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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第3章

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 「……ヴォルティノーグ。まだ、やれるか?」


 息が、うまく吸えない。

 胸の奥が焼けるように痛み、視界の端が何度も揺れた。


 ライゼル・ヴォルトレイグ。

 そして、その契約精霊――雷帝・ヴォルティノーグ。


 ヴォルティノーグは返事をしない。

 いや、出来なかった。


 雷帝は、膝を折るように地に伏している。

 身体を走る雷光は、すでに散発的だった。


 威厳も、圧も、今はない。

 あるのは、限界まで使い切った精霊の残滓だけだ。


 二人は、すでに満身創痍だった。


 一人は、ヴォルティノーグの動きを完全に封じる位置に立ち、

 もう一人は、間合いを詰めながら、確実にライゼルを削りにきている。


 派手さはない。

 だが、無駄が一切ない。


 ――二対一。

 それも、実戦を熟知した者同士の、理想的な分断。


(……誘い出された、か)


 ここに至るまでの経緯が、脳裏をよぎる。

 教員の会話。

 不自然な沈黙。

 外縁部で感じた、異質な魔力。


 遅かった。

 気づいた時には、すでに囲まれていた。


 雷帝・ヴォルティノーグが、限界を迎えて散った。


 足が、動かない。

 視界が、定まらない。


「……っ、く……」


 膝をついた瞬間、

 影が、視界に差し込む。


 見上げた先。


 そこにいた顔を見て、

 ライゼルの呼吸が止まった。


「……お前……まさか……」


 声にならない。


 学院で。

 さっきまで。

 “当たり前のように存在していた顔”。


 次の瞬間、衝撃。


 意識が、途切れる。


 最後に聞こえたのは、

 静かな声だった。


「――目標確保」


 それだけだった。


 

 ◆


 

 エリナ•クロウリーが学院へ戻ったのは、夜の帳が完全に降りた後だった。


「くそっ!やられた!」


「先輩……。」


 一緒に戻ってきたティコはエリナの顔色を伺うように顔を向ける。


 滞りなく進んだという序列戦の報告書をみてエリナは声を荒げる。


「これのどこが問題なしなんだ!王族だぞ!」


 視線は第六位vs第七位の部分に向けられていた。


 序列第六位。

 ロイ・アーデルハイド。


 王族であり、公国の正式な後継候補。

 しかも、学院が預かっている身。


 軽々しく「行方不明」と書ける立場ではない。


 

「体調不良で延期?それ自体は、いい」


 紙面を、指で叩く。


「だが、“その後”がない。医務室の記録が薄い。所在確認が、甘い」


 それは、隠蔽ではない。

 油断だ。


(……いや)


 もっと正確に言えば、


(“想定していなかった”)


 原相方舟アークヘルム・エイドス

 名家の有望株とその精霊を、素材として扱う連中。


 特S任務で見た痕跡が、脳裏に浮かぶ。


「こんなすぐに動いてくるとはな。」


 エリナは拳を強く握りしめる。


 学院は、目立ちすぎる。

 警戒網も、結界も、国家レベルだ。


 だからこそ、事を起こすには準備が必要だ。


(準備はすでに出来ていたということか……。)


「ティコ!」


「はい!」


「今から書き起こす生徒全員の所在を探れ。今すぐだ!」


 恐らく、ロイだけではないだろう。そう感じとったエリナはティコに指示を出す。

 学院側で気づいている者はどれだけいるだろうか。


 エリナは、乱暴に息を吐いた。


 怒りはある。

 だが、それ以上に厄介なのは――焦りだ。


 時間を稼がれるほど、状況は不利になる。

 それを、彼女は嫌というほど知っている。


「……連中は、痕跡を残さない」


 独り言のように呟く。


 特S区で見た拠点跡。

 削ぎ落とされた術式。

 “成功したものだけを持ち帰る”やり口。


 原相方舟アークヘルム・エイドスは、

 常に一歩先を行く。


「学院が安全だっていう前提自体が、もう古い」


 警戒網も、結界も、制度も。

 それらは“正面から来る敵”を想定して作られている。


 だが――

 連中は、正面から来ない。


 内部に溶け込み、

 立場を利用し、

 必要な瞬間だけ“役割”を果たす。


(……教師、職員、生徒)


 エリナは、歯を噛みしめる。


 どこまで入り込まれている?

 どこからが“敵”だ?


「……考えるな。今は数を洗え」


 自分に言い聞かせるように、視線を上げる。


「ティコ、王族だけじゃない。

 序列一桁、特に精霊適性が高い生徒を優先」


「はい……!」


 ティコは即座に動き出す。

 その背中を見送りながら、エリナは机に手をついた。


 学院側がまだ“事件”として扱っていない今が、

 唯一の猶予だ。


(……間に合え)


 誰に向けた祈りでもない。


 もし、もう一人でも――

 いや、考えるな。


 エリナは、ゆっくりと背筋を伸ばした。


 これは想定外ではない。

 “想定していた最悪”が、前倒しで来ただけだ。


「……シオンに連絡を」


 口にした瞬間、

 胸の奥で何かが固まる。


 まだ確定情報はない。

 だが、直感が告げている。


 これは、

 学院内部だけの問題では終わらない。


 原相方舟が、

 本格的に“動いた”。


 その第一歩が、

 今夜だっただけだ。


 夜の学院は、何事もなかったかのように静まり返っている。


 だが――

 その静けさこそが、不自然だった。



 

 

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