みで歪む。


「は?」


 颯馬の口から大量の血が流れ落ちた。

 身体も動かない。

 反射的に違和感のある自身の腹を見ると、三本目の腕が悪魔ゾルダートの腹部から伸びた腕が深く颯馬の腹を貫いていた。


「ゴフ……ッ」


 慌てて飛び退いたことで、貫かれた腹部からも止めどなく流れ落ちる。

 内臓も損傷が大きいとわかる深い一撃。

 膝を突いて腹部を抑える颯馬を見て、ルインズは勝ち誇ったように演技風の声をかけた。


「大丈夫ですか? 颯馬さん。

 苦しそうですが、何かありましたか?」


「テメェ……」


「その目はいけませんねぇ。つい殺したくなってしまいそうです。

 そしてあなたはずっとこのオモチャを通常の悪魔ゾルダートだと思いながら戦っていましたね。

 その決めつけの下、戦ってくれてありがとう。

 おかげでいい一撃が入りましたよ。

 私なんてコイツを操りながら笑みを我慢するのに必死でしたから」


 勝ち誇っている様子のルインズにしてやられた颯馬は傷の深さを言葉とは裏腹に、冷静に確認する。


(間違いなく致命打。回復魔法を使えるラフィアは、こっちに来てはいるがもう少しかかるな。待ってたら間違いなく死ぬ。

 使うしかない。アイツを)


『なんだ? ようやく呼ぶ気になったか?』


(うるせぇ。さっさと傷を治せ。

 お前ならそれが出来るはずだ)


『相変わらず威勢のいい小僧だ。

 いいだろう、傷は治してやる。だが治した部分はこちらに所有権をもらう。それでいいな?』


(好きにしろ)


『内臓一つ、貰い受ける……、取引成立だ』


 颯馬の傷口から青い魔力で出来た炎が燃え上がり、開いた孔が塞がっていく。


 この時上空を飛んでいたラフィアは気づいた。

 通常の悪魔ゾルダートともう一つ。

 颯馬が常日頃から放っている微弱な魔力が数秒だけ跳ね上がったことに。


「まさか……!? 颯馬!」


 颯馬の危機をいち早く察知し、音速レベルまで速度を上げて向かう。

 ラフィアが到着するまであと十秒程の猶予しかないと気づいたルインズは、張り巡らせた魔力感知を敏感に発揮し、悪魔ゾルダートから魔力で出来た糸を切り離す。


「どこへ行くつもりだ」


 傷を塞いだ颯馬がルインズを呼び止めるが、一言だけ言い残して煙のようにその場から姿を消す。


「今回は引かせて頂きます。

 天使ラフィアがここに向かって来ているのでね。あなたの内側にいる悪魔の力を使わせただけ良しとします」


「ま、待ちやがれ!」


「天使と悪魔に愛されし人ならざる者よ。

 次に会うことを楽しみにしています。それでは」


 追おうとするが、傷口が塞がったのみで血液がまだ戻っていない。顔面蒼白の颯馬が動けないのを確認してから、悪魔ゾルダートを召喚した時と似た陣を空中に描いてルインズはその場から姿を消す。


「クソが」


 それから十秒後、ラフィアが神剣・刹那を手にした状態ですぐに残された悪魔ゾルダートの首を落とし、颯馬へと駆け寄る。


「颯馬! 無事ですか! 颯馬!」


「うるせぇ……無事だ」


「うるさいとはなんですか!

 なんですかその血溜まりは!?

 どこをやられたんですか! すぐに見せて下さい」


 そう言ってシャツを捲った腹を見た瞬間、ラフィアは青い炎の残滓を見て、怒りと悔しさから涙目になり、強く颯馬の頬を叩いた。


「いってぇな」


「なんで……! どうしてそんな力で無理やり治すまで戦ったのですか!

 相手は変異体? 先程倒したのではありませんよね?」


 颯馬は我が事のように感情を露わにするラフィアに何か言い返すのではなく、ただ素直に答えた。


「相手はさっきラフィアが倒した奴だ。

 だが、そいつだけじゃねぇ。

 白装束の男がよくわからない絵を空中に描いてな呼び出した悪魔ゾルダートを、人形のように操ってやがった」


悪魔ゾルダートを呼び出した!?

 その白装束の男というのは……」


「ああ、前に見た宗教団体の格好をした奴らだ。

 だがな、そいつは魔法で転移も出来ると言いやがった。

 俺も実際にそれでここから逃げるのを見たから間違いないが、人間かどうかもぶっちゃけ怪しいんじゃねぇかな」


「そう……、ですか……。

 叩いてすみません。私が短慮でした」


 頭を下げて謝罪するラフィアを見て居心地が悪くなった颯馬は、そっぽを向きながら頬を掻いて気を紛らわせる。


「いいさ。俺も油断していたのは事実なんだ。

 まさか悪魔ゾルダートが三本目の腕を出現させるとは思ってもいなかったからな」


 気持ちを切り替え終わったラフィアが、再び颯馬の内側にいる悪魔について確認する。


「颯馬の内側にいる悪魔とはどんなやり取りをしたのですか?」


「治す代わりに内臓を一つ悪魔に渡すことで契約した。見ての通りこの孔の大きさじゃ、塞ぐにはコイツの力を使わねぇと死んでいた。

 悪いがそれは割り切ってくれ」


「私もあなたに付いて行けば良かったと後悔の念が尽きません。宗教団体の動向も本格的に視野に入れて行動しなければならない。

 これからは常に二人で行動すると今ここで約束して下さい」


「わかった。ただ少し休ませてくれ。

 血が流れすぎた」


「ええ。ヒーリングはかけておきます。

 すぐに楽になりますよ」


 ラフィアは颯馬を抱えてアレンの下へと戻り、一度宿へ戻る。

 とても釣りの成果を喜び合う空気には程遠い雰囲気が場を支配していた。


「ラフィア様はこれからどうするのですか?」


 アレンが竿や釣ったクラッピーを片付けながら尋ねると、ラフィアは神妙な面持ちで答えた。


「今回の鍵を握っているのは宗教団体だとわかりました。

 私と颯馬は一度日本へ戻り、宗教団体の本部がある場所を訪れます。


 事は思ったより一刻を争うのかも知れません。

 アレンさん。ここの電話回線は生きていますか?」


「勿論です。ご自由にお使いください」


 重厚な作りの壁掛け電話機を手に取り、ラフィアはアメリカ出立前に、日本で飛行機を手配してくれたリーナの連絡先に通信をかけると、すぐに本人へと繋がった。


「お久しぶりですリーナさん。

 折り入ってお願いがあります。

 アメリカから日本へと戻りたいのですが、また飛行機の手配をお願いできますか?」


「ラフィア様。ご連絡お待ちしておりました。

 こちらはいつでも行けるように準備できています。そこから最寄りの飛行場へ行けば、ご案内ができますよ」


「助かります」


「アメリカで何かあったのですか?」


「詳しい話はまた後で話します。

 この会話も誰に聞かれているかもわからないので」


「一応秘匿回線にはなっていますが、承知しました。直接お会いした時にまた」




 日本へ戻り、空港でラフィアと颯馬を待ち受けていたのは、リーナではなく宗教団体だとわかる白装束の人だかり。


 一体どこで情報が漏れているのかはわからないが、拍手と共に迎えられたラフィアは、逃げずにその場で宣言する。


「これからあなた達信者の方に伝えたいことがあります」

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