表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/126

18



 雷が唸っていた。


 目の前で、【雷帝・ヴォルティノーグ】が動くたびに、空気が焼けるように白く発光する。

 巨大な剣が振り下ろされるたび、演習場の結界が悲鳴を上げてきしむのが分かった。


(……派手だな)


 そんな感想が、最初に浮かんだ。


 正直に言えば、危機感は薄い。

 当たれば危ないのは分かる。あの出力なら、人間なんて消し炭だろう。


『自分に攻撃が来ないからって、余所見してる場合じゃないわよ、シオン』


 足元で、金色の猫――ディアナが跳ねる。

 雷の斬撃を、紙一重で避けながら、まるで午後の散歩でもしているみたいな軽さだ。


「分かってる。でも……」


(この程度で、ディアナがやられるわけないだろ)


 雷帝の一撃が地面を抉る。

 砂が爆ぜ、衝撃波がシオンの髪を揺らす。

 それでも、ディアナはペースを乱さない。


『……ほう』


 不意に、低く、重い声が脳内に響いた。

 雷帝・ヴォルティノーグだ。


『貴様、精霊にしては妙だな』


『あら。分かる? さすがは名のある精霊さんね』


 ディアナの声は楽しげだった。


 雷帝の剣が、再び振り下ろされる。

 ディアナは跳ね、回り込み、雷の軌道をわずかに“撫でて”ずらす。

 真正面からは受けない。相殺もしない。

 “触る部分の事象だけを消している”。


『アナタも、なかなか面白いわね』


『……我と同属性かと思ったが』


 雷帝の声が、わずかに低くなる。


『属性が曖昧だ。いや……意図的に消しているな?』


『さて、どうかしらね?』


 ディアナは、雷帝の肩口をすり抜ける。

 豪雷が空を切る。


『まぁ、よい。ここまで対等に渡り合える相手は久方ぶりだ』


 雷帝の大剣に魔力が集中し、太陽のような魔力球となってディアナに襲いかかる。


 だが、それすらディアナには届かない。

 猫パンチひとつで、魔力球は霧散した。


『よく捌くものだ。やはり久方ぶりだぞ。この高揚感は』


『光栄ね。ならこちらからも仕掛けさせてもらおうかしら』


 ディアナから、黄金の魔力が溢れ出す。

 しかし、会場全体がその「本質」に気づく前に、膨大な魔力は一瞬で萎んでいく。


『いや、どうやらここまでのようだ』


 雷帝の声が、重く、残念そうに響く。


『我が主人は、貴様の主人より未熟者でな』


 その言葉に、ディアナは一瞬だけ動きを止めた。

 視線の先には、肩で息をするライゼルの姿がある。


『……よくわかってるじゃない。アナタのことは嫌いじゃないわよ。また機会があったら戦いましょ』


 楽しそうに、嬉しそうに。それでもどこか寂しそうに。

 ディアナは全てを察した顔をして、雷帝に告げる。


『貴様の名を聞こう』


『ディアナよ。大切な名前なの。しっかり覚えておきなさい』


 その言葉を受け取ると、雷帝はニヤリと笑みを浮かべ……。


 ――フッ、と忽然と姿を消した。



(……? どうしたんだ?)


 唐突な雷帝の消滅に、シオンは首をかしげた。


『次は私たちの番よ、シオン』


 察したディアナが声をかける。


 雷帝は強かった。

 ディアナが負けることはないだろうが、あれだけの出力を維持するのは相手の術者――ライゼルへの負担も大きいはずだ。

 あれだけ派手にやってくれれば、いろんな誤魔化しも効くだろうが……。


 目の前に立つライゼルの手には、先ほどまで雷帝が振るっていた大剣と同じものが握られていた。


「ディアナ」


 その声に、ディアナがふっと視線をこちらに向けた。


(楽しそうだな。これだけ相手も強そうだしたまには自由にさせるか)


「……壊さない程度にな」


『あら、でもアナタに向かってきているわよ?』


「へ?」


 シオンはディアナに指示を出したが、それとは裏腹にライゼルは、ふらつく足取りでシオンの方へ向かってきていた。


「直接やってやる……!」


 ライゼルが、大剣に魔力を集める。

 一気に決めに来る構えだ。


 だが。


(……遅い)


 シオンは眉をひそめた。

 さっきまでの雷帝の速度を見た後だと、止まっているようにすら見える。


 シオンは、ライゼルの大振りをステップのみで軽く躱す。


(随分と遅いな。舐められているのか?)


 シオンには、ライゼルが限界ギリギリで動いていることなど知る由もない。

 ただ「急に動きが悪くなった=手を抜いている?」と勘違いしただけだ。


 それでもライゼルは魔力を絞りだし、大剣に最後の一撃を込める。

 気迫だけは凄い。


 しかしその剣でさえ、シオンに届くことはなかった。


 体勢を崩したライゼルの懐へ、どこからともなくディアナが現れた。


『おやすみなさい』


 誰も聞こえぬ速度で詠唱を終えたディアナの魔術が発動する。

 誰にも見えぬ速度で。

 攻撃に備えてガードを上げるライゼルの腕をすり抜け、直接意識を刈り取る一撃。


 パァンッ。


 光が弾けた。


 ライゼルも、会場のギャラリーも、何が起きたかわからないまま戦いは決着した。

 ほんの一部を除いて。


 ライゼルは糸が切れたようにその場に倒れ込み、地面に突っ伏した。

 その背中の上で、光の粒子がキラキラと煌めいていた。


「勝者、シオン!」


(え? 終わり……?)



 教師の声が響く。

 雷の匂いが、ゆっくりと薄れていく。


 ディアナは着地すると、何事もなかったように毛づくろいを始めた。


『まぁ、ほどほどに楽しめたわ』


「……それはよかったな……」


 倒れているライゼルを見下ろし、シオンは複雑な気分になる。

 結局、何がしたかったんだろう、この人。


『雷帝は、悪くなかったわよ』


 ディアナは、ちらりとライゼルの方を見る。


『あの精霊……ヴォルティノーグ。とても良いわ』


「気に入ったの?」


『少しね。でも――』


 ディアナは、僕を見上げた。

 金色の瞳が、嬉しそうに細められる。


『私は、シオンのことが一番大好きだから』


 それだけ言って、尻尾を揺らす。


 周囲のざわめきが、遅れて戻ってくる。

 視線が集まる。

 評価が、疑念が、興味が。

 さっきまでとは比べ物にならない熱量で、9位の席を見ている。


(……やっぱり、静かにはいかないか)


 そう思いながら、シオンは一度だけ深く息を吐いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ