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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『1.2秒の革命』

二週間後の早朝。 多摩川沿いの小さな町工場のシャッターが、ゆっくりと開いた。


その前には、地元の人々と報道陣、そしてアルテミスの面々が静かに集まっていた。 かつて不法占拠され、荒れ果てていた工場は、今や白く塗り直された壁と新しい看板に彩られ、 まるで眠っていた魂が目を覚ましたかのようだった。


「中山精機工業」

白地に青で刻まれたその文字は、再生と希望の象徴だった。


咲は、初めて袖を通した工場の制服に身を包み、誇らしげに立っていた。 その姿を見つめながら、誠吾は目頭を押さえた。


「……夢みたいだ。昔は手作業ばかりだったのに……今は、こんなにも……」


芙美子がそっと微笑む。


「あなたが諦めなかったからよ。そして、彼女たちが支えてくれたから」


工場がわずか二週間で再稼働できたのは、アルテミスの全面的な支援があったからだ。


まず、麗子のメガバンクが資金調達を保証した。 通常なら担保や保証人が必要なところを、今回は誠吾の“技術力”そのものが信用の証となった。 銀行がそれを認めたのだ。


宗子の木田技術開発は、最新鋭の工作機械を提供した。 日本の精密加工は、町工場の熟練技術者たちが支えている。 だが、世界と戦うには、機械の力も必要だ。


老朽化した建屋は、琴音の父が率いるゼネコンが採算度外視で補強。 安心して働ける環境が整えられた。


そして梓のITチームが、工場の生産ラインを完全デジタル化。 効率と安全性を両立させる、未来型の町工場が誕生した。


誠吾は再び目を潤ませながら、工場の奥で動き出した機械の音に耳を澄ませた。


「……これなら、夢のマフラーが作れる。いや、絶対に作る」


芙美子がそっと寄り添い、言った。


「あなたが諦めなかったからよ。そして、彼女たちに恩を返さなきゃね」


開所式のあと、雅が短くスピーチを行った。


「この工場は、一つの家族の希望であると同時に、日本の技術力の象徴です。 二度と、誰かの私利私欲によって奪われることのないよう、私たちも見守り続けます」


式典が終わると、咲が駆け寄ってきた。


「私、夢ができました。ここで働きます。 父の技術を受け継いで、もっといい部品を作って、皆さんのバイクを走らせたい!」


その横で誠吾が愛娘に語ったことが印象的だった。

「……俺たちの手がなきゃ、機械は動かない。 でも、俺たちの手だけじゃ、世界とは戦えない。 だからこそ、こうして一緒に未来を作っていくんだ」


「素敵ですわ、咲さん。必ず夢は叶います」

そのまっすぐな瞳に、エマが思わず抱きしめる。


梓が笑いながら言った。


「じゃあ、次のレースには君の部品が必要だな」

咲は顔を真っ赤にして笑った。


工場の奥で、新しい機械が低く唸りを上げる。 誠吾がその手で削り出した、最初の試作品、マットブラックのマフラーを掲げる。


「これは、新しい一歩だ。必ず世界に通じる技術になる!」


拍手と歓声が広がった。 中山工場は再び動き出し、やがてアルテミスの走りを支える拠点となっていく。


数日後。熱海のレーシングサーキット。

残暑の残る午後、咲と誠吾、芙美子が息を呑んで見守っていた。


そこに並ぶのは、アルテミスとルナゴスペルのマシンたち。 それぞれの車体に、黒く輝く新型マフラーが装着されている。


最初に火を入れたのは、美奈子。 彼女のマシンから、澄んだ高音がサーキットに響き渡る。


「……これが新型の音か。切れ味がすごい」


千秋や沙耶香も、思わず目を見張った。


続いて梓がスロットルを開ける。 レスポンスは即座に反応し、ピットクルーから歓声が上がる。


「ふふ、私のデータ通り……いや、それ以上。 これは、あのヨシムラやモリワキを超えてるかも」


雅と美奈子を先頭に、14台のマシンが一斉にコースイン。 スタート直後から、マフラーの性能が生み出す加速の違いがはっきりと現れた。


「中低速のトルクが段違い。スムーズに伸びていくわ」麗子が呟く。


「軽量化の効果で、コーナーの立ち上がりが速い!」宗子が応じる。


「ちょっと、今までの感覚と全然違う! マシンが生きてるみたい!」千鶴が叫ぶ。


観覧席で咲は立ち上がり、涙を浮かべながら走行を見つめた。


「……すごい、あれが……私たちの工場の技術……!」


ストレートで雅と美奈子が並ぶ。 一瞬、視線を交わし、スロットルを深く握る。


ブォォォン――!


新型マフラーの音が、まるで雷鳴のようにサーキットを震わせた。


雅がマシンを止め、ヘルメットを外して咲に向かって言う。


「完璧です。あなたたちの技術は」


美奈子も笑って加えた。

「これなら、レースの歴史を塗り替えられるぞ」


涼子が驚いたように言う。

「これ、本当にあの町工場が作ったの? もう最高!」


ひなたが胸に手を当てて呟く。

「バイクの鼓動と、自分の鼓動が重なる感じがする……!」


玲奈がにっこり笑って言った。

「これを本番で使ったら、間違いなく伝説になるね」


誠吾は深く息を吐き、涙ぐみながら呟いた。


「……工場を守って、本当に良かった。この音、この走りが……俺たちの誇りだ」


芙美子が咲を抱きしめる。


「咲、見てごらん。あなたの努力が、こんなに大きな未来を動かしたのよ」


咲は声を震わせて答えた。


「……アルテミスさん、ルナゴスペルさん……! 本当に、ありがとうございます!」


その声に応えるように、14台のマシンが次々とピットに戻ってくる。 ライダーたちは次々と咲の前に立ち、無言で親指を立てた。 その仕草に、咲の目から涙がこぼれ落ちる。


最後に雅が一歩前に出て、静かに宣言した。


「このマフラーは、次の決戦で必ず使わせてもらいます。 これは日本の技術、そして君たち家族の誇りの象徴です」


「いやぁ、すごかったな……」 美奈子が肩で息をしながら呟くと、梓がすかさずデータパッドを掲げる。


「全員のラップタイム、平均して1.2秒短縮。 中低速域のレスポンス改善が大きいですね。それに、この軽さ……」


そこへ、中山一家が駆け寄ってきた。 誠吾は帽子を取り、深々と頭を下げる。


「皆さん、本当に……ありがとうございました。 自分たちの部品が、こんな走りに繋がるなんて……夢のようです」


梓は国際便の管理画面を開きながら、静かに呟いた。


「日本国内だけじゃない。世界の舞台で証明してもらおう。 中山マフラーは、それに値する」


その言葉通り、試作品は世界各地の師匠レーサーたちのもとへと送られた。


カターニャのサーキットでは、マルケス師匠がマフラーを装着し、テスト走行を終えると動画を送り返してきた。


「信じられない! 排気効率の改善がこれほどスムーズに加速を繋げるとは…… 日本の小さな工場が作ったとは思えない、ワールドクラスの部品だ」


フィレンツェ近郊の山道では、アントニオ師匠が満面の笑みで語る。


「音が美しい! ただ速いだけじゃない、魂を震わせるエンジン音になった。 これは芸術品だよ。次のデモランで必ず使う!」


そして、ドイツ・ニュルブルクのテストコース。 ベグナー師匠は厳しい表情で短く言った。


「……完璧だ。24時間の戦いでも、このマフラーなら耐えられる。 本番で使えば、世界中が欲しがるだろう」


アルテミスとルナゴスペルのメンバーが集まった部屋の大スクリーンに、 世界各国の師匠たちから届いた動画メッセージが次々と映し出される。


「日本の技術者たちよ、誇れ!」


「技術は国境を越える。君たちがそれを証明した!」


「次の世界選手権、必ず注目されるだろう」


その映像を見つめていた中山一家は、言葉を失っていた。 誠吾は震える声で、ぽつりと呟く。


「……俺たちの工場の部品が……世界の頂点で認められた……」


雅はゆっくりと立ち上がり、全員に向けて言った。


「これで決まったわね。このマフラーは、日本だけでなく、世界の希望になる」


アルテミス、ルナゴスペル、中山一家、そして遠く離れた師匠たち。 その絆が、一本の“排気音”で繋がった。


それは、ただの部品ではない。 技術と誇り、そして未来を走らせる。新たな戦いの布石だった。 


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