↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/255

お嬢様 『声の記憶』

 紅葉に染まる山道に、黒いライダーの残した排気音がこだまする。

 その姿が闇に溶けて消える瞬間、彩の胸に鋭い何かが突き刺さった。


「……あの声……」


 たった一言。

 ヘルメット越しの、かすれた声。

 それだけで、忘れようとしてきた幼い日の記憶が呼び覚まされる。


「彩、お前はきっと自由になれる」


 耳の奥に残った言葉。

 あの頃、幼い心を震わせた響きが、まるで昨日のことのように甦る。


「まさか……そんなはず……」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 だが胸の奥のざわめきは止まらない。

 あれは間違いなく、彩の初恋と重なる声だった。


 紅葉の下、震える指先を見つめながら、彩は静かに確信する。


 ――過去は、まだ終わっていない。


 雨に濡れた坂道。

 激しい接戦の最中、森の奥から数頭の鹿が飛び出した。


「わっ!」


 梓が咄嗟にブレーキを握る。

 彩も雅も反射的にラインを外し、濡れた路面に神経を尖らせる。


 《紅の監視者》の一人が無理に突っ込み、車体が大きく揺れた。

 全員が速度を落とし、接触を避ける。


 雨粒がライトに反射し、視界が滲む。

 全員が停止し、呼吸を整えた。


 その静寂の中、低い声が耳に届く。


「……彩。まだ、自由を夢見ているか?」


 胸が大きく揺れた。

 振り返る。

 だが、黒いライダーの姿はもうない。


 極限のバトルは、自然の混乱によって一時的に幕を下ろした。


 濡れたマシンを押しながら、三チームは峠の小さな広場へ集まる。

 互いの無事を確かめ、緊張がゆるやかに解けていった。


「ふぅ……やっと止まれたわね」

 雅が小さく息をつく。


「危なかったけど、みんな無事で何より」

 梓も静かに笑う。


 仲間たちの空気は和らいでいく。

 だが彩だけは、その輪の中で心ここにあらずだった。


 胸の奥がざわつく。

 黒いライダーの声が、何度も反響している。


 幼い頃の自由への憧れを呼び覚ました声。

 そして、初恋の面影と重なる声。


「彩さん? 大丈夫?」


 エマの優しい声に、彩は咄嗟に笑みを作る。


「だ、大丈夫。ちょっと……疲れただけです」


 言えない。

 あの声のことも。

 初恋と重なった感覚も。


 誰にも。


 缶コーヒーを両手で包み込み、湯気の向こうを見つめる。

 仲間の笑い声が、どこか遠く感じられた。


「……でも、どうして……」


 小さな呟きは雨音に溶ける。

 心の中でだけ、過去と現在の間を揺れ続ける。


 雅はふと彩を見た。

 わずかな違和感。

 しかし深くは踏み込まない。


「彩さん、何か心配事があるみたいですね……?」


 エマがそっと肩に触れる。

 彩は一瞬だけ視線を揺らし、微笑んだ。


 ――まだ言えない。


 だが黒いライダーの存在が、単なる過去の記憶ではなく、

 これからの戦いにも影を落とすことを、彩自身は理解していた。


 小さく息をつく。


「……絶対に、負けられない……」


 まだ誰にも明かせない想いを抱えたまま、心を整えていく。


 やがて雨脚がわずかに弱まった。

 雅が静かに声をかける。


「そろそろ行きましょう」


 全員が頷き、再びマシンへ跨る。


 彩もハンドルを握る。

 深く息を吸い、胸に残るざわめきを押さえ込む。


 だが――


 走り出して間もなく、彩は口を開いた。


「……私、実は……」


 並走する梓とエマ、そして雅が視線を向ける。


「さっきの黒いライダー……

 幼い頃の私の初恋の人と関係があるかもしれないの」


 一瞬の沈黙。


 だがすぐに、空気は柔らかく変わった。


「なるほど……だから動揺してたのね」

 エマが微笑む。


「言ってくれてありがとう」

 梓が頷く。


「私たちは一緒よ」

 雅の声は穏やかだった。


 胸の重さが、ほんの少しだけ軽くなる。

 完全ではない。

 それでも、ひとりではない。


「うん……ありがとう」


 雨に濡れた峠道を、再び走り出す。

 彩の胸に新たな決意が芽生えていた。


 黒いライダーと向き合うこと。

 過去と向き合うこと。

 そして仲間と共に進むこと。


 それが今の自分の走りだと、はっきりわかった。


 ライトが闇を裂く。

 雨粒が弾ける。


 その先に、再び現れるであろう黒い影。

 運命の再遭遇まで、もう遠くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。