表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/42

19



 演習場の喧騒から一段離れた高台に、四つの気配が集まっていた。


 歓声はまだ続いている。

 勝敗が決したあと特有の、熱を持ったざわめき。

 だが、ここではその音が遠い。

 代わりに感じ取れるのは――今しがた起きた“あり得ない結果”への困惑と、余韻だけだった。


「……終わりましたね」


 最初に口を開いたのは、アリアだった。

 視線は中央の演習場。

 担架で運ばれていくライゼルと、その周囲に残る微かな魔力の揺らぎを見つめている。


「勝敗自体は、理解できます。

 ライゼルさんは……全てを出し切っていましたから」


 事実だ。

 上級精霊の実体化をあれだけ維持し、さらに自身の魔力で身体強化を行えば、どこかで限界が来る。ガス欠は必然だ。


「ですが――」


 アリアは、言葉を選ぶように一拍置いた。


「最後に“倒れた理由”が、見た目通りではない気がします」


「ええ。同感です」


 隣で頷いたのは、ルシアだった。

 彼女の冷静な瞳もまた、演習場の中心から動かない。


「魔力欠乏によるスタミナ切れ。それ自体は不自然ではありません。

 ……ですが、意識を失うほど切羽詰まった状況にも見えませんでした。初めての戦闘ならまだしも、彼はヴォルトレイグ家の人間。限界の管理は心得ているはずです」


「スタミナ切れで倒れたわけじゃない、ってこと?」


 アリスが、つまらなそうに片眉を上げる。


「正直、そこまで細かくは分からなかったけど……。

 でもさ、なんか一瞬だけ不思議な感じがしなかった?」


 理屈ではなく、直感。

 アリスの言葉に、アリアは小さく息を吐いた。


「……私も、似た感覚です」


 見た目では何もわからない。

 それでも、確かに“何か”があった。


 その沈黙を破ったのは、セレスティアだった。

 淡く集まった水の粒子が、静かにその輪郭を保つ。


『今の現象は、精霊術ではありません』


 断言に近い声音。

 その言葉に、三人の視線が集まる。


『少なくとも、既存の位階に属するものではない』


「……やっぱり、そうなんだ」


 アリスが、ぽつりと呟く。


『魔力の総量も、出力も、痕跡も。どれも“不足”しています』


「不足ですか……?」


 アリアが問い返す。


『はい』


 セレスティアは、慎重に言葉を選んだ。


『本来なら、あの状況であの結果――ライゼルを強制的に気絶させる――を生むには、もっと“残る”はずなのです』


 魔力の乱流。

 術式の痕。

 精霊同士の衝突の余韻。


『ですが、実際に残ったのは――』


 セレスティアの視線が、演習場の一点を捉える。


『光の粒子だけでした』


 アリアの表情が、わずかに強張る。


「……確かに。

 私も、見ました」


 あの一瞬。

 倒れたライゼルの周囲で、確かに煌めいた“何か”。

 美しく、そしてあまりに静かな決着。


「でも、それだけでは……」


『ええ。断定はできません』


 セレスティアは、はっきりとそう言った。


『ですが――。

 “王級が行う偽装と同等か、それ以上”の制御があったことは、ほぼ間違いありません』


 その言葉が、静かに落ちる。

 風が吹き、高台の空気が揺れた。


「……つまり」


 ルシアが、慎重に言葉を繋ぐ。


「あの精霊は、“力を隠している”のではなく……」


『私たちですら“認識できない”領域で行使している』


 セレスティアが補足する。


『見せないためではありません。恐らく、壊さないためです』


 アリスが、小さく笑った。


「……なにそれ。めんどくさい人」


 だが、その声に嫌悪はなかった。むしろ、好意的な響きすらある。


「でもさ」


 アリスは、演習場の出口へ歩いていくシオンの背を見た。


「そういう人ほど、放っておいても面倒に巻き込まれるのよね」


 アリアは、その言葉に否定も肯定もしなかった。


「彼が“静かにいたい”と願うなら」


 ゆっくりと、そう口にする。


「なおさら――

 世界は、彼を試すでしょう」


 セレスティアは、最後に一言だけ付け加えた。


『そして次は、彼自身が“選ぶ”番です』


 高台の上で、王級たちはそれ以上語らなかった。

 だが全員が、同じ結論に辿り着いていた。


 ――もう、偶然ではない。

 彼は、確かに“舞台の上”に立ってしまったのだ。



 【序列第四位】アストラ・ノーグ。


 この男もまた、別の場所で先の戦いを見守っていた。


「彼、なかなかやるっすねぇ! 確信したっす。近いうちに必ず、自分っちと戦うことになるっすよ!」


「そうですね。その時は君の力を存分に発揮するといいでしょう。その時には、君の序列はさらに上がっているかもしれませんがね」


 アストラの横には、『生徒会』と書かれた腕章をつけた男が一人。

 上級生の威厳を纏い、静かにアストラを見下ろしている。


「何言ってんすか。これ以上上がるってことは、あの王級達が相手ってことっすよね? 自分っちには荷が重すぎっす。今の位置で十分っすよ」


 アストラはひらひらと手を振った。


「次期生徒会メンバーになるであろう君には、もっと向上心を持ってもらいたいものだが……まあ、気持ちはわからなくもない」


「いくら自分っちが『複数の精霊と契約してる』っていっても、上級と王級ではえらい違いっす。そんな壁の厚さは、現生徒会メンバーである先輩が一番知っているでしょう?」


 軽い表情で会話をするアストラの顔が、一瞬だけ暗くなる。

 それに気づいた男は、それでも気にせずに話を続けた。


「そうだな。我々には理解のできない領域だ。だが、君であれば或いはとも思ってるのだがね」


「買い被りすぎっすよ。まぁ、でも……」


 アストラは一拍置いて、小さく呟くように視線を演習場へ戻した。


「彼なら、有り得るかもっすねぇ」


 その瞳は、楽しそうに、けれど値踏みするように、9位の少年を捉えていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ